夏着物で恥かいた話
ある日の着付け教室。
夏着物といえば、上布とちぢみ、麻の着物だ。私は昨年、ひょうたん堂で購入した麻のちぢみを冬の間に馬喰町の駅チカの問屋さんに頼んで、サイズ直しして貰った。サイズ見本として、長襦袢も一緒に預かってくれたので、ピッタリに仕上がった。和装バッグにそれらを詰めて、いそいそと着付けのお稽古に。
「先生、私『美しいキモノ』を見たんです!」
2024年春号の『美しいキモノ』の巻頭特集は、別荘ライフを着物で楽しもうという企画。道中から、滞在先でのお呼ばれまで、シチュエーション別に夏着物のコーデの提案が並んでいる。モデルは上戸綾ちゃん。グッチのスーツケースと地色を合わせた越後上布は、袖が膨らんでいて、およそ20センチある袖口の下部に手首があり、そのせいで袖丈が合っていないように見えた。
「上戸綾ちゃんの着物の袖、ヘンじゃありませんでした?」
先生はエッという顔をした。少し、考えて
「ヤダァ」
先生は笑って、言った。
「袖口に隙間があるから、涼しいんじゃない」
そして、帯に挟んであった扇子を広げ、ご自身の着物の袖口を仰いだ。扇子を借りて真似てみると、確かに気持ちがいい。袖口から脇まで、風が入ってくるのだ。
「ホントだ。涼しい」
とんだ恥をかいたが、そうだったんだと、納得。
さて、こちらの木下着物研究所のYouTube動画の後半にも、麻の着物の膨らみが気になる人へ、アドバイスがあった。
私の先生からは「袖が気になるなら、肘で挟んで立つべし」との実用的アドバイス。レッスンでは、自宅で練習した時におでんのはんぺんみたいに膨らんでいた麻の着物が、先生の細かな手直しで、襟を開いた夏の着姿に。
ちなみに、目下の着物コーデをまとめると、私は「はんなり」が気恥ずかしく、それでも、長唄三味線を習っているので「古典柄」に強い執着があり、「グラフィックな柄」は好みだが「洋風」厳禁。総じて、地味好み。苦手な帯揚げの色を着物or帯の色に馴染ませて、上達しつつある帯締めの方を目立たせる。これが私の二年目の着物コーデ。
で、それに対する先生の「お世辞」は「粋」とか「こなれた感じ」が多いのだけれど、人格は真逆で、もはや、コスプレ級。縞のちぢみを着ていても「お付きの玉ちゃん」にならずに「涼子さま(朝ドラの『虎の翼』に出ていた華族のお嬢様)」になるためには、お太鼓の正方形が必須なのである。「円居」のお太鼓の作り方は「仮紐」で結び目のお団子がないので、普段は帯を開いた三角の頭で帯枕がずり落ちるのを防いでいるが、麻の帯は張りがあるせいか、いじっている間に帯枕がずり落ちてくる。
ざらざらした麻の帯は、テを背中心まで引き抜くのも大変で、先生にはナイショだが、自宅ではタレを一旦、クリップで留めて、両手でしっかりとテを背中心に整え、また、クリップを外してタレを持ち直し、気合いを入れ直してからタレを折り上げ、仮紐をすることにした。こうした試行錯誤を、スウェットの腰にバスタオルを巻いた麗しい姿で繰り返し、立派なお太鼓が作れるようになった。
そして、ものすごく頑張った気になって、最後にアイロンのスチームを帯にかけて、失敗した後の織りジワを全部、伸ばしてしまった。失敗を無かったことにしたのだ。
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