見出し画像

鬱と本

半年ほど前、ひどく落ち込んでいて、生き抜く最低限とすこししかできない日々があった。

うつ病というには軽いけれど、個人的には何もかもがしんどかった。
シャワーを浴びる回数も減っていたし、食事も1日2食摂れば良いほう。
毎日の時間をただ流しっぱなしにしているみたいで、それも嫌になっていた。

なんとかギリギリだったけれど、買い物に行くときに聴く音楽と、読書だけには手が伸びた。
とはいえ、音楽はインストゥルメンタル・ジャズやピアノ音楽が増えて、なにかを優しい音色に溶かしていくみたいだった。
読書は岩城けい『さよなら、オレンジ』、村上春樹『ノルウェイの森』、ブランドン・テイラー『その輝きを僕は知らない』などを読んだ。暗い話が多くて、話に入るのが簡単だった。

『その輝きを僕は知らない』は、疎外感との葛藤を描く小説だ。黒人でゲイの主人公が大学院のコミュニティの中で馴染めず浮いてしまう。その生々しさが、文字を伝って髄まで届く。
私も落ち込んでいて、みんなについていけていない。ついていけなさに、拗ねてしまう。ああ、同じだ。これ以上落ち込んでも、動けなくなるだけなのに、引っ張られてさらに暗い気持ちになる。


少ししてから、友達が電話をしてくれた。
「最近落ち込んでるんだよね」「暗い小説の主人公に自分をダブらせて読んじゃうんだよね」と話した。
「それってめっちゃいい読書じゃない?したいと思ってできることじゃないよ。いいなあ」と、彼女は励ますようすではなく言った。
こんなに暗い話にダブらせる読書なんて本格的にヤバいところまで来たなぁ、引き返せるかなと思っていたところだったので、目から鱗だった。
私は羨ましがられる読書体験をしているのか、と。

それからは、今だからできる読書だと割り切って、さらに捗った。
Kindleで何冊も買って、普段ならあまり読まないジャンルも手を伸ばした。
がむしゃらに読んだところはあるし、合わなくて面白いと思えないのもあった。途中でやめた本もあった。
けれど、今ならそれでよかったと思える。
彼女の言う通り、あのときの感覚で読書と向き合えるのはしたいときにできることではない。あの状態だからこその、読みができたし、残っている。


落ち込んでいる状態に対して、いい読書してるねと言ってくれたことをずっと忘れない。感謝し続ける。





この文章は点滅社『鬱の本』よりインスパイアされて書きました。
まだ読み途中ですが、とても素敵な本です。ありがとうございます。