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【番外編】リモート望遠鏡ホスティングサービス(Dark Sky New Mexico) 速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(6))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

年間340日以上が観測可能、世界屈指の天体観測最適地の荒野に並ぶスライディングルーフ群。世界中からリモート望遠鏡を設置したいという依頼が舞い込む、老舗ホスティングサービスを訪問しました。

大小10程度のスライディングルーフのひとつ、ここにはそれぞれ個性的な9台のリモート望遠鏡があった。

リモート望遠鏡ホスティングサービス(Dark Sky New Mexico)って?

・10年以上前に発足した、(1).リモート望遠鏡専用の設置場所提供(分譲住宅のイメージ、月額料金)+(2).スライディングルーフの保守管理+(3).オンデマンドによる機材点検&修理交換サービス(別料金、基本的にパーツはオーナー手配だが、簡単なケーブルなどは現地で用意することも。)
・場所は米国アリゾナ州のツーソン国際空港から車で約2.5時間(約250km)
・ニューメキシコ州とアリゾナ州の州境付近の荒野の中にポツンと存在している。ダストストーム(小さな竜巻)が散見される荒野の一角
・スライディングルーフが大小様々10前後点在しており、望遠鏡が1つだけの所もあれば、6つや9つのところもあった。望遠鏡は現在全15~20台程度?(もっとあるかも)
・彼らが建てたスライディングルーフ以外のドームも敷地内に散見される

・年間340日が観測可能(単純な計算で晴天率93%)
・夏の季節風(モンスーン)の時期に時折雨が降ることがある。しかしごく稀であり、年間通してきわめて安定した晴れが続く。

・施設の一般公開や観望会などは開催していない。(公開を目的とした施設ではない)

サービスの公式サイト→https://darkskynewmexico.com/

スライディングルーフの一例。望遠鏡が1台のところもあれば、10台以上のものもあった。

調査の様子

・案内頂いた方(マイケルさん)は、保守管理の専門家 
・いくつものルーフを回りながら、熱心にこちらの質問に答えてくれた
・この施設は、オーナー夫妻、保守管理のマイケルさん+若いスタッフ(勉強中)+その他要員で、8名ほどがビジネスに関わっているとのこと。
・調査の日は忙しい折で、残念ながら関係者はマイケルさん以外ご不在とのこと。

周囲はダストストーム(小さな竜巻、さほど危険ではない)が時折現れる一面の荒野。「大規模な自然災害は存在しない」とのこと。

スライディングルーフの管理について

・年間を通して湿度が10-15%とたいへん乾燥しており、カビや湿度による金属の錆びは皆無
・問題となる自然現象は、強風・高温・降雨・砂埃の4つ
・各スライディングルーフ内は空調が効いており、昼間も涼しい状態
・強風、高温、降雨は常に気象観測装置で監視しており、設定された閾値になるとルーフが自動開閉する仕組み
・すべてのルーフ一つ一つにコンピュータ一台が対応し、それらを束ねるコンピューターがあり、そのマシンのある場所が管理人室となっている。(あるスライディングルーフの中)
・ルーフの開閉状況を常にコンピュータが監視しており、開閉時に関係者へ一斉にSMSで通知される仕組み
・砂埃は定期的に業務用エアダスターで除去している
・現在新しいスライディンググルーフを建設中、15カ所のポイントを持つ当地では最大級のもの(間もなく10月完成予定とのこと)
・光回線の速度は「はっきりとはわからないが、十分速い」とのこと。実際に現地で拝見したWebページの読み込みを見る限り、極端に遅いということは感じなかった。

接続するカメラを変更できるリモート・カメラターレット。

望遠鏡の保守管理、トラブルについて

・メンテナンスの頻度はどれくらいか? → オーナーから依頼があれば、というのが基本スタンス
・どのようなトラブルが多いか? → ケーブルの劣化やカメラの故障が多い
・どれくらいの頻度で故障する? → ほとんど起こらない(マイケルさんは、普段は約14km離れた自宅でリモート監視している)
・トラブル対応は時間がかかるか? → まちまちだが、やっかいなものもあるので、時間がかかる場合もある
・スライディングルーフが増設されるそうだが、マイケルさん+助手の2名でこれからも保守を続けるのか → やってみないと分からないが、増員の話はない
・自然災害でトラブルになったことはあるか → 自分の知る限り、ない。(そもそも自然災害がない)

彗星の時間変化を見るための3連撮像装置。オーナーは大学教員とのこと。

望遠鏡とその設置者について

・設置者の目的は何か → ほとんどが天体写真、ごく一部が小惑星や彗星の変化の追跡など特殊用途がある。大学設置の望遠鏡もある。
・リサーチ目的の望遠鏡もあるか → NewYorkの大学が設置した6連望遠鏡はそうだ。系外惑星を探しているらしく、同一天体を6つの波長で見ているらしい。観測装置も特注品で、他の望遠鏡とは一線を画す

ニューヨークの大学が設置した6連望遠鏡。望遠鏡の架台や制御装置は特注品、スライディングルーフもこの望遠鏡専用だった。

・教育用の望遠鏡もあるか → 米国内の大学、天文学教室が設置した望遠鏡がある。これは教育用と聞いている。(アイピースが着いていたが、現地に訪れることはないそうだ)
・リサーチ、教育用の望遠鏡はいくつくらいあるか → はっきりとは分からないが、5-6台はそうではないかと思う(全体の1/4~1/3)
・設置者はどういう人か → 教師、弁護士、大学の教員など。はっきり知らない人も多い。またひとりで2〜3台設置している者も少数ながらいる
・設置者は頻繁に変わるか → ほとんど変わらない。長く使っている人が大半だ。
・設置者が現地に来ることはあるか → あるにはあるが、あまり多くはないと思う。まったくこない人も多い
・設置者はどのような国の人か → 米国の人がほとんど。一部欧州も。(企業のぞいて)アジアからは私の知る限りない。自分はマーケティングに関わっているわけではないが、順調に増設を重ねているので、ビジネスはそれなりに順調なのではないかと思う。

全スライディングルーフの状態と、気象センサーを統合するコンピューター。ここは言わば管理人室で、マイケルさんはここで仕事をしている。
関係者にSMSを通じて動作状況が報告される。場所を問わず、チームで管理する体制を確立しているとのこと。

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

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