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闇の中で

冷たい部屋に、ぷつん、とアルミ箔がやぶれる音が響く。
これは、よく眠れる薬。夢を、見ないようにする薬。
ぷつん、ぷつん。
これは、不安を抑える薬。生きる恐怖を、消してくれる薬。
ぷつん。
これは、排卵をとめる薬。生まれ持った女体を管理する薬。
ぷつん、ぷつん、ぷつん。
これは、左目の下にできたシミを消す薬。死に向かう身体を、少しとどめてくれる薬。

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二人分の温もりが残るベッドの中で、彼女がかさかさと薬箱をいじる音を、聞く。
プラスチックの薬のシートが擦れる音、硬い錠剤が床を転がる音、コップに水が溜まる音、蛇口を閉める音、たくさんの薬が手の中を移動する音、びっくりするほど大きな嚥下の音が3回。
足元にすこし冷たい空気をまとい、彼女がベッドにもぐりこむ。
マットレスが軋む音、布ずれの音。
彼女は両手で私の左手を包み、すぐに小さくいびきをたてる。
生きている音がする。

#短編 #小説 #恋愛小説 #レズビアン

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