7月4日早朝の熊本県南部の大雨について
速報としてここまでのところをまとめておきます。予測精度の現状をご理解いただき、その上でどう対応したら良いの、という点で参考になればという趣旨でまとめます。資料は全て気象庁ホームページからです。
まず、4日6時の天気図です。太平洋高気圧が西に張り出して東シナ海を覆っています。一方、日本海北部から黄海にかけて高気圧が連なっていて、太平洋高気圧との間の梅雨前線がはっきりしているという状況です。
梅雨前線に伴い、どのような気団がどう流れているのか、数値予報の結果から見てみます。これは、3日9時を初期値とする24時間予報の結果で、上空1500m付近の暖かさと湿りを示す相当温位と風を示したものです。東シナ海から九州に向けて暖かく湿った空気が強い風で運ばれている予想となっていることがわかります。この段階では、この空気が通り抜ける地域のどこかで大雨が降る可能性が高いということはわかりますので、2日の段階から気象庁から全般気象情報として大雨の警戒を呼びかけています。
3日夕方の段階での全般気象情報では、
4日18時までの24時間に予想される雨量は、多い所で、
四国地方 300ミリ
九州南部、近畿地方、東海地方 250ミリ
九州北部地方 200ミリ
関東甲信地方 180ミリ
北陸地方 120ミリ
東北地方 80ミリ
と広い範囲に警戒を呼びかけています。
それで実際にどうなったかというと、4日朝5時までの1時間の解析雨量(レーダーと雨量計を組み合わせてメッシュ解析した雨量)では、顕著な線状の強い降水帯(線状降水帯)が発生しており、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨も解析されています。線状降水帯の特徴は、次々と上流部で積乱雲が発生してそれが東進していくため、この形が長時間継続するところにあります。この線状降水帯が南北に動いてくれると雨量はそれほど積み上がらないのですが、今回は長時間同じところに停滞してしまいました。
衛星画像で見てみましょう。これも4日の朝5時のひまわりの赤外画像です。東シナ海からの暖かい湿った気流に沿って、かたまりのような雲がいくつか発達しているのがわかります。このかたまりのような雲の下では積乱雲が組織的に発生して激しい雨を降らせていると推定されます。
特別警報が出ましたが、雨量の記録を見てみましょう。観測史上1位が、3時間雨量でも12時間雨量でも、24時間雨量でも、このように線状に並んだ地点で記録されています。線状降水帯が動かずに長時間継続したことを物語りますし、3時間雨量でも24時間雨量でも記録的というところが今回の大雨の凄さだと思います。
これら記録的な雨量となった観測点では、24時間の降水量も400ミリを超えており、前日の情報での九州の多いところで200ミリー250ミリの予想を大きく超えてしまいました。
50年に一度の雨と発信されることについて、毎年のように50年に一度はおかしいのでは、という印象をもたれる方が少なくないのですが、この図でもわかるように、記録が出た地域では、まさに50年に一度の記録なのです。全国ニュースを聞いていると、しばしば50年に一度と聞くのですが、その対象地域にとっては本当にそれくらいの現象が起きていて、それが別のところで起きれば、そこではやはり50年に一度であり、そのようなことが年に何回かあってもおかしいことではありません。
九州では過去にも多くの大雨災害が発生していますので、自治体の住民も大雨への備えや危機意識が他の地域よりも高く、避難などの行動にも相対的に慣れている地域です。また、特別警報は最終通告であり、その前に避難を、と地元気象台からも常日頃から説明がなされていると思いますが、今回のように未明から早朝に発生する大雨については、コロナ禍ということを別としても対応は相当難しかったのではないでしょうか。前日の明るい時間帯に判断するには、地域の絞り込みや現象の規模の予測がまだまだ難しいのも事実です。雨が激しくなって携帯の緊急速報メールが鳴ってから2階に避難するくらいが精一杯の対応だったのかもしれません。
2階に逃げることでなんとかなる場合はあるのですが、土砂流入や河川氾濫で2階にいても命の危険が高い場合があります。特別警報が出たあととなっては、避難経路も浸水や土砂災害等で危険です。土砂災害のリスクの高い地域、河川の近くで家が流される、あるいは2階まで浸水する地域、さらに家の構造などを加味して、さらに避難経路の状況などからそれぞれの住民の判断ということにならざるを得ない面があります。リスクが高い地域にお住まいの方には、ここまで切羽詰まる状況を待たずに、どれほどの大雨になるか不確定性が高い段階でも早めに避難していただけるような仕組みというか文化の醸成も必要かなと思います。
もちろん、線状降水帯の予測技術の向上には気象専門家が必死に取り組んでいます。数値予報技術の改良はもちろんですが、観測面でも九州ではGPSを使って海上の水蒸気を観測する装置を商用船に搭載する、水蒸気をリモートセンシングで観測する、など、線状降水帯の材料となる水蒸気の情報を取り込む観測実験も進められています。
予測技術、精度の現状を踏まえつつ、命を守るという観点での最適な判断を自治体や住民が取れるようにしないといけません。50年に一度の現象というのはその地域の住民にとってもあまり経験のないことなので、難しいのは確かなのですが、地域の気象台、河川・砂防関係者、自治体、さらに気象予報士の皆さんを含め、取り組まれていると思いますので、そんな活動にも時には参加してみてください。
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