伊豆山の土石流災害
はじめに
大きな規模の土石流災害が発生してしまいました。危険な中での救出活動で早く救出したい一方で、二次災害を起こしてはならないという難しい対応が現地で進行中のことと思います。気象に関する支援のため、気象庁からも熱海市役所の災害対策本部に職員を派遣して対応しているとのことです。私自身、何もできませんが、一人でも多くの方が助かりますように、お祈りします。
頼朝と政子が対面したとされる逢初橋、ここを流れるごく小さな渓流である逢初川が土石流の現場となりました。いつも梅雨で大雨となるのは西日本から北陸にかけてが多く、静岡から関東南部で台風が絡まずに梅雨期にこれだけの災害となるのは少なくとも近年では珍しいと思います。今回の雨の降り方の特徴として、短時間で激しい雨が降ることはあまりなくて、3日間かけてじわじわと降水量が増えています。
2011年の台風第12号による紀伊半島水害
このような雨の降り方で大きな土砂災害を引き起こしたものとして、2011年の台風第12号での紀伊半島での大雨を思い出します。明治の十津川村水害の再来とも言える大雨災害については、すでにnoteでも触れていますし、これがきっかけとなって特別警報が誕生したことも述べています。私も政府視察の一員として奈良県の土砂災害現場を回りました。斜面が深くえぐられて崩れており、深いところから地盤が崩壊する「深層崩壊」という言葉が報道等でも飛び交いました。
十津川村の風屋という観測点での日雨量の記録ですが、1976年以降の上位10位の降水量とその発生日を示したのが次の表(出典気象庁HP)となります。
45年間での日雨量の記録の1位が2011年9/3、2位が2011年9/2と、1位2位を一連の大雨の中で記録しています。このような過去の記録から飛び抜けた雨量を記録する時に、しばしば大災害が発生します。次の表は熊本県人吉の24時間雨量の記録です。やはり、昨年の7月3日に第1位の記録となっていることがわかります。昨年7月の熊本県の豪雨については、こちらもご覧ください。
今回の降水の状況
今回の熱海付近の降水については、網代の観測がもっとも近いので、網代の日雨量の記録を見てみましょう。
10位までの記録に入っていません。7月1日が110.5mm、 2日が161.0mm、3日が140.0mmとなっていますので、3日間トータルすると結構上位には入ってくるかもしれません。また、網代はもともと測候所であったことから、観測統計開始が1937年となっていて、統計期間が長いので、その意味でハードルが高いのは確かです。それにしても統計的にそれほど顕著な降水量ではないとは言えそうです。
気象庁HPより3日10時段階での土砂災害のキキクルを示します。
このように大雨警戒レベルとしては、熱海市をはじめ広い範囲で濃い紫となっていて、これは土砂災害については、土砂災害警戒情報発表の基準を実況値で越えていることを示し、いつ土砂災害が発生してもおかしくない状況です。
分析と今後に向けて
この濃い紫の地域の中で、たまたま何かの他の条件が重なってこの渓流で土石流が発生したものと考えられます。ほかの地域でもこの程度の土石流が発生したのかもしれませんが、たまたまここは熱海という観光地で、人家が少なくなかったという事情もあるでしょう。土砂災害のハザードマップを見ても、都市部にハザードの高い地域が広がっていることがわかります。危険な地域でも開発を進めざるを得ない事情があったのだろうと想像します。開発のために谷を埋めた盛り土と土石流との関係は今後調査が進められることでしょうから、ここでは触れません。
小さな渓流でも大雨時には破壊的な土石流を発生させることがあるという事実を教訓に、避難等の徹底をさらに進めていくことはもちろんですが、人口減少時代の都市構造の見直しを強力に進めていくことも必要かなと思います。それと、今回は白昼に人家の多い地域で大きな土石流が発生して、それが大きな災害になってしまった背景なのですが、一方では、多くの動画が撮影されて、広くこの土石流の恐ろしさが共有されています。2011年の紀伊半島大水害でも、被災者からは津波のようだった、山津波だ、という言葉が聞き取り調査でも得られています。今回はまさにその山津波というイメージを鮮烈に共有できたことを今後の対策に活かしていくことが重要だと認識しています。
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