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お盆時期に梅雨末期

はじめに

変な夏です、と言っても、コロナやオリパラの話ではありません。今年の夏の天候が、ずっと変な状況で推移してきています。7月は、札幌で1877年の観測開始以来もっとも暑い7月になるなど、北海道を中心に北日本で記録的な暑さとなりました。せっかく涼しいはずの札幌に移したオリンピックのマラソンや競歩が過酷な暑さの中で行われたのは記憶に新しいでしょう。世界的にも、各地で猛暑で山火事が頻発したり、洪水とは無縁そうなドイツ、ベルギーで大洪水が発生したり、中国では1時間200ミリという信じられない短時間豪雨で地下鉄や道路が水没、いずれも大きな被害となりました。

7月を中心とする北日本の猛暑は、いつもは日本付近から南海上に腰を落ち着かせる亜熱帯高気圧が北日本からサハリン方面と、いつもより1000kmほど北にあり、いつもはフィリピンの東海上で活発な積乱雲活動もいつもより北の、沖縄や小笠原諸島といった緯度帯で活発だった、というのが典型的な様相です。この結果、海面水温は北日本周辺では平年よりかなり高く、日本の南海上では平年より低く、沖縄周辺の海水温と日本海の海水温がほぼ同じという状況になっています。

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いずれも気象庁HPより、8月7日の海面水温(上が平年からの偏差、下は海面水温そのもの)

このような気象状況がなぜ生じたのか、地球温暖化によりこのようなことが発生する頻度が高くなるのか、このあたりは今後の研究を待ちたいです。

この7月からの変な夏は、オリンピックの終了とともに、別の変な夏に変わってきました。お盆休みの時期に梅雨末期のような天気図が続きます。猛暑だった北海道では、冷たいオホーツク海高気圧に覆われて、最低気温が8月としてもっとも低い気温となるなど、冷たい8月に変わりました。以下、お盆休みに梅雨末期のような気圧配置が続くことについて、最近の例を示したいと思います。

真夏の梅雨

特にお盆の季節に天気が悪い日が続くと、他にニュースがない時期でもあり、マスメディアが騒ぎます。特に気象庁の季節予報や週間予報が外れていたりすると、国民のお盆休みへの期待を裏切られたことの恨みがマスメディアを含めて苦情として気象庁にきます。私が、気象庁の予報業務を仕切る業務課で広報や国会、防災の担当だった、2003年のことはよく覚えています。この年は、7月に熊本県水俣市で大規模な土砂災害があって、この対応にも追われつつ、土砂災害警戒情報の運用に向けて、故廣井脩先生のご指導のもと国土交通省砂防部の関係者と議論を積み重ねていた年でした。

この年は今年と違って、なかなか梅雨が明けず、関東や近畿でも8月になっての梅雨明けとなり、東北では梅雨明け特定できず、という年でした。エルニーニョが終わって、順調な夏を季節予報でも見込んでいたところ、これがそうではなかったというのがまずあります。さらに、8月に梅雨明けしたものの、その後も天気はぐずつき気味だったところ、週間予報では後半は夏らしい天気になる、という予報をしていたのですが、お盆休み、ずっと雨が続いて特に伊豆半島などでは大雨により鉄道運休が続くような状況になってしまいました。

もう一例としては、2014年、こちらは真夏の豪雨災害として広島での土砂災害をすでにテレビ等でも紹介しています。この年は、福岡管区気象台長として単身赴任でしたが、お盆は帰省せず家族に福岡入りしてもらっていました。広島での土砂災害の夜は、管轄の福岡県や山口県でも大雨が続いて、一晩中、データの確認と現場にいるY予報課長との電話連絡という状況でした。何かあったらいつでも駆けつける用意をしていた中、広島での土砂災害のニュースを確認した記憶があります。

お盆の梅雨というと、この2例が頭にすぐ浮かぶのですが、データをちょっとみてみます。気象庁HPから、西日本の8月中旬の日照時間の平年比の低い方からトップ10を示します。降水量ではなく、日照時間にしたのは、降水量だと台風の影響が強く反映されるからです。

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ピナツボ火山噴火の影響を受けた有名な冷夏年である1993年がトップですが、2000年以降では、上記で紹介した2003年、2014年に加えて2015年も入っています。これらの年の8月中旬の天気図を気象庁HPから引用します。

まず、2003年8月

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次は2014年8月

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最後に2015年8月

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いずれの年もこの期間、停滞前線が描かれ、オホーツク海高気圧もあり梅雨のような天気図になっていますので、それほど珍しいわけではないということがわかります。7月の北日本猛暑のパターンの方が、頻度としては低頻度の現象なのかもしれません。それと、梅雨パターンに移行する際に2003年と2014年では、台風の日本付近での北上が関係しているように見えます。台風が北から寒気を下ろしてくる形でしょうか。今年も台風第9号の北上をきっかけとして梅雨型の気圧配置になっています。

台風をきっかけとした豪雨というと、7月と時期は異なりますが、2018年の西日本豪雨もそうでした。

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台風が北上するとともに、オホーツク海高気圧が強まって、日本海で寒気が南下して前線を強化しています。西日本豪雨については、台風が前線を南下させる(寒気を南下させる)ことで豪雨をもたらす気圧配置になったという研究もあります。https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20190717/

一番知りたいこと

このような分析を通じて何を調べたいかというと、日本の梅雨に伴う集中豪雨は、台風と並んで防災にとってきわめて重要な現象です。これが近年、どう変化しているのか、地球温暖化により変調していることはないのか、これを追求することは温暖化対策としても防災としてもとても重要です。温暖化により気温や海面水温が上昇して、水蒸気量が増えて降水量が水増しになることはさまざまなアプローチで研究されています。いままでよりも水蒸気の増加分だけ雨量が増えました、ここまではわかってきています。たとえば、西日本豪雨については、気象研究所でこのような研究がすでにあります。https://www.mri-jma.go.jp/.../021020/press_release021020.pdf

しかし、温暖化により、アジアモンスーン現象の一部である梅雨がどう変調するのか、それによって、どんな豪雨リスクが増えることが考えられるのか、こうした研究はまだまだのように思います。その研究への一つのステップとして、こうした変な天気図が継続することをその背景も含めて分析することが重要と思います。気圧配置の転換に台風がトリガーになっているかもしれない、というのは、もしかしたら、たまたま台風が日本付近を北上したから、という偶然的なきっかけで、これは温暖化とは無関係なゆらぎかもしれません。一方、台風の進路や強さが温暖化で変調するのであれば、温暖化に伴う変調と言ってもよいのかもしれません。つい先日、AR6のWG1の報告が公表されましたが、AR7、AR8では、このあたりに切り込むことができるよう期待していますし、私も微力ながら貢献できればと思います。

なお、今回示した例の中で、2014年の8月と2018年の7月には、大きな大雨災害が発生してしまいました。さらに表の日照時間の記録の1位はピナツボ火山の影響があったと言われる年ですが、鹿児島の86水害という甚大な豪雨災害が発生しています。不順な天候の夏は、豪雨発生を引き起こす基本場となります。お盆時期は日本近海の海面水温がもっとも高い季節でもあり、ここでも示した通り、今年は特に日本海の海面水温がきわめて高くなっています。こうした時期に梅雨末期の気圧配置が続くことに極めて危機感を持っています。地域での効果的な防災対応を通じて大災害にならないよう、祈ります。

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