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勝利への四ヵ条 〜テニスで最も重要な技術とは〜 #4 クリエイティビティ

勝利への四ヵ条、最後の一つは「クリエイティビティ/Creativity」だ。Creativityとは、日本語に訳すと「創造力」。テニスというスポーツの中で、技術や戦術は常に進化し、驚くべき多様性を生んでいる。それはひとえに、テニスプレーヤーの『イノベーション』の成果である。

ドロップボレー

例えば、今でこそプロとアマチュアの両方によって広く認知され、使用されている『ドロップボレー』について考えてみましょう。10年、20年前、おそらくこのショットは、ラケットの性能などによる影響で、日の目を浴びる機会は少なかったであろう。しかし、近年、ワウリンカ、アルカラス、ティアフォーなどの卓越したボールコントロールと繊細なタッチを持つ選手のおかげで、この技術は大いに注目を集め、頻繁に使用されるショットになった。 基本的に、ドロップボレーは相手のボールの勢いを吸収する技術が必要なため、高等なフィーリングを要する難度の高いショットの一つなのだ。しかし、相手がコート奥深くにポジションしている場合は、低くネットの近くに落ちるショットが非常に効果的となる。

『股抜きショット』と『背面ショット』

他にクリエイティブなショットと言えば、『股抜きショット』と『背面ショット』が有名だ。この二つのショットは、観客を盛り上げるための「お遊びショット」として認識される事が多いが、実は非常に理にかなった判断の元で放たれている技なのだ。

それを理解するため、次のような場面を想像してほしい。

自身がネットにいる際、相手が頭上を抜くロブショットを打ったとしよう。もし、通常のグラウンドストロークで打ち返そうとしたら、コートの後ろに向かって全力疾走し、ボールの後ろまで回り込む必要があるだろう。ただ、ボールは自分から遠ざかるように移動するため、非常に短い時間のなかで、普段と何ら変わらないフォームで打とうとした場合、コントロールの効いたショットを放つ事は不可能に近いのだ。

だから、「股抜きショット」と「背面ショット」が優れた『代替手段』となる。ボールを追いかけた後に、ストロークを打つため180度回転することなく、走る距離も短く済ませる事のできる二つのショット。軸足を置き、テイクバック、そしてラケットの加速という細かい段階ではなく、主に、手首のスナップで打つことで、ボールにある程度のスピードや回転も与えられる。このような特定のシナリオでは、これらの「トリックショット」が効率的で賢明な選択となる可能性があるのだ。

チェンジ・オブ・ペース

現代テニスで、ひときわ高度で、クリエイティブな戦術が『チェンジ・オブ・ペース』である。かの有名なテニス漫画『ベイビーステップ』でも、我らが主人公「エーちゃん」が得意とした技『チェンジ・オブ・ペース』とは、ショットにおける5つの特性(スピード、スピン、深さ、高さ、方向)を操作する事で、『リズムを創造する戦術』だ。

例えば、ダウン・ザ・ラインにスローペースのフォアハンドスライスを打つ展開を想像してみよう。このような状況では、相手はストレートよりも安全なクロスコートへのバックハンドを打つ可能性が高くなる。その予測の通り、バックハンドに来たショットをライジングでダウン・ザ・ライン方向へ、バックハンドフラットを打つ。一球目のゆっくりで低くキレるショットと二球目のタイミングの早いライジングショットとでは、リズム、視覚的認知、ボールの特性に大きな『変化/Change』がある。この『ショットのギャップ』で、相手のリズムを崩す事で、弱いショットを引き出す事ができるのだ。他にも、『チェンジ・オブ・ペース』を自分のサーブにも適用し、時折球速の遅いファーストサーブを出せば、相手の予想の『裏』を突くこともできる。下の映像は、ローマにて、王者ジョコビッチ相手に、上記で説明した『チェンジ・オブ・ペース』の展開でポイントを取った錦織のプレーである。

サービスにおけるクリエイティブな戦術として、他には「セカンドサーブダッシュ」という物もある。ファーストサーブより威力の低いセカンドサーブで、あえてネットに出て、攻撃的な姿勢を見せる事で、相手の意表を突き、ポイントの主導権を握る事ができる。これらの戦術はすべて『創造力』から生まれており、テニスの技術と戦略を向上させる上で、重要な役割を持っている。以下のビデオでは、ジョコビッチがセカンドダッシュでポイントを獲得している。

結論

クリエイティブなショットは効果的なだけでなく、あなたのパフォーマンスにスタイルと輝きを与える。これらのショットの打ち方を学ぶ事で、テニスがもっと楽しくなる事は間違いない。さらに、アングルボレー、持ち替えショット、ノールックショットなど、独創的なテクニックは底をつきない。新しいテクニックと戦術のイノベーションは、テニスが絶え間なく変化する大きな『証』なのだ

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