ポルトガルリベンジ2023①
2022年も暮れようかという頃、義父から連絡があった。
最後に義父に会ったのは、パンデミアの前。
でも、ポルトガルなんてスペインからすると外国だし、遠いじゃないか。
以前の私ならそう思っていたが、実はポルトガルはアンダルシアの隣だ。
そのため、大抵のアンダルシア人にとっては、マドリードやバルセロナに行くよりもポルトガルに行く方がずっと近い。
そんなわけで、2月下旬にエストレマドゥーラから帰ってきた我々は、数週間後、ポルトガルに向かうことになった。
普段、日本に帰る以外、旅行というものをほとんどしないため、数週間という間隔で2度の旅行に出かけるなんて、それこそ盆と正月が一緒に来たようだった。
◆
さて、ポルトガルといえば、10年ほど前に一度行ったきりだ。
当時はアンダルシアからバスで向かった。
旅行中の義理の両親と現地で待ち合わせたのを覚えている。
当時、私は風邪気味だったのか何だかわからないが、リスボンに到着するころには熱っぽく、翌日から5日間のほとんどをベッドで過ごした。
最終日近くになって散歩に出かけたら、スリにあった。
(義父と夫のおかげで戻ってきた!)
そんなわけで、私にとってのポルトガルといえば、ホテルで毎日食べたゼリーとスリの思い出しかない。
今回はリベンジだ。
よい思い出をつくってみせる!
◆
出発当日は、夫の仕事が終わってからアンダルシアを出た。
義父がポルトガルに到着するのは夕方。
Louléという町に宿をとった。
ホテルで待ち合わせのため、この日は夜までに到着すればよかった。
ただ、いくら近いとはいっても半日ぐらいかかる。
小腹が空いたときのために手作りボカディージョを持参した(もはやこればっかり)。暗くなる前にポルトガルに入りたかったので、休憩はいつもの半分の回数だ。道中の写真もほとんど撮っていない。
途中、サービスエリアのようなところで、Virgen del Rocíoのマグネットを見かけた。帰りに時間があったら買いたい。
夫は、ウエルバ産のワインをじっと見ている。
「欲しかったら、今買ってもいいよ」
「いえいえ、今はまだ買いませんよ!ポルトガルから帰る時にウエルバのワイナリーに寄りたいんです。サービスエリアよりも、そこで買うほうがいいに決まっていますから!」
ああ、また始まったんだろうか。
私はエストレマドゥーラのチーズ騒動で懲りている。
夫はワインの写真をささっと数枚撮り、足早に車に向かった。彼の中では、ポルトガル帰りにウエルバに立ち寄ることが早くも決まったようだ。
2週間前と何ら変わっていない気がするが、私は放っておくことにした。
サービスエリアを出た我々は、ポルトガルに向けて車を進めた。
夜には全然間に合いますよという夫の言葉とは裏腹に、ポルトガルに入ろうかという頃にはもう夜9時を過ぎていた。
全然間に合ってない。
お義父さんがホテルで待っている。
ポルトガルに入ると、街並みが変わった。
ナビの設定がおかしかったのか、山道が続く。
街灯もない。
こんなところ車が通れるのかという一本道を行く。
ぐねぐねのカーブの脇は崖だった。
「いーやーーーー!!」
「下を見てはいけません!ナビを見てください!」
とにかくゆっくりゆっくり運転してもらい、何とか山道を抜けることができた。
だんだん街が近づいてきた。
車の時計を見ると、9時とある。
どうしたことだろう。
さっきポルトガルに入る前には9時前だった。
こんなに長いこと山道を走っていたが、実際には5分ぐらいしか経っていななかったのか。
まあでも、思ったよりも早く到着できそうでよかった。
そう思っていたら、しばらくして夫が気付いた。
「ポルトガルとスペインには時差があることを忘れていました…」
なんと、国境を越えた時点で、1時間の時差ができていた。
スペインの9時はポルトガルの8時だった!
自分たちのばかさ加減に呆れるやら、おかしいやらで、笑いが止まらない。
しかし、たくさん笑ったおかげで、疲れがとれた。
その後、ポルトガル語の表示がわからず、ラウンドアバウトもスペインと違うため、何度か道を間違え引き返した。
ホテルに着いたのはポルトガル時間の夜10時過ぎ、スペイン時間の夜11時過ぎだった。
◆
「お父様がお待ちかねです」
よれよれの私たちを前に、受付のお姉さんが笑顔で教えてくれた。
部屋に荷物を置き、手を洗っていると、義父がやってきた。
数年ぶりの再会は、なかなか感動的だった。
「なんだ、君のその髪型は」
だけは余計だった。
ちなみに、義父と夫は性格がとても似ている。
夫を朝型にして、運動好きにしたら義父になる。
そんなわけで、義父もよく笑いよくすねる。
つまり、まあまあめんどくさい。
そして、いつからかわからないが
義父と私はあいさつ代わりに軍隊式敬礼をするようになった。
意味はよくわからない。
でも、敬礼がばしっと決まった時はちょっと気持ちがいい。
「お久しぶりです!」
「よく来たな!」
「お変わりありませんね!」
「行ってきます!」
「気を付けたまえ!」
「息子の尻を叩いてやってくれよ!」
「任せてください!」
そんなやりとりが互いの敬礼にこめられているのだろうと勝手に想像している。
今回、数年ぶりの敬礼をしたら、会えなかった3年間のことを思い、あたたかい気持ちになった。
夜も遅かったので、その日は挨拶もそこそこにベッドに入った。
翌朝は7時にホテルの朝食会場に集合することにして。
◆
翌日、6時ごろ目が覚めた。
この週、ポルトガルはアンダルシアよりも寒いと聞いていたので、厚着をしてきてよかった。
さあ、朝食だ!
パンデミアになってから、屋内のレストランで食事をするのはこれが初めてだった。外とつながっている広い部屋で、窓も開いていたのでほっとする。
この朝食が素晴らしかった!
10種類以上あるパンの中からどれを頂こうかと迷うところから始まり、お肉、魚、野菜、卵料理、チョリソ、チーズ、ヨーグルトなど、あらゆるものがそろっていて興奮した。フルーツも新鮮、スウィーツも10種類ぐらいある。
何を食べてもおいしい。ケーキはスペインみたいに甘すぎない。
早くもポルトガルのすごさに驚く。
「朝からこんなに食べたら、お昼ごはん食べられなくなっちゃうかなあ」
義父が言う。
夫も満足そうだ。スウィーツのおかわりをしにいっている。
結果的に、3人とも毎朝食べすぎて、お昼ごはんの時間になってもなかなかお腹が空かない日々が続いた。
義父を見ると、パイナップルジュースで薬を飲んでいる。
「Dadさん!(英語と日本語の両方をとり、こんな呼び方になっている)まさか、ジュースで薬飲まれましたか?!」
「え、だめ?」
上目遣いのようなことをしているが、私は騙されない。
その後、義父と夫が近況を報告しあっているのをコーヒーを飲みながら聞いたり聞かなかったりした。
3年ぶりの再会、お互い嬉しそうなのでよかった。
朝食後、お腹がいっぱいになった私たちは、散歩に出かけることにした。
「ずっと聞きたかったんだけど、これ何?」
義父が財布から取り出したのは、ヤサカクルーズと書かれた四つ葉のクローバーのシールだった。
あれは10年ぐらい前のことだろうか。京都でタクシーに乗ったとき、もらったものだ。
「持っていたらいいことあるかもしれませんよ!」
とでも10年ほど前の私は言ったらしい。
それからずっと義父は律儀に財布にいれてくれていた。
「今からどうしようこれ、唐草?」
「とりあえず、また財布に入れておいたらいいと思いますよ!」
また適当なことを言う私がいる。
そんなわけで、振り返りはじめたはいいが、旅行の話なのにちっともポルトガルの写真が出てきていない。
しかし、今回は3人旅なので、もう少しちゃんと旅行の形になっているはずだと思いたい。
つづく
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