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「現代における不幸の諸類型」見田宗介著作集Vより

講座の先生より借りた本。読み終わった後、感想をお話するために読書記録を残しています。

見田 宗介(みた むねすけ、1937年8月24日 - 2022年4月1日[1])は、日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。
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見田宗介さん。大澤真幸さんや宮台真司さんが見田ゼミ出身でもある。大澤さんの著書は数冊読んだけど、見田さんの本を読むのは初めて。

著作集Vの中の1章「現代における不幸の諸類型」を読み終えた。どんなに難しい事が書いてあるか…と構えていたけれどこの章はとても読みやすかった上に、実生活とも結びつけやすかった。

というのも全体にわたって「新聞の身上相談欄から抽出した『不幸』とその登場人物を分析」している(意訳)から。

〈自己疎外〉ー人間が、人間としての本質から疎外されている生き方の状態ーをうきぼりにすると同時に、逆にこの普遍的な状況が一人一人の〈人生〉の問題に、どのような影を投げかけているか、その具体的なみちすじを解明していくことである。
「現代における不幸の諸類型」見田宗介著作集Vより

要は「現代日本人の不幸」には普遍的な因果関係があり、その道筋を明らかにしたいということ。

その研究の仕方も面白い。

1962年の1年間の読売新聞に掲載された304件の身上相談の投書と、そこに登場する468人の主要人物を対象にする。(この論文は1963年に世に出されたもの)

半世紀前なので、今より何倍も家父長制が根強く、また戦後15〜16年の高度経済成長期、カラーテレビ放送やアニメ鉄腕アトムの放送が始まったりと、そんな時代。とはいえ、寄せられる相談の核となる「欠乏と不満」「孤独と反目」「不安と焦燥」「虚脱と倦怠」の大きな四つの形態は現代においても同じ。

これらの形態が各々を代表するいくつかの身上相談を例に分析され、その因果が説明される。たとえば

欠乏と不満

夫が亡くなった母子家庭の悩み。
→夫の死後の生活が保障されない
→親族付き合いのための葬式代がかさんでいる
→テレビの月賦も苦しいがテレビは手放せない

これらは上から順に

→社会的保障の不備
→伝統社会的な田舎の風習
→大衆社会的消費欲求の拡大・平準化

と要因を据えることができる。書中に相関図が丁寧に表され、一見個人的な悩みに見えるものも根本は普遍的な悩みの要因に行き着く様になっている。

「孤独と反目」人任せに結婚を決め、夫が賭博にはまり、離婚するにも子どもを抱えて生活ができないことを吐露する女性 等

「不安と焦燥」一流大学を出たが出世コースから外れ、縁談での出世に望みを託し彼女と別れ、自分は気が弱いのがいけないと反省する青年 等

「虚脱と倦怠」長年勤倹な公務員として働いた夫とひたすら家を守った妻。家も買い生活が安定したころ夫が他所の女性と出かけるようになり気を病む女性 等

悩みに答えるのは趣旨ではないため、同情を寄せることなく淡々と要因を並べ分析する調子がかえって世の中の歪さや、改善すべき点を浮き彫りにしてくれ、歯切れが良かった。

ただ、社会から押し付けられた価値観に沿って生きることで、自らの幸せの軸や価値観を失い、それらがいかに人を不幸に、疎外感を味わせることになるか、半世紀も前からこうして示されているのに変わることのできない私たちとは…という、いたたまれない気持ちに。

ともあれ、続きの章が楽しみです。