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錦秋十月大歌舞伎『天竺徳兵衛韓噺』で秋単衣の着物ウォッチング

舞台美術のカエルにも、注目!!

『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』の舞台は、室町時代。序幕の二番は、佐々木桂之助(ささきかつらのすけ)のお家騒動。彼が窮地に至るまでの経緯、すなわち、足利将軍の宝剣が盗まれる場面である。

北野天神の鳥居の前に、宝剣の見聞のためのメンバーが集まって来る。豊後国の若殿で、刀の管理者である桂之助、本日の段取り役、刀の見聞役とその家来、蛇使いの大道芸人のふりをした怪しい人物。そして、桂之助かいると聞いて、こっそり、会いに来た姫君・銀杏の前。

男達は『VIVANT』並に、裏の顔を持っている。桂之助の足をすくおうと、チャンスを狙っているのだ。吉良殿がそうだったように、彼らは桂之助に失敗して欲しいわけだ。そして、刀を狙う。一方、桂之助は二本の偽の刀を用意して、見聞役を試そうとするが、そんな策も虚しく、刀は櫃(ひつ・足の着いた長持ち)の中から消えている。桂之助、あまりに、不甲斐ない。『土蜘蛛』のように客人を向かい入れたら、コワイひとが来ちゃったよのパターンでなく、ハメられに行ってしまうというパターンだ。キーマンは蛇遣いの方らしい。加えて、桂之助と適役が櫃を挟み、向かい合っての芝居なので、余計に良く見えない。私には、話を追うのが精一杯だった。

そのせいか、桂之助が吉岡宗観(よしおかそうかん)の邸宅にお預かりの身になっても、「あーあ」とも「気の毒に」とも思わず、私はキョトンとしていた。

そこへ、松緑さんの徳兵衛が現れて、沖縄の土産話で客席を笑わせ、置いてきぼり感のある重い空気がやや、和む。桂之助が奥へ消えると、宝剣の所在が明かにされ、あっという間に、宗観とのおどろおどろしい場面となり、挙句、屋台崩しで現れた蝦蟇(がまがえる)が、アートっぽくて、素敵。カエル、気持ち悪いけど、素敵。なのである。

立ち回りでは、赤い四天(よてん)姿の捕手(とりて)達の、まるで、群舞のようなトンボ(宙返り)や、ラストの引っ込みでの松緑さんの六法(カエルだった)もたっぷり見られて、嬉しかった。#舞台感想

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