「くさくてすみません」と思わなくていい ~体臭と差別の関係性①

差別の視点から体臭を考える

今回も体臭に関係のない話題からはじめます。

ここ数年、埼玉県川口・蕨両市において、外国籍市民の排斥を扇動するヘイトデモが活発化しています。神奈川県川崎市のようなヘイトスピーチ禁止条例がないため、レイシストが野放しになっているようです。

劣等感に苛まれた結果、国家と自己を重ね合わせて同一化し、他者をダシにして自尊心を満たそうとする光景を見るたび、やりきれない思いに駆られます。他者への想像力を涵養するのは、それほど難しいのでしょうか。カルチャーの力を借りる手もあります。たとえば、映画『マイスモールランド』(各種配信サービスで鑑賞可能)は、入管法を含めた難民問題を理解する手掛かりになるはずです。

と、このようなニュースを気に掛けるようになったのは、体臭で苦しんだ経験が大きく関わっているように思います。

以前の記事でも書きましたが、私が体臭を嘲笑されるようになったのは高校時代からです。悩み始めた当初は、まずは原因探しから始めましたが、90年代半ばの当時はインターネットが普及しておらず、サクサクっと情報を検索できるわけではありません。体臭問題で知られているのは腋臭症(=ワキガ)か歯周病くらいのもので、自分がなぜ「くさい」といわれてしまうのか、皆目見当もつきませんでした。

そこでとった行動は、基本的な対策・予防です。体や衣類を清潔にしたり、食生活に気をつけたりと、できる限りをしました。ときには雑誌に掲載されているやや怪しげな広告を信じ、けっして安くはないサプリメントを購入した経験もあります。結果は言わずもがなでした。

何をしても問題が解決せず、体臭で悩み続けていると、メンタルは崩壊寸前になります。もし、当時心療内科で診察を受けていたとしたら、何らかの診断が下っていたでしょう。体臭を嘲笑されると、頭が痺れて靄がかかったようになり、うまく思考ができなくなります。当時は常にそのような状態だった気がします。

私は高校に行くのがつらく、単位を落とさぬギリギリの範囲で無断欠席や無断早退を繰り返しました。体臭の問題を抱え、あまりのつらさに何もしたくなかったのですが、一方、高校を留年して親に迷惑をかけるのだけは避けたい、という気持ちも強く持っていました。

高校への通学にはスクーターを利用していました。高速でスクーターの利用は禁止されていましたが、自転車で片道一時間半かかるため、入学して早々に自転車のみの通学はあきらめました。高校の近くまでスクーターを乗りつけてある場所に隠し、そこから徒歩で高校に向かっていました。

無断欠席した日は、スクーターでドライブをする、土手に腰かけウォークマンで音楽を聴く、ブックオフで漫画の立ち読みをするといった時間つぶしをしていました。当時は日中に制服姿で市街地をぶらついていても咎められた経験はありません。今はどうなのか、気になるところです。

マイノリティとして社会と向き合う

こうして無断欠席を繰り返していたのですが、高校に行かないのはあくまで対処療法であり、問題の根本的な解決は望めません。

私はひたすら自分の置かれている立ち位置について考え続けました。能動的に考えるというよりは、辛さから逃れるために考えざるを得なかったというのが正確でしょう。

体臭が強いという特性は、私の生活習慣が原因となっているわけではありません。私の体に何らからの先天的な要因があり、他者にいやがられるにおいを発していると考えるのが妥当です。

その頃から、「差別」と「障碍」いうふたつの言葉を頭に思い浮かべる機会が増えました。当時はまだ10代です。ふたつの言葉の定義について、今よりも解像度の低い理解でした。差別や障碍を考えるにあたり、社会的非対称性を考慮せねばならない理由もわかっていませんでした。ただただ、自身の境遇は不当ではないか、なぜ生得的な特性で嘲笑されなければいけないのか、と憤っていました。怒りは澱のように心の底にたまっていきました。

そのような経緯から、生まれながらにしてある種の自由を奪われている人、あるいは状態について、思いを馳せる機会が増えたように思います。なぜなら、他人事ではないからです。当事者意識をもってマイノリティについて考える習慣がついてしまったのです。

体臭の問題は、医療的側面はもちろん、メンタル面のサポートも必要です。人によって感度に違いはあると思いますが、「くさい」といわれてうれしい人はいないはずですし、大なり小なり傷ついていると考えるのが妥当です。悲しいかな、体臭に悩む人は「嘲笑されて当然の対象」とされているのが現実です。心のケアの確立が待たれます。

ヘイトデモから連想し、体臭と差別、そして障碍の関係性について、つらつらと書きつづってきました。

体臭に悩み、対策・予防によって改善せず、他者に傷つけられけて蓄積した心のダメージの大きさは容易に想像できます。
体質が原因なのであれば、不可抗力です。「くさくてすみません」と思う必要はありません。どうか、自分を責めないでください。
もし環境が許すのなら、無理して学校や会社に行かず、十分な休息をとり、心の健康を取り戻してほしいと願うばかりです。


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