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どれが好きだか、わからない

私が高校生の頃、セレブ女子の恋と日常を描いた『なんとなく、クリスタル』という本が流行り、ファッションも雑誌『J•J』のキャンパス紹介ページに登場するようなひとと『an•an』や『olive』を丸めて持って歩いているタイプの二派にくっきりと別れていた。

それとは別だけど、着物も友禅などの染めの着物を好んで着るひとと、紬派に別れてしまうそうで、私としては世界文化社とファッション系の着物好きのイメージで、ここにも派閥があるらしい。

で、私が最初に着物を買おうとした場所は、最寄り駅にある駅ビル内の大手チェーンの呉服屋さんで、どこに着ていきたいかを伝えると、黄色の小紋の反物を選んでくれた。好きな色だったので「鏡の前であててみましょう」と、すんなり、着装が始まった。

店長の名札をつけた若い男性と、パートさんとおぼしき着物の女性に挟まれた私が姿見の前に立つと、店長が白い鉢巻に硬い芯をいれたような「嘘つき襟」を首にかけ、パートさんが私の胸の前でそれを合わせ、繋がれた紐をベルトのように腰に結んだ。

店長がスルスルと反物を解き、パートさんがふたつ折りに紐へ挟んで、前掛けのように垂らした一枚を、店長が首まで持ち上げて「嘘つき襟」にぐるりと添わせた。

長い布地が形になっていく様は、見ていておもしろかった。あとは両側に袖を作って、ウエスト部分に帯を折らずにあてたら、おはしょりして隠せば、着物姿の出来上がり。

とは、ならなかった。

ハッと我に返ってしまった。これ、私? なんか、違くない? 

柄が上品というか、私にはまとも過ぎるのである。例えるなら、しっかり者の営業事務の女の子って感じ。美人じゃないけど、字が上手で、計算が得意。そんなイメージだ。

まともからはみ出しがちな私に、相応しいのか? わからなくなった私は、着装を中断して帰ってしまった。似たような事がもう一度あって、二度の失敗で、私は決められないひとになってしまった。

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