感想「甘えの構造」

週末、ちんたら読み進めていた本2冊を読み終わったので備忘録。最近この本を読んでいた。

『「甘え」の構造』(あまえのこうぞう)は、精神科医、精神分析学者の土居健郎により1971年に出版された、代表的な日本人論の一つである。 当初は1950年代に学術雑誌に発表されていたものが、1971年に一般の本として出版されると、ベストセラーとなった。
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「甘え」とは日本人独特の概念の言葉であり、外国で「甘え」を意味する言葉がないらしい。甘えとは親しい二者関係を前提にしており、一方が相手は自分に対し好意を持っていることが分かっていて、それにふさわしく振る舞うことが「甘える」ことである。

「甘え」の「原型」は、乳児の精神がある程度発達して、母親が自分とは別の存在であることを知覚した後に、その母親を求めることを指していう事である。これはどの国でも共通のことだが、にもかかわらず日本語に限ってこの行為を「甘え」と名付けクローズアップしたことで、より日本人の精神面に強い影響を与えることになった。ここに著者は注目し、日本人論を展開していく。

分離の不安を抑止するために「甘え」があるとすると、その後、成人しても慣れ親しんだ場所から新たな人間関係が結ばれる時に「甘え」が発動される。そういう意味で、甘えとは精神上に健康であるためにも必要な役割なのだ。

甘えとは何か、また日本人がそれに自覚的であること、という解説から始まり、「内と外」という日本人独特の関係性や、「ねたみ」「うらみ」への派生、「罪悪感」「被害者意識」と執筆当時(1960年代)の社会情勢と照らし合わせていく。

一番印象に残ったのは、ニューレフト(新左翼。1960年当時の欧米日本など先進国の青年や学生による革命を志向する活動、政治勢力。)を例えに連帯感、罪悪感、被害者意識を論じた部分。半世紀以上も前の話だけれど、現在にも通じる。

今日ニュー・レフトの活動家たちが、いわゆるブルジョア的個人主義的生活に自己満足している現代人の良心をゆり動かし、多くの人たちを参加の行動に駆り立てていることは疑を容れない。(略)連帯があまりに強調されるため、個の独立した価値が見失われる恐れがある。(略)全共闘の学生や教官が一時しきりに唱えた自己否定の論理、すなわち自らの加害者性に目覚め、自らの特権的存在を解体せねばならぬという主張を吟味することによってもっとはっきりするだろう。
「甘えの構造」

簡単に書き直してみると、こころの動きとして

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被害者を見て見ぬふりをしたい気持ちが潜む。しかしこれは加害者に加担すること、自分の特権階級に安住することだと考える。

自分の加害者性を意識し「自己否定」「特権階級の解体」を主張する。ここで被害者を実際に助けるための手を打つのではなく(ここが問題)被害者と捉えている相手と連帯感を持つ(同一化する)ことで、罪悪感を手放すことができる。

こうして自らも被害者となり、見て見ぬ振りをする人をのろったり、積極的に加害者へ攻撃を仕掛けたりする。

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現代は60年代より何倍も言論の場が増えた。そこで見聞きする他者の被害に胸を痛め、知ってしまった以上何もできないことに罪悪感を感じる。個々人で被害や体験を発信することができるSNSはその機会を格段に増やした。

著者はこう論じる。

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同一化による被害的心理は連帯感を求めて意図的に選ばれている。被害的心理自体は苦痛だが、連帯のための選びとられた被害的心理は、苦痛が少ない。そのため、他に危害を及ぼすことや加害者に攻撃的になることも平気になる。

悪は責められるべきものだが、それによって自分の罪悪感が吹き飛ぶようなら問題である。このような罪悪感は甘えに発するものである。道徳の基礎となる罪悪感とは別物である。

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ううむ。我が身を振り返る。
当時の【攻撃的】とは学生運動のバリケードやストライキ、武力闘争まで行った度が過ぎるものなので、現在のSNS上での議論はよっぽど理性的なものである。ただ、一個人を命を絶つほど追い込むのはなんら構造としては変わらないのだろう。

著者は「甘え」という概念を丁寧に説明しているわけで、これを良いとも悪いとも表現していない。あって当然のものであり、様々な心理的動きへ紐づけて説明している。「甘え」という心理に名前をつけた日本人であること、面白いなと思いながら読み終えた。

文中では頻繁に夏目漱石の作品が引用される。恥ずかしながら私は夏目漱石作品を最後まで読んだことがなかった。一番印象にのこった「こころ」を手にとり同時並行で読み進めた。「私」「先生」「K」の親愛、嫉妬、エゴイズムなどの様々な心の動きが凝縮された一冊で読んでいる途中胃が痛くなった。最高傑作と銘打たれる意味がちょっとわかった気がする(小学生並みの感想)。「こころ」の感想はまた今度。


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