劇伴音楽の作り方
こんにちは。
劇伴作曲家の天休です。
今回は劇伴音楽の作り方について、自分の全知識を公開したいと思います。
1.はじめに
僕は昔、ひょんなことから劇伴作曲家志望者のデモテープを大量に聴く仕事をやったことがあります。
数十曲聴きましたが、ハッキリ言って全部(日本の劇伴としては)NGでした。
ジョンウィリアムズ風のもの、ハンスジマー風のもの、転調したり、展開が分かりづらいもの……。
僕もがむしゃらにデモテープを書いていたころはこういう曲作っていました……。
というわけで、劇伴音楽の作り方について、自分の全知識を公開します。
と言っても、自分も劇伴界の下っ端中の下っ端なので話半分に聴いてください。
ツッコミがあればお願い致します。
少しでも誰かの役に立てば幸いです。
2.日本の劇伴と海外サウンドトラックの違い
まず初めに、日本の劇伴と海外のサウンドトラックの違いからお話ししましょう。
日本の劇伴と海外サウンドトラックの最大の違いは、フィルムスコアリングかどうかです。
フィルムスコアリングとは、出来上がった映像に対して音楽を付けていく手法のことです。
海外ではドラマも映画もアニメも、基本的にフィルムスコアリングなので、1話1話出来上がった映像に対して音楽を制作していきます。
なので5分くらいの曲もあれば30秒くらいの曲もあります。
シーンに合わせてテンポが揺れたり、転調したり、カット割りに合わせて変拍子が入ることもあります。
一方、日本の劇伴はドラマやアニメごとに「メニュー表」があり、映像が出来上がる前に20~50曲一気に作ります。(映画はちょっと違うので除外します。)
メインテーマ、日常、行動、心情……などなど。
そしてそれを選曲家と呼ばれる人が、音楽を編集して映像に当てていきます。
なので、日本の劇伴はメインテーマ以外曲尺がほとんど同じで、転調したり、テンポ変動もありません。
「日常」という曲だったら、曲の始まりから終わりまでずっと「日常」でなければならないのです。
カンの良い方ならお気付きかもしれませんが、日本の劇伴はいかに選曲家が使いやすい曲を作れるかがカギになってきます。
2.日本の劇伴のルール
いかに選曲家が使いやすい=エディットしやすい曲を作れるか、ここに日本劇伴のルールが存在します。
①転調しない
転調は基本的にNGです。
例えばイントロからそのままアウトロへ繋ぐような編集をする際、転調しているとエディットできなくなってしまうからです。
どの部分を切り貼りしても成立するように、転調は基本的にしてはいけません。
しかし唯一例外的に転調する場合が多い曲があります。
それはメインテーマです。
メインテーマだけは曲尺が長く、クライマックス感を演出する関係で、最後のサビで転調することが多いです。
しかし転調した場合、アウトロでは元の調に戻って、転調サビを切り取っても成立するようにします。
②テンポを変えない
これも選曲家がエディットしづらいためです。
またBGMが途中で早くなったり遅くなったりすると、映像の雰囲気を変えてしまう場合が多いため、効果的でない場合以外は非推奨です。
例外的にメインテーマのイントロ部分だけテンポが違うとか、サスペンス曲のラストだけテンポが速くなるなど敢えてテンポを変えた方がいい場合のみ有効です。
③拍子を変えない(拍子が分かりづらい曲を作らない)
もうお分かりですね。
途中でむやみに拍子を変えるとエディットしづらいためです。
4拍子の曲で1拍だけブレイクを入れるとか、特別な意図がない限り避けた方が賢明です。
④分かりやすい構成にする
当然ですが、選曲家は大量に曲を聴くことになります。
なので、1回聴いただけでどういう構成になっているのか分かりやすい曲の方が選曲家への負担が少ないです。
例えば「イントロ→Aメロ→Bメロ→A'メロ→Cメロ→Aメロ→Bメロ→A'メロ→アウトロ」などです。
これが「イントロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→Dメロ→Eメロ→……」とどんどん展開してしまうと、どこでエディットしていいのか分かりづらく劇伴として使いづらい曲になってしまいます。
あと海外のサウンドトラックにあるようなメロディがハッキリしない曲も、エディットしづらいため日本の劇伴では向いていません。
⑤同じパートを作らない
例えば「Aメロ→Bメロ→A'メロ」という構成の際、AメロとA'メロを全く同じにしてはダメということです。
なぜなら、全く同じパートであるならば選曲家がエディットしてコピペすればいいので、その部分が無意味になってしまうからです。
なので、仮に同じメロディだったとしても、アレンジを変えたりすることで意味のあるパートにしなければいけません。
⑥雰囲気を変えない
これがかなり難しいです。
先にも述べたとおり、「日常曲」だったら最初から最後までずーっと「日常」の雰囲気でいかなければなりません。
特にリコーダーや手拍子や民族楽器など、イメージが引っ張られやすい音色を使うときは要注意です。
この雰囲気を変えずに、しかし音楽として成立させる技術こそが日本の劇伴の真骨頂といっても過言ではないです。
3.劇伴の種類
だいたいどのドラマでもアニメでも、以下のような劇伴の種類があります。
〇メインテーマ
〇メインテーマ崩し
〇メインテーマピアノバージョン
〇主題歌崩し
〇日常
〇コミカル
〇サスペンス
〇行動
〇ニュートラル
〇心情
〇哀しみ
などなど
これに加えてそのプログラム独特の曲を加えていく感じです。
ちなみに曲数はドラマで20曲、1クールアニメで40曲程度が相場だと思います。
曲尺はドラマで2分30秒、アニメで2分が相場だと思います。(メインテーマを除く)
それでは1曲ずつ見ていきましょう。
①メインテーマ
そのプログラムの中心となるような曲です。
一聴してその番組っぽさがり、親しみを持てるようなキャッチ―なメロディが求められます。
例えば「半沢直樹」のメインテーマ↓
聴いた瞬間に「倍返しだ!」というセリフが浮かんできます。
編成はオーケストラ+シンセサイザー。
つづいて「王様のレストラン」↓
めちゃくちゃ上品で、キャッチ―でアカデミック!
「王様」「レストラン」というキーワードが濃縮された一曲ですね。
バラード系だと「JIN-仁-」メインテーマ↓
美しすぎる……!!
編成はオーケストラ+胡弓……かな?
バンドサウンドの曲もあります。
地味に好きな「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」↓
爽やかで前向き。
主人公・河野悦子のへこたれない前向きさが表現されています。
この並びで挙げるのもどうかと思いますが「ニンジャスレイヤー・フロム・アニメイシヨン」メインテーマ↓
ハードロック+和+ストリングス。
アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?
エレクトロニカっぽいものだと「ガッチャマン クラウズ」のメインテーマ↓
おしゃれカッコいい!!
卓越したストリングスアレンジスキルとシンセの技術がないとこういう曲は書けません。
全部まるっとお見通しな「TRICK」のメインテーマ↓
こんなジャンル不明の曲もあります。
このようにメインテーマはプログラムによって曲調も違えば、ジャンルもテンポも違います。
その番組らしさを、いかに表現できるかがウデの見せ所です。
曲尺は3分~5分、長い曲だと10分を超えるものもあります。
②メインテーマ崩し
メインテーマ崩しとは、メインテーマのバラードバージョンやAltバージョンのことを指します。
メインテーマが番組の表の主役なら、崩しは番組の裏の主役です。
メインテーマのメロディをアレンジして、登場人物の心情に寄り添うような曲にします。
特に主人公の心情的なクライマックスで流れる曲ですね。
メインテーマより編成が小さく、テンポが遅くなっている場合が多いです。
メインテーマの雰囲気をできるだけ変えないよう、基本的にはメインテーマと同じ調性です。
③メインテーマピアノバージョン
メインテーマのピアノソロバージョンも多くの場合制作します。
これも登場人物の心情に寄り添う場合が多いです。
崩しと組み合わされる場合があるため、メインテーマ崩しと同じテンポ、同じ調性で制作します。
音数が多いと映像の邪魔になる可能性が高いので、シンプルなアレンジで、しかし飽きさせないような技術が必要です。
④主題歌崩し
ドラマのメインテーマではなく、主題歌のバラードバージョンです。
最近のサントラでは見かけなくなってきました。
メインテーマ崩しと同様、薄い編成で、心情に寄り添うようなアレンジが求められます。
当然ボーカルが入るわけではないので、歌モノをいかにオーケストラに落とし込むかが重要になってきます。
⑤日常
恐らく番組内で最も使われる回数が多いであろう日常曲です。
個人的にはこれを作るのが一番難しいです。
「日常」と一口に言っても、番組によって日常感は変わってきます。
SF世界の日常と、恋愛ドラマの日常では曲が全く違います。
ワンコードのものもあれば、途中でメインテーマのメロディが入ってくる日常曲もあります。
こればかりは、かなり説明しづらいのであとで具体例を見ながら感覚を掴んでいきましょう。
一応おすすめの日常曲勉強サントラを挙げておきます↓
「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」サウンドトラック
⑥コミカル
その名の通りコミカルなシーンに流れる曲です。
ただ「コミカル」という曲名なだけで、コミカル色が強すぎるとNGです。
ドリフの盆回りの曲なんかはコミカルですが、ドラマやアニメでは使いづらいですよね。
初めてコミカルを作る方は、日常曲をややコミカル寄りにするぐらいで丁度いいでしょう。
マーカスミラーの曲「Detroit」なんかはかっこいいですが、最初の40秒ぐらい、映像に合わせるとややコミカルなシーンに合うのが分かると思います。
(↓の試聴できる部分だと「Jekyll & Hyde」が分かりやすいかな)
テンポは中庸(120くらい?)、編成は木管メインのオーケストラか、ベースやパーカッションメインのバンド編成であることが多いです。
ワンコードで、ミクソリディアンスケール使うとそれっぽくなります。
ジャンルはバンド編成の場合ファンクかブルースロック的な曲が多い印象です。
⑦サスペンス
「サスペンス」もめちゃくちゃ種類があります。
ホラー映画のサスペンスでは人が死にますが、恋愛ドラマのサスペンスではせいぜい三角関係が発覚した程度です。
番組によって適切なサスペンス感を使い分けましょう。
個人的にはドリアン→エオリアン→フリジアン→ロクリアン→コンビネーションオブディミニッシュの順でサスペン度が高くなります。
ひとつのプログラムで2,3曲サスペンス曲があると良いと思います。
例えば、1曲目はライトなサスペンス曲として、ストリングスが白玉でマイナーコードを奏でているようなもの。
編成が薄く、ちょっと嫌な予感がする程度の楽曲。
2曲目は中庸くらいのテンポで薄くリズムが入り、不安を掻き立てるような曲。嫌な予感が的中し、現場に向かうまでの主人公の心情。
3曲目はクライマックス。アップテンポでリズムも激しく入り、ディストーションギターやディチューンされたシンセが入っていても良いですね。
まさに主人公の不安が爆発するシーン用の曲です。
調性は上にも書いたとおりワンコードで、メロディよりもサウンド感で攻めた方が映像に合いやすい気がします。
⑧行動
「行動」は登場人物が動いている、活動的なシーンに流れる曲です。
例えば刑事ドラマの主人公が捜査しているシーン、スポーツドラマでチームが練習しているシーンなどです。
モンタージュなどでも使われることが多いです。(カット割りのテンポが速いためと思われます。)
曲調としては暗くすると「捜査」になり、明るくすると「前向き」になります。
「捜査」や「行動」にしたい場合は暗すぎない方が使いやすいかな、と思います。
なのでミクソリディアンやドリアンと相性が良い気がします。
逆に「前向き」に振りたい場合は底抜けに明るくした方が使いやすいと思います。
編成はオーケストラだったりバンドだったり様々ですが、スピード感を出すためにアップテンポでリズムが入っている場合が多いです。
⑨ニュートラル
これも難しいです。(作るのも解説するのも……)
シーンとしては日常ほど明るくないが、シリアスでもないシーンに使われる印象です。
まさにニュートラルです。
心情を表現するというよりは、シーンそのものを表現している、だけど印象を強くしたくない……という感じでしょうか。
この辺はコミカル寄りのニュートラルだったり、サスペンス寄りのニュートラルがあるので何とも言えません。
あとで具体例を見ていきましょう。
⑩心情
主人公の気持ちに寄り添うバラードオーケストラ曲です。
これが書けないと作家になれないと言っても過言ではないくらい重要な曲です。
使われ方としては「メインテーマ崩し」と同じですが、毎回メインテーマ崩しを流しているとやや退屈なのでそれを補完する役割です。
「メインテーマ崩し」よりも「心情」が使われる番組も多いです。
過去を振り返ったり、今を実感したり、主人公が切なく思いを馳せているシーンに使われます。
テンポは遅く、編成はオーケストラ。
薄いところから段々と盛り上げて、主人公の気持ちの高ぶりを表現しましょう。
心情曲で最も大事なのはメロディです。
親しみやすく、視聴者が主人公と一緒に気持ちを揺さぶられるようなメロディが必須です。
⑪哀しみ
これは心情のマイナーバージョンですね。
「心情」が心を切なくさせるなら、「哀しみ」は主人公の哀しさや後悔を表現します。
こちらも「心情」と同様、スローテンポのオーケストラ。
やはりメロディが最重要要素になってきます。
***
以上に加えて「恋の始まり」「猟奇殺人」「居酒屋」など番組によって必要な曲を制作していく感じです。
文字だけでは伝わりづらいので、恐れ多くも劇伴の教科書を解剖させていただきながら一緒に見ていきましょう。
4.劇伴の教科書①「ごくせん」(大島ミチル)
最初の劇伴の教科書は大島ミチルさんの「ごくせん」サウンドトラックです。
手に入りやすい第2シーズン(2005年)のものを取り上げてみたいと思います。↓
〇1曲目「Road of Gokusen-Returns Version-」
メインテーマですね。
めちゃくちゃかっこよくて美しい! 日本劇伴を代表する名曲です!
美しく、長いフレーズのメロディはヤンクミの心の広さ、実直さにぴったりです。
一定リズムのスネアは軍隊=規律をイメージさせるので、掟の厳しい「ヤクザ」というキーワードにもマッチしています。
Bメロのトランペットなんかはヤンクミの堂々とした姿が目に浮かびます。
またCメジャーキーは清潔な力強さのある調なので、このドラマにぴったりですね。(同じ清潔で力強いCメジャーキーの曲として「新選組!」のメインテーマがあります。)
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→Aメロ→A'メロ→Cメロ→アウトロ】
ポイントは、出だしがリズムだけの薄いところから始まるという点です。
いくらメインテーマでもいきなり大きい音から始まってしまうと、BGMを流した瞬間に視聴者に違和感を与えてしまいます。
なので、特別な場合を除きいつの間にか音楽が始まっていたという入り方をするのが理想です。
(ちなみに特別な場合を知りたい方は、僕が作曲した「頭に来てもアホとは戦うな」を見てください笑)
Aメロが何度も繰り返されているのに飽きが来ない、無意味に繰り返されていないアレンジにも注目です。
メロディをどの楽器が担当しているのか、どのようにクライマックス感を出しているのか分析してみてください。
また、「ごくせん」は勧善懲悪の水戸黄門的な要素があり、メインテーマは起承転結の転のクライマックス部分にかかることが多いので、しっかり終結感を出して終わらせます。
悪党を懲らしめた後、最後のトニカの和音が流れることで、視聴者に納得感やカタルシスを感じてもらうわけです。
〇2曲目「吹き溜まりに棲む天使」
九條先生が出てきたときにかかるラブテーマです。
分析的には「日常」でしょう。
編成はフルート+ピアノ+バイオリン+チェロ。
構成は【Aメロ→A'メロ→Bメロ→B'メロ→Cメロ→C'メロ→アウトロ】
冒頭まさかのGaug→Faugという和音、そして半音階的刺繍音を伴うメロディで調性を曖昧にしています。
上品でありながら、少しぼんやりした雰囲気が丁寧にまとめられています。
ラブテーマといえばm6という頭を正面からカチ割ってくれます。
注目すべきは無駄な音を一切入れずに展開していくアレンジ技術。
4つしか楽器を使っていないのに無意味な箇所が一切ありません。
そしてどこを切り取っても雰囲気が変わりません。
日常曲としてはやや特殊な部類に入るかと思いますが、学べることはたくさんあります。
〇3曲目「喧嘩の時間」
分析的には「コミカル」ですね。
第3話17分あたりが分かりやすいです。
スライドホイッスルやヴィブラスラップのようなこてこてのコミカルに振らなくても、十分コミカルなシーンにマッチしています。
構成は【イントロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→ブリッジ→A'メロ→B'メロ→アウトロ】
調性はCブルーススケール。
典型的なブルースのコード進行はコミカルとの相性が良いですね。
曲調はレナードバーンスタイン風のジャズオーケストラ。
ジャズオーケストラですが、編成が厚くなりすぎていないことに注意してください。
ポイントは最後のキメ。
「コミカル」の場合このラストのキメがあると場面転換の終結感が出しやすく、スムーズに次の場面へ受け渡すことができ、映像にメリハリが付きます。
〇4曲目「生徒の味方」
ザ・心情曲という感じの「心情」です。
生徒たちがヤンクミの優しさに触れるシーンで流れます。
構成は【Aメロ→A'メロ→Bメロ→B'メロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
典型的なベースの下降ラインの中にドッペルドミナントなどを挟むことで高級感が出ています。
気持ちは盛り上がっていくにもかかわらず、編成は壮大になっていないのがポイント。
盛り上げすぎたり、アレンジを厚くしすぎるとBGMが浮いてしまいます。
そしてなんと言っても歌えるメロディ。これが最重要です。
シンプルでありながら覚えやすく、心にしみるメロディ……さすがは大島ミチルさんです。
〇5曲目「空回りの職員室」
これは分かりやすく「コミカル」ですね。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→B'メロ→Aメロ→A'メロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
「喧嘩の時間」と同じジャズオーケストラ風の編成ですが、今度はストリングスと木管高音が主役になっている点に注意です。
両曲とも同じ「コミカル」ですが、映像に合わせた際の感じ方は全く違います。
「空回りの職員室」の方がややテンポが速く、騒々しさがあります。
この曲、後半転調していますが、もともとG→Eb/G→G→Gdimと調性感の薄い曲なので悪い転調の仕方になっていないですね。
しかし、冒頭とラストで調が違うのでエディットはしづらいと思います。
実際、この曲はドラマ内であんまり流れていません。
メロディがバイオリンにいったりチェロにいったり聴いている人を飽きさせない工夫が随所にあるので、アレンジを分析してみてください。
〇6曲目「Successor-Returns version-」
ヤンクミが「担任の先生だ!」と登場するシーンの曲ですね。
これはこのドラマ固有の曲ですが、あえて分類するとするならば「サブメインテーマ」といったところでしょうか。
「Road of Gokusen-Returns Version-」よりも、もっと心を揺さぶるようなテーマとしての「Successor-Returns version-」という感じだと思います。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→B'メロ→Aメロ→アウトロ】
登場シーンで使いやすくするためイントロは長めで、且ついったん終始しています。
明らかにAメロ前にエディットポイントがありのが分かると思います。
編成はオーケストラ。といってもストリングスがメインで、金管とピアノと打楽器が少し入る程度。
ジョン・ウィリアムズのような大型管弦楽ではありません。
個人的にはAメロのDの保続低音がBmに転じるときにメロディが上に跳躍するのが大好きです。
こんな曲が書けるようになりたい……。
〇7曲目「Road of Gokusen -Music Box-」
ここではオルゴールになっていますが、分類的には「メインテーマピアノバージョン」です。
メインテーマの「Road of Gokusen-Returns Version-」と同じCメジャーですね。
少ない音数で、どのように音楽を成立させているか聴いてみてください。
逆に言えば、ピアノ一本でも成立するメインテーマを書けるよう努める必要があります。
メロディが良ければ、オルゴールだけでも素敵な楽曲になります。
〇8曲目「構内風景」
これも「コミカル」です。
ごくせんはコメディシーンが多いので「コミカル」が多くなりますね。
この曲は前の「喧嘩の時間」「空回りの職員室」と違ってトホホ……感が強いです。
この3曲から受ける印象の違いを、実際に映像に合わせて確かめてみてください。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→B'メロ→ブリッジ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
「喧嘩の時間」もそうですが、ブリッジとしてイントロに帰ってくると構成が分かりやすくなります。
ブリッジを聴いた時点で「あ、つぎAメロだな」と分かるからです。
編成はこれまたジャズ風のオーケストラ。
特徴的なのはリコーダーや突然入ってくるティンパニ、シェイカー。
この辺りはコミカルと親和性が高いです。
和声的にはA→Fという♭VIの音を巧く使うことでとぼけた印象を演出しています。
半音で下るメロディもコミカル感がありますね。
〇9曲目「先生失格」
「哀しみ」です。
オーボエは「心情」や「哀しみ」と相性が良いです。
特に切ないメロディを歌い上げるならオーボエはもってこいの楽器です。
構成は【Aメロ→A'メロ→Bメロ→Cメロ→Aメロ→アウトロ】
「哀しみ」ですが暗すぎていない点に注意してください。
あくまで学園ドラマなので、「哀しみ」が重すぎるとドラマから浮いてしまいます。
ポイントは終結部V→IではなくVm→Iや♭VII→Iを使うことで暗さの強調を回避することです。(絶対ではありませんが……)
盛り上がりすぎると「人が死んだような哀しみ」になってしまうので、あくまで淡々と、主人公の心情に寄り添います。
編成はオーボエ+ストリングス。
「心情」である「生徒の味方」ではフルートとピアノが印象的だったので差をつけている格好ですね。
〇10曲目「怒り沸騰! -Returns Version-」
ちょっと特殊ですが「行動」寄りの「サスペンス」でしょうかね。
構成は【イントロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→アウトロ】
イントロの和音の連打が印象的ですね。
登場人物の心がショッキングな方向へ落ちたのが一発で分かります。
その後の展開は「助けに行かなきゃ」というヤンクミの正義心と「何かあったらどうしよう」という心のざわつきが葛藤しているようです。
編成はオーケストラ。
オーケストラで「サスペンス」を作る場合は、ストリングスのグリッサンドとトレモロ、ティンパニや低音楽器がキモになってきます。
この曲でも印象的に使われていますね。
「サスペンス」は次の話への"引き"として使われることが多いので、最後は盛り上げて「さぁ、どうなる……?」という感じを残した終わり方になっています。
〇11曲目「恋する教師達」
「日常」です。
「吹き溜まりに棲む天使」のアレンジバージョンですね。
この曲の方がテンポが速くなり、やや心のドキドキが増していることに注目してみてください。
構成は【Aメロ→A'メロ→Bメロ→Cメロ→C'メロ→アウトロ】
「吹き溜まりに棲む天使」ではAメロがフルートだったのに対し、こちらではクラリネット。Bメロがバイオリンだったのに対し、この曲ではチェロになっています。
同じメロディもアレンジの違いで別の印象へと生まれ変わっていますね。
Cメロのクラリネット、内声を半音で縫うような対旋律。
こういった細かい技術が楽曲のクオリティを上げています。
内声のクラリネットはGuide ToneかColor Toneを担当させると、埋もれにくくて個人的には好きです。
アウトロのフランス映画のような雰囲気には脱帽です。
甘くて切ない、まさに恋という感じです。
ラブコメにも使えそうなロマンチックな楽曲です。
〇12曲目「悪」
めちゃくちゃ分かりやすい「サスペンス」ですね。
「悪の親玉登場!」という感じの曲です。
構成は分かりづらいですが【イントロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→Bメロ→B'メロ→アウトロ】
途中転調していますがアウトロでは元のGマイナーキーに戻ってきています。
特にCODスケールを使っていると、ブルースのように一見転調したかのように見える曲がありますが、最後は元の調に戻るようにした方が良いと思います。
先にも述べた通り選曲家がエディットしやすいためです。
Aメロのように、本来そのスケールにない音を強調すると暗さを強調することができます。
Aメロの最初レ→ド#ですが、ド#はGマイナースケールにはなく、D7へのドッペルドミナントのA7の第三音のように聴こえるので、暗さが強調されるというわけです。(借用のドミナントは次の和音の暗さ(明るさ)を強調することができます。)
Bメロが特徴的なのですがラ→シ♭→ファ→ミというように半音を強調するメロディも効果的です。
減5度と半音が組み合わされたメロディの一例として、ムソルグスキー「展覧会の絵」より「小人」を挙げておきます。
冒頭こそ重たい編成であるものの、それ以降は比較的編成が薄いです。
やはり学園ドラマですので、いくら「サスペンス」でもサスペンスすぎていません。
やりすぎないこの感覚を掴みましょう。
〇13曲目「3年D組」
2曲目の「心情」です。
構成は【Aメロ→A'メロ→Bメロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
典型的なカノンコードですがメロディの美しさが際立っていますね。
こちらもところどころに借用和音を入れて、退屈にならないようになっています。
編成はフルート+ピアノ+ストリングス。
冒頭のフルートの低めの音域は温かさや優しさを表現してくれるので「心情」と相性抜群です。
「心情」を作る際のコツですが、ストリングスを一気に使わないことです。
この曲も、冒頭段々とストリングスが入ってくるのが分かると思います。
4小節目でようやくコントラバスが入ってきていますね。
ところで「生徒の味方」「3年D組」この2曲から受ける印象の違いを説明できますか?
「生徒の味方」はより喜びや希望に満ちた「心情」であるのに対し、「3年D組」はもっと人の温かさや優しさを表現した曲に聴こえます。
このように、同じ心情曲でも役割が違います。
ぜひ映像に合わせて確かめてみてください。
〇14曲目「Road of Gokusen -Cello Solo-」
この曲も特殊ですが、役割的には「メインテーマピアノバージョン」に近いです。
メインテーマと同じCメジャーであることに注意してください。
メロディが良ければ、それを朗々とチェロが歌うだけで心情を表現してくれる好例です。
2回目のAメロではチェロがオクターブ上を弾いて同じパートが繰り返されないようになっていますね。
〇15曲目「NO MORE CRY -Piano Solo-」
ごくせんの主題歌「NO MORE CRY」のピアノバージョン。
分析的には「主題歌崩し」ですね。
「主題歌崩し」はオーケストラバラードでやることもあれば、この曲のようにピアノソロでアレンジされることもあります。
大島ミチルさんのピアノアレンジに注目です。
サビに入っても決して盛り上がりすぎず、音数を増やしすぎず、心情に寄り添うことを最重視しています。
構成は【イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→アウトロ】
大体の主題歌崩しはこの構成だと思います。
アウトロは原曲にはないので恐らく大島ミチルさん作でしょう。
原曲部分とスムーズにつながっており、この辺りも技術の高さが窺えます。
〇16曲目「大江戸一家 四代目!」
これはこのドラマ特有の曲ですね。
昭和演歌をモチーフにした「任侠」を感じさせる曲です。
「恋する教師達」ではフランス映画のような恋を描きながら、この曲では昭和演歌を書きこなす。
この書けるジャンルの幅の広さは劇伴作曲家に求められる必須スキルのひとつです。
時には演歌を、時にはオーケストラを、時にはジャズを、時にはトランスを、時にはガレージロックを書かなければならないのです。
あらゆるジャンルの曲を普段から聴き、自分の血肉にしておきたいと思わせてくれる1曲です。
5.劇伴の教科書②「WATER BOYS」(佐藤直紀)
続いて取り上げるのは佐藤直紀さんの「WATER BOYS」のサウンドトラックです。
〇1曲目「シンクロBOM-BA-YE」
これだよ!!
日本劇伴の歴史に燦然と輝く「メインテーマ」。
僕が劇伴作曲家になりたいと志したキッカケでもある曲です。
あまりに美しく、そして情熱的に少年たちの青春を歌っている。
ザ・青春!という感じですね。
最後のタワーが完成した瞬間の感動がいまだに蘇ります……。
僕も人生で一回くらいこんな曲が書きたい……!!
話が逸れました。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→サビ→Aメロ→サビ→サビ'→アウトロ】
この曲も最初は薄いところから徐々に盛り上がっていっています。
編成はオーケストラがメインですが、注目すべきはシンセの音色です。
僕は勝手に、この曲はバンゲリスの「炎のランナー」っぽい曲を作ってくれと発注されたんじゃないかな?と思っています。
聴いていただければ分かると思うのですが、「シンクロBOM-BA-YE」も「炎のランナー」もシンセの音色が特徴的です。
特に冒頭、低音が入ってきた裏で鳴っているシンセのアルペジオの音色、音色だけで青春感があります。
プールの水しぶきが輝いているようにも聴こえます。
メロディだけでなく、こういった音色選びの細かさが佐藤直紀さんの素晴らしさの一つだと思っています。
さて、勧善懲悪の「ごくせん」とは違い、「WATER BOYS」はうだつの上がらなかった少年たちが力を合わせ成長していく姿がドラマのテーマです。
なのでメインテーマはシンクロの技が決まった瞬間や、仲間が心を開いた瞬間などにかかることが多いです。
なのでこのサビの突破感、Bメロからぐーーっと盛り上がっていく感じが視聴者の心を掴みます。
「メインテーマ」といってもドラマごとに全く役割が違うのがお分かりいただけるかと思います。
さらに、この曲はD♭メジャーですが、サビの最初の和音はB♭mです。
僕の大好きなVIm→V/VII→I進行ですね。
他には坂本龍一さんの「Aqua」のサビも同じ進行です。
この根音が上昇していく進行がエネルギーや力強さを与えています。
シェーンベルクの和声法ではこの二度の根音進行を超強進行としています。
また、メジャーとマイナーが曖昧な曲は日本人にウケやすいとも言われています。
例えば小室哲哉さんなどJ-Popで頻繁に使われる王道進行もIV→V→IIIm→VImとメジャーとマイナーが混在しています。
とまぁ分析的なことを書きましたが、何よりメロディが本当にシンプルで美しい!
ホルンの対旋律も突き上げてくるようでかっこいいし、もう本当に書ききれないぐらい好きな曲ですね。
〇2曲目「Oh Shit!!」
これは圧倒的な「コミカル」ですね。
ここまでコミカルに寄せすぎると普通のドラマでは使いづらいのですが、このドラマにはバチっとはまっています。
というのもこのドラマのテーマが1970年代だからです。
このサントラにもカップリングされていますが「シュガー・ベイビー・ラヴ」も「シェリーに口づけ」も「狙いうち」も1970年代。
ところでドリフの盆回りも1970年代。
佐藤直紀さんはこの辺りを意識して制作されていたんだと思います。
男子高校生たちが騒ぎまわっている姿が目に浮かびますね。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→イントロ'→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
この曲のイントロのように「コミカル」はイントロにフックとなる部分があるとパンチが利いて使いやすい気がします。
「ごくせん」の項でも書きましたが、笑いはメリハリが大事です。
パシッと笑えて、サクッと終えて、次のシーンまで笑いを引きずらない。
このメリハリが「コミカル」曲には重要ですね。
編成はバンド。
進行はブルースっぽい感じですね。
こういう強烈なAメロはBメロを作るのが難しいのですが、佐藤直紀さんは雰囲気を大きく変えることなくBメロに繋がれていますね。
特にBメロはシタール風のエレキギターがハワイアンな感じを演出しており、「WATER BOYS」のテーマにぴったりですね。
〇3曲目「シュガー・ベイビー・ラヴ」
この曲は劇伴ではないので解説は省略します。
〇4曲目「Here We Go!」
いまでもテレビで何度も聴く機会のある曲です。
まさに名曲。
こんな曲が書けたらいろんなところから引っ張りだこです。
分析的には「行動」(「前向き」)ですね。
男子高校生の希望にあふれた姿がアカデミックに描写されています。
構成は【Aメロ→Bメロ→Aメロ→A'メロ→Cメロ→Aメロ→Bメロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
編成はオーケストラ+シンセサイザーですね。
この曲で注目すべきはアレンジテクニックです。
こんなに執拗にAメロが繰り返されているのに聴いていて全く飽きない。
どこでリズムが入ってきて、どこでリズムが抜けているのか、メロディはどの楽器が担当しているのか分析してみてください。
そしてどこをどう切り取ってもワクワク感のある曲。
本当に素晴らしい名曲ですね。
〇5曲目「Just Joking」
こちらの方が典型的な「コミカル」に近いですね。
Fミクソリディアンスケールのワンコードの曲です。
ワンコードの曲はベースがメインになりやすく、この曲もベースのリフが印象的です。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→A''メロ→Bメロ→B'メロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】
少しわかりづらいですがピアノのソロが入ってくる箇所がBメロかと思います。
ジャンルはファンクで、シンセやパッションフルートの使い方がかっこいいですね。
ティンバレスっぽいトムやファンキーなブラスが南国=海っぽさもあり、「WATER BOYS」感が溢れています。
このタイプのワンコードの「コミカル」は最初にベースのリフを考えて、そこにメロやソロを乗せていくと作りやすい気がしています。
〇6曲目「シェリーに口づけ」
この曲は劇伴ではないので解説は省略します。
〇7曲目「憧れ」
美しい「心情」です。
構成は【イントロ→Aメロ→Bメロ→アウトロ】
「心情」でイントロとアウトロを付ける際は、イントロとアウトロを同じメロディにした方が良いと思います。
というのも、「心情」はテンポが遅く短いシーンにつけるのが困難なため、イントロからそのままアウトロにエディットできる余地を残しておくためです。
この曲でもそのようになっていますね。
「WATER BOYS」というドラマにおいては、切なさよりも友情や人の温かさがメインになってきます。
この曲で使われているストリングスの音域に注意してみてください。
必要以上に高音にいかなかったり、低弦を5度で積んでいることが温かさを演出しています。
また、Aメロでオーボエ+ハープという編成になった後のストリングスの入り方にも注目です。
徐々に、ふわーっと優しく入っているのがお分かりいただけると思います。
先にも述べましたが、一気にストリングスが入ってくると視聴者の耳がそっちに引っ張られ、結果的に映像の邪魔になってしまいます。
〇8曲目「トホホの帰り道」
この曲はやや「コミカル」寄りの「日常」ですかね。
「日常」は本当に多岐にわたるので分類が難しいです。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→Aメロ→アウトロ】
口笛+ウクレレというシンプルな編成ながら音楽的に聴きごたえのある曲になっています。
二本目のウクレレが入ってくるタイミングや、最後のAメロのウクレレの合いの手の入れ方が参考になります。
口笛はクセの強い楽器ですが、「日常」と相性が良いです。
他に口笛を使った「日常」として「陽気なギャングが地球を回す」より「windy whistle」を挙げておきます。
こちらのほうが作る上では参考になると思います↓
〇9曲目「狙いうち」
この曲は劇伴ではないので解説は省略します。
〇10曲目「Friendship」
これはまさに典型的な「メインテーマ崩し」ですね。
構成は【Aメロ→Bメロ→サビ→アウトロ】
メインテーマと違い、崩しは1まわしが基本です。
メインテーマと崩しは同じ調性であることが多いですがここでは移調されています。(D♭→G)
これはトランペットの音域の関係かと思われます。
メインテーマと同じオーケストラ編成ですが、メインテーマほど厚くないのがお分かりいただけると思います。
メインテーマを単に遅くするだけではなく、バラードに相応しいアレンジにすることがポイントです。
メロディも若干アレンジされている点にも注目です。
特にトランペットがメロディをしているときのストリングスの動きは必聴です。
どのパートがどのように動いていますか? バイオリンはどこからメロディに混ざりますか?
こういう曲のストリングスアレンジのコツは、メロディを決して邪魔しないことだと思っています。
また、最初中央のドあたりにいたバイオリンがBメロでは跳躍、サビではメロディ、後半は高音の保続音と音域が動いているのも参考になります。
ストリングスの音域が動くことで聴いている人を飽きさせないアレンジになっています。
〇11曲目「Obstruction '77」
これは典型的な「行動」です。
構成は【イントロ→Aメロ→A'メロ→A''メロ→Bメロ→Cメロ→C'メロ→ブリッジ→Aメロ→アウトロ】
「Here We Go!」よりもニュートラルで、心情というよりはシーンに寄せた音楽だということがお分かりいただけるかと思います。
コードチェンジを控えたり、ベースやリズムを中心に添えるとシーンに寄り添った音楽になりやすいです。
この曲はCメロ以外は基本的にはBマイナーオンリーだと思います。
CメロもBm7→Em7のブルース進行的なのでコードチェンジがメインの曲では無いことが分かりますね。
題名にもある通り70年代後半の洋楽が想起される曲になっています。
これは先にも述べたとおり「WATER BOYS」が70年代の音楽をテーマにしているためと考えられます。
冒頭のカッティングギター、ストリングスの合いの手、ベースのリフ……。
何が70年代後半の洋楽感を演出しているのか分析してみてください。
特に4分打ちのキックの音色は時代を反映しやすいのでよくよく注意する必要があります。
この曲はややタイトで、コシがあり、アナログっぽさもあります。
TR-808の登場が1982年なので納得ですね。
ただ、1970年代に使われていた音色をそのまま使うと古臭くなる可能性があるので、ややソリッドで洗練された音色になっているように感じられます。
これがリリースが長かったり、重心が低すぎると一気に音楽が崩壊してしまいます。
この辺りのキックの歴史については下記の記事がお勧めです↓
〇12曲目「Jing-Jang」
これは「ニュートラル」です。
「コミカル」ほどコミカルすぎず、「日常」ほど日常すぎない。
「行動」ほど活動的でもない。
この辺りの感覚を説明するのはとても難しいので、ぜひ映像に合わせて聴いてみて、受ける印象を確かめてみてください。
「ニュートラル」なので心情ではなくシーンに寄り添う曲です。
なのでこの曲もベースのリフがメインのワンコードの曲になっていますね。
構成は難しいですが【イントロ→Aメロ→A'メロ→Bメロ→Aメロ(ブリッジ)→Cメロ→Aメロ→A'メロ→アウトロ】という感じですかね。
しょっちゅう入ってくるサイケデリックなシンセが特徴的ですが、この曲を参考にするときはそれを参考にしないようにしましょう。
このシンセはキャッチ―ですが「ニュートラル」の本質的な部分を担っているわけではありません。
この曲を「ニュートラル」たらしめているのはむしろベースとギターのリフとドラムの音色です。
心情描写は一切せずにイケてるフレーズを書くにはどうすればいいか非常に参考になります。
こういったタイプの「ニュートラル」を書く際は、この曲のようにファンキーなブラスが入る場合が多いので、その辺りも参考にしてみましょう。
〇13曲目「シンクロBOM-BA-YE [Alt.Version]」
これも少し特殊ですが「メインテーマ崩し」の一種「メインテーマバンドバージョン」ですね。
メインテーマがオーケストラで、且つ青春や恋がテーマの場合、メインテーマをバンド編成にアレンジするケースがあります。
構成は【イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→サビ→アウトロ】
こちらはメインテーマとほぼ同じ構成になっていますね。
調性はDメジャーになっています。これはギターが弾きやすい調性だからでしょう。
編成はバンド+ストリングス。
イントロの爽やかさ、そしてサビに入っても盛り上がりすぎないアレンジに注目です。
これは個人的な意見ですが、バンド+ストリングスでバンドがメインの場合、ストリングスは動かしすぎない方が上手くいく場合が多い気がします。
ストリングスを動かしすぎるとバンドの良さを壊してしまうためです。
この曲のストリングスの立ち回りもじっくり観察してみましょう。
アコースティックギターは青春感を出しやすいですが、下手をすると土くさくなってしまいます。
この曲のようにストリングスを入れたり、バッキングを立たせすぎず上品なアレンジすることで、爽やかさを際立たせましょう。
あと青春感や爽やかさを出すならadd9コードを使うことをお勧めします。
M9でもいいのですが、M7の音が潔癖すぎるので、個人的にはadd9を使っています。
この曲でも、イントロでコードがGになったときに、オスティナートのアコギのAの音が9thになっていますね。
〇14曲目「天国と地獄」
この曲は劇伴ではないので解説は省略します。
〇15曲目「虹 [Piano Version]」
「主題歌崩し」のひとつ「主題歌ピアノバージョン」ですね。
構成は【Aメロ→A'メロ→サビ→Bメロ→サビ→アウトロ】
「虹」はBメロが印象的なのでサビが2回しになっていますね。
ピアノの音数の少なさ、最低限の音で音楽を成立させているのがポイントです。
左手の伴奏系のパターン、右手の和音の重ね方など参考になると思います。
さっきから再三書いていますが、決してサビで盛り上がりすぎてはいけません。
最初から最後まで一貫して同じ雰囲気で。
6.おわりに
というわけで劇伴のルールから、実際の劇伴を2例見てきました。
実際にはもっと多岐にわたるジャンルのドラマがあり、アニメも作り方が異なるのでもっと分析したいところですが、あとはご自分で。
あくまでもここに書いたことは自分個人の分析結果なので、これを手掛かりにいろんなサントラを研究してみてください。
必ず書ける音楽が変わります。
そして自分で作った曲を、必ず映像に合わせて確認してみてください。
思っていたよりも自分の楽曲の雰囲気をコントロールできていないことに気が付くはずです。
「なんか違うな……」と感じたら、何がどう作用して違和感に繋がっているのか分析してみてください。
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