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「質問力」話し上手はここが違う(齋藤孝著)

「強くなるジュニア選手は何が違うか?」

この問いには、なかなか一言では答えられません。もちろん運動センスや背の高さ、体格の良さ、頭の良さ、メンタルの強さなど色々な基準があるかと思います。人によって答えは千差万別でしょう。

でも、私は確信を持って言えます。「強くなるジュニアはコミュニケーション力が高い」と。

特に、小学生の時に無名だったのに高校生の時にブレイクした子、体力的には劣っているのに勝負で勝つ子、高校からテニスを始めたのにかなり強くなる子は比較的よく喋り人の話をしっかり聞きます。また、テニスは下手でも部活でしっかりと学生生活をやりきった学生も大人との会話がとても上手です。

前置きが長くなりましたが、高いコミュニケーション力の根幹を支えるのが「質問」ではないかと私は思います。当たり前ですが、良い質問をする子は良い情報を手にして伸びることができますし、ダメな子はそもそも指導者に質問しません。

私は長いこと、この「質問」の大切さを感じておりましたが、「質問」を体系的に考えることはしていませんでした。自分の成功パターンがあっただけです。しかし先日、「質問力」という本を手に取り、読んで衝撃を受けました。

この本では、質問の定義から、「技化」「可視化」までされています。座標軸を使って質問するなんて、今まで想像もつきませんでした。

私の「質問」の考え方は底が浅かった…。点数でいえば50点。私は自分の視点だけで「質問」を考えていました。思い出すだけで恥ずかしい。

そこで今回は、この本の大事な部分、エッセンスとなる部分を切り取って皆さんにシェアしたいと思います。ぜひ、興味を持っていただけたら幸いです。素晴らしい本を書いてくださった斎藤教授にも感謝です。

結論:斎藤孝さんの言いたいこと

まず最初に斎藤先生が伝えたい結論を2つ拾ってみました。これだけ読んでもピンとこないかと思いますが、考えば考えるほど本当に素晴らしい言葉です。

結論その1「すなわち質問するという積極的な行為によってコミニケーションを自ら深めていく、という提言を本書でしていきたいのだ」

結論その2「一番大事な事は、問いを作ることだと私は思っている」

プロローグより3つの現実

ここでも斎藤先生の言葉を3つ、そのまま抜粋しました。どれもドキッとする指摘です。

現実1:「実は私たちは意外にシビアに相手の実力を、つまりコミュニケーション力を、もっとはっきり言えば相手の『質問力』を測っている。例えば、あまりにもつまらない質問ばかりする人間とは会いたくないだろう。つまり、『コミュニケーション力(質問力)』はその他の自分の力を発揮する舞台を用意するために、まず必要とされる力なのだ

現実2:「実は受験勉強や他のすべての試験にパスするヒントもここにある。問題を作る側に立ってしまえば、テストは呆気ないほど簡単に解けてしまう。あるところまで勉強すると出題者の意図が手に取るようにわかってくる。私は大学受験の国語でその境地に達した時、ほとんど間違えることがなくなった。これは目からウロコの発見だった。それまで私はずっと答える側に身を置いていた。そのため、自分の価値観で答えようとしていた。当然、出題者の価値観と私の価値観がずれれば、私は不正解とみなされる

現実3:「質問の仕方はプレゼンテーション以上に、人の実力をあらわにする。プレゼンテーションは、その時々のアイディアに左右される。だが「質問力」は大概安定しているものだ。低い人は低いところで安定している。高い人は余計なことを聞かず、肝心なことだけ聞いてくる。はっきりした実力差がある世界である。ちょうど武道のように、何段とか何級という明確なレベルがつけられる世界である。だからこそ、スキルアップしていくことができる

第一章、質問力を「技化」する

第一章では、質問を柔道の技のように定義する事に挑戦しています。(若者はゲームのストリートファイターの技のようなイメージで)

例えば、講演会でトンチンカンな質問をする人はレベルが低いとバッサリと切り捨てています。確かに質問で突然自分のことを話し出したり、質問して答えを聞かない人って時々いますよね…

そこで、斎藤先生は、講演会で質問する人は「聴衆みんなのためになる質問を意識しなければならないのだ」と技化しています。つまり、「質問力」は状況や文脈を確認してから繰り出す事により「技」になるのです。

このことを私が理解した時、思わず身震いをしました。当然、書かれている内容は当たり前なのですが、「言葉」を「技」に例えるとは凄いアイディアです。

第二章、良い質問とは何か?3つの座標軸を使って

次に第二章です。この章は、この本の最大のウリであり、すぐに実験したくなる「質問の可視化」が行われています。図表を見ながら質問を分析・作成できます。以下は斎藤先生の言葉です。

「私は座標軸を使った座標軸思考法という考え方が好きで、いろいろなことを整理するのに使っている。その観点から『質問力』を整理してみると大変わかりやすい。」

座標軸その1:「具体ー抽象」と「本質ー本質的」

まず最初に、「良い質問のキーワードは『具体的かつ本質的』というものである」と斎藤先生は指摘します。早速、座標軸で確認してみましょう。

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縦軸:上が具体的、下が抽象的
横軸:右本質的、左が本質的

つまり、右上が「具体的かつ本質的」で最高な質問になります。この右上に書かれている「今、あなたはどこにいますか?」という質問はこの本のケース・スタディです。

この質問は、携帯電話が普及し始めた時、どれくらいの人が携帯電話を使っているのかを大企業が調査した時に使った質問です。この質問の回答の多くが「職場」「学校」だったので、もう既にインターネットを家のパソコンで使う時代から、家の外で個人が使う時代に変わったという事がわかりました。意味を理解するのはちょっと難しいかもしれませんが、これが最高の質問です。

次に右下のゾーンです。ここは「抽象的かつ本質的」な質問で、例えば「あなたにとって生きるとはどういうことですか?」とか「人生で最も大切なものはなんですか?」と聞かれて「愛」と答えるような、不毛に近い会話です。でも、スポーツには時々こういった質問も必要になることもあります。

次は左上。ここは「具体的かつ非本質的」な質問のゾーンです。例えば政治家に星座を質問したり、テニスレッスン中にコーチに「結婚してるの?」と聞いてくるおばちゃんをイメージしてください。

左下はダメな質問です。

座標軸その2:「聞きたいー聞きたくない」と「話したいー話したくない」

次は、頭を「整理させてくれる質問」の座標軸です。

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縦軸:上が自分が聞きたい、下が自分は聞きたくない
横軸:右が相手が話したい、左が相手は相手は話したくない

まず右上の質問は当然ストライクゾーン。説明する必要もありません。会話は弾むでしょう。

次に左上は「自分が聞きたいが、相手は答えたくない」というゾーンで、子供の意味のない質問はここに入ります。斎藤先生は講演会の直前に子供から「テレビは誰が発明したの」と聞かれて困ったそうです。このように「相手の事情」や「文脈」を理解しない自己中心的な質問のゾーンです。

次に、右下は営業マンが「社長、最近ゴルフの方は…」と自分が興味が無くても、相手が話したいことを質問する「おべっか」ゾーンです。世渡りには多少必要でしょうとのこと。

左下は後ほど。

座標軸その3:「現在の文脈に沿ってるー沿ってない」と「相手の過去の文脈に沿ってるー沿ってない」

次は文脈にあっているかどうかわかる座標軸です。ズバリ言ってしまえば空気が読めているかどうかです。

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縦軸:上が「今現在の文脈に沿っている」、下が「沿っていない」
横軸:上が「相手の過去の文脈に沿っている」、下が「沿っていない」

講演会前にイライラした斎藤先生は、「もう応えるのはやめた。今ここでたったひとつ許される質問は何?だ」と子供に問う場面があります。

「今ここでたったひとつ許される質問は何か」と聞かれたら、今現在の文脈に沿い、斎藤先生の過去の経験にも沿っている問いを考えればいいわけで、これが右上のゾーンに入る質問を考える事になります。(例えば、今日の講演会の内容について)

その対極にあるのが左上のゾーンです。例えばフランス料理を食べている時に、いきなり相手の過去の深い話を聞けば、「せっかく料理を味わおうとしているのに、そんなことを聞かなくてもいいじゃないか」となります。

そんな時は相手の過去の文脈は捨てて、目の前の料理の話やワインの話をしても良いですよね。つまり左上の「今現在の文脈に沿っている」が「過去の文脈には沿っていない」ゾーンは、状況を「うまく流していくゾーン」と言ってもいいのでしょう。

右下は、自分はあまり聞きたくないが、相手はその問いに答えたくなる。これは「気配りゾーン」で、少し距離がある知り合いや仕事上の付き合いの相手に対して使います。まさしく「大人ゾーン」ということができるでしょう。ここは座標軸2の右下と同じです。

左下のゾーンは「聞いてみただけゾーン」。これは相手が答えたくない上に、自分も別に聞きたくなかったことを質問してしまったケース。本当にこんな質問をする人がいるのかというと…実際にいるそうです。

まとめ

このNOTEの冒頭で「強くなるジュニア選手は何が違うか?」と私は書きました。この質問を、座標軸を使って分析すると以下の通りです。

・本質的だけど、具体的ではない…△
・自分が聞きたいけど、相手が話したいかは不明…○か△
・現在の文脈にも、相手の文脈にもあっている…○(このNOTEを読んでくださっている方であれば)

つまり、悪くはないけど最高の質問とはいえない。私はこの質問を随分してきましたね…本当に反省です。でも、今は座標実を使うことで、質問を改善する方法がわかりました。

皆さんも、この3つの座標軸を使った質問方法は、ぜひ試してみてください。初めて会う人と話すときは、きっと役立つはずです。

因みに、この本の後半は実際の質問と回答を斎藤先生が解説しています。しかし、この後半は結構難しかったですね…国語力が高くないと読み込めないと感じました。前半はスパッと明快な理論でわかりやすかったので、尚更難しいと感じました。

なので、読書が苦手な人は第二章まで読めれば十分かと思います。それだけでも本を買う価値があります。

コミュニケーションが苦手だというスポーツ選手は意外といます。そんな方は、ぜひ質問やコミュニケーションも練習で獲得できる技能だと思って、本書を読みながら頑張って練習してみてください。トレーニングと一緒で、やればやるほどできるはず。そして、ぜひ実戦で使いましょう。

このNOTEがそのきっかけとなれば幸いです。




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