ある日、道の途中で起こる現実『アウシュヴィッツのタトゥー係』読書感想

『アウシュヴィッツのタトゥー係』
ヘザー・モリス著 金原瑞人、笹山裕子訳



中学生の時、友人とHEPのバーゲンセールに行く約束をしていたので、友人宅に迎えに行った。
まだ、準備中の彼女に向かって、テレビを見ていた彼氏(家族と住んでたけど、結構な頻度で彼氏も家にいた)がいう。

「あ、湾岸戦争、始まったで」

その瞬間を、なんでか、めっちゃ覚えてる。

小学校の修学旅行は、安芸の宮島と原爆ドーム。
戦争を経験したおじいちゃんから、戦争の話を聞き『戦争は絶対ダメ』と、学校で教えられてきたので、戦争が始まるあっけなさに驚いたし、ショックを受けた。
けど、バーゲンには行った。



アウシュビッツでは、名前ではなく、番号で呼ばれる。その番号を、被収容者の腕に彫る、『アウシュビッツのタトゥー係』が主人公・ラリである。

実在の人物のインタビューを元に書かれた小説で、この枚数なら、大抵、2.3日で読んでしまうけど、本を開く間、ずっと感じる緊張感(常に、ライフルを持った見張りが、いつでも射殺しようと目を光らせていて、感情移入した登場人物にいつ何があるかわからない状況)が辛く、なかなか読み進められなかった。

主人公はタトゥー係として出会った被収容者の女性に恋をする。二人で生きて収容所をでて一緒になる事、に望みを見いだす。

収容所で行われていた事は、ほぼ小説通りで、しかもそれ以上の悲惨な出来事があったらしい。

そして、恐ろしいのは、主人公も含めこの収容所に来た者の何人かが「良い仕事があるから」との触れ込みで、自分の大切な家族と別れをつげ、大事なものを鞄に詰め込みやってきて、全ての荷物を取られ、ぎゅうぎゅうの貨物列車で収容所に連れてこられたこと。

思っても見なかったことが起こるのが世の中ではあると思うけど、そこに伸びる道をただただ歩いていたら、突き落とされた地獄。

最終的に、ソ連軍の侵攻によって、強制収容所が混乱に飲み込まれ、収容所から逃げる事ができたりするのだが、私は勝手に、「ソ連軍によって、被収容者が解放される」展開を想像していたので全く違った。

ソ連軍が襲撃するなか、被収容者は、別の施設に移動させられる。その中で、逃げることができたもの、今までの疲労がたたり、倒れるものもいる。

ラリは、移動途中、逃げ出すことに成功するが、たどり着いた村で、今度は、ソ連軍に仕える事になる。アウシュビッツでも、自分の特技で、他の被収容者に比べ、自由のきく仕事につくことができた主人公は、ソ連軍に捕まった時もその技能のおかげで助かり、祖国に戻る事ができた。

震災や災害で、突如、奪われる日常もあるが、同じ人間の思想によって、運命が変わる恐ろしさ。

日本だって、これからどうなるんか、わからん。
映画でしか見ることないと思ってた“街から人がいなくなる景色“を2、3年前、この目で見たんやから。

正直、まだまだ知らないことばかりだ。


「人間はもう終わりだ 
 バカばっかりでどうしようもない

 愛は弱者の言い訳だ
 俺は暴力が怖くて眠れねー」

真心ブラザーズの『人間はもう終わりだ』


暴力も無知も怖い。
愛することが生きる希望に繋がるなんて簡単に言葉では言えない。ただ、目を光らせて生きていかなあかんと、思う。


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