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お花見狂想曲

いよいよ、桜が咲いて、いぬうた市に、
初めての日曜日がやってきました。
となると、ここはやっぱり、ママと飼い主は当然のように、
お花見を企んで、そして御多分に洩れず、
きゅん君と、ぐーちゃんも、強制的に参加させられて、
どうやら今しがた、やっとこさ自宅に帰って来たようです。
どうでしたか?
お花見は楽しかったですか?
「どうもこうもないよ。どこもかしこも人だらけで、あれってどこが楽しいのさ?歩きづらいわ。子供は駆け回っているわで、お花見と言いながら、誰も桜なんて見ていないじゃないか!」
あらら。きゅん君がずいぶんご立腹で、
お花見の感想を述べました。
これは、きゅん君には不評だったようです。
ぐーちゃんも続けて言いました。
「きゅんの言う通りね。あれはお花見ではなくて、お人見よ。人ばっかりで、桜さんもお人見して呆れているわ」
上手いことを言いますね。ぐーちゃん。
でもその通りかもしれません。
特に体高の低い、わんこにとっては、
あの人混みは酷な環境ですよね。
そんな感じで、もうお花見はこりごりな、
きゅん君と、ぐーちゃんですが、飼い主は、
ふたりの気持ちはお構いなしのようで、
また、次の休みも、お花見にいそいそと出かけるのでした。
当然のように、ふたりも連れて。
「えー!マジ勘弁なんだけど!」
きゅん君は思春期の子供みたいな口調で言いました。
「ぐー、お花を見るのは好きだけど、お人を見るのは、もうたくさんよ」
ぐーちゃんも行く前からゲンナリしています。
ふたりの気持ちに全く気付かない飼い主は、
喜び勇んで、
ふたりをつないだリードを持って、家を出ます。
ママが一緒なのが、ふたりにとっては、唯一の救いですが、
それでもユーウツなことには変わりません。
ただ人混みが凄いのは、いぬうた公園に入ってからですので、
それまでの道のりは普通に楽しい、ふたりです。
いぬうた公園に通じる川沿いにも、
桜がいっぱい咲いています。
ここでは通りかがる人々も桜のキレイな様を、
皆、めいいっぱい楽しんでいるように見受けられます。
その様子を見た、ぐーちゃんが、
「いぬうた公園の桜さんも、ここの桜さんみたいに、ちゃんと見てあげて欲しいわね。せっかくがんばって咲いているのに。地面に座って、お酒ばっかり飲むのでなく」
ぽつんと、そう言うのでした。
「本当だよ。見てない人には飲んでいるコップのお酒の中に花びらが入って、無理矢理見せつけてやればいいんだよ」
きゅん君はちょっと怒っているようです。
そんな、きゅん君の気持ちが天に通じたのが、
でもそれは、花びらではなく、雨粒が、
花見している人たちのコップの中に、
みるみる入っていきました。
そうです。雨が降ってきたのです。
今まで良かった天気が急変して、雨雲が現れたかと思ったら、
あっという間に、辺りはざーざー降りになったのです。
なので仕方なく、ママと飼い主は家に引き返すことにし、
きゅん君、ぐーちゃんも、それに従うのでした。
帰りがてら、お花見に来ていた人たちが、
慌てて帰り支度をして駅に向かうのを、
ちらほら見かけ、ぐーちゃんが言います。
「でも、これで良かったのかも。これで桜の花さんもゆっくりできるわ。あの騒がしさからちょっと解放されて」
「そうだね。散らない程度に雨をシャワーだと思って、すっきりキレイになって、また会いたいね。今度は平日の空いている時にママに連れて来てもらおう」
と、すっかり雨に濡れて、家路を急ぐ、
きゅん君も同意します。
そして、帰ってからも、今日は、
桜の花のことを1日考えていよう。
と思う、きゅん君と、ぐーちゃんの春の出来事です。

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