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アレのパラドックス


 アレのパラドックスをご存知でしょうか?

 モーリス・アレというフランスの学者が見つけたのでアレのパラドックスと呼ばれているものです。ちょっとややこしくて、私はすぐに忘れてしまうので、腹落ちするために文書にしてみました。

アレのパラドックス

 アレは1953年にニューヨークで行われた会議で参加者にこんな質問をしました。

質問その1
どっちのくじを引きますか?

くじA : 2.5億円 10% / 5千万円 89% / 外れ 1%
くじB : 5千万円 100%

この質問に、多くの人はくじBを選ぶと答えました。

質問その2
どっちのくじを引きますか?

くじC : 2.5億円 10% / 外れ 90%
くじD :  5千万円 11% / 外れ 89%

この質問に、多くの人はくじCを選ぶと答えました。

どこがパラドックスなのか?

 質問その1の場合、くじAを選んで外れるとショック大きいから絶対外れの無いくじBを選ぶというのは心情的に納得できます。

 質問その2の場合、どっちも外れる可能性高いしどうせなら当たった時にでかいくじCを選ぶというのも心情的に納得できます。

 一般的な感覚だとパラドックスという感じはしません。

質問その1で、私だったらくじAにするという人もいるかもしれませんが、くじBを選んだ人を変だとは思わないですね。

 これがパラドックスと呼ばれるのは、経済学の期待効用という考え方にそぐわないからです。

期待効用の超ざっくりした考え方

 3つのくじの結果がどれだけ嬉しいかを数字で表します。

効用(2.5億)
効用(5千万)
効用(0万)
*細かいお話をすると、効用()は関数です。25万,5万,0万と数字をそのまま使わないのは25万と5万でどんだけうれしさが違うかは単純な数字比較では無いので、関数で変換して適切な値にするというイメージです。

 それぞれの効用に確率を掛けて合計したものを期待効用とよびます。

くじAの期待効用

くじAはこんな内容でした

くじA : 2.5億円 10% / 5千万円 89% / 外れ 1%

このくじの期待効用は

効用(2.5億) x 10% + 効用(5千万) x 89% + 効用(0万) x 1%


くじBの期待効用

 くじBはこんな内容でした

くじB : 5千万円 100%

このくじの期待効用は

効用(5千万) x 100%

くじAとくじBの比較

くじAよりくじBを選んだということは下記数式が成り立つということです。

効用(2.5億) x 10% + 効用(5千万) x 89% + 効用(0万) x 1% < 効用(5千万) x 100%

くじCの期待効用

くじCはこんな内容でした

くじC : 2.5億円 10% / 外れ 90%

このくじの期待効用は

効用(2.5億) x 10% + 効用(0万) x 90%

くじDの期待効用

くじDはこんな内容でした

くじD : 5千万円 11% / 外れ 89%

 このくじの期待効用は

効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%

くじCとくじDの比較

くじDよりくじCを選んだということは下記数式が成り立つということです。

効用(2.5億) x 10% + 効用(0万) x 90% > 効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%

質問1と質問2を比べてみる

 質問1、質問2でそれぞれのくじを比較した結果がこちらです。

質問1の比較結果
効用(2.5億) x 10% + 効用(5千万) x 89% + 効用(0万) x 1% < 効用(5千万) x 100%
質問2の比較結果
効用(2.5億) x 10% + 効用(0万) x 90% > 効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%

 ここで質問1の式を変形していきます

効用(2.5億) x 10% + 効用(5千万) x 89% + 効用(0万) x 1% < 効用(5千万) x 100%

効用(5千万) x 89%を右辺に移動すると

効用(2.5億) x 10% +  効用(0万) x 1% < 効用(5千万) x 11%

両辺に 効用(0万) x 89% を加えると

効用(2.5億) x 10% +  効用(0万) x 90% < 効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%

 変形したものを質問1の比較結果と並べてみると

質問1の比較結果
効用(2.5億) x 10% + 効用(0万) x 90% > 効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%
質問2の比較結果を変形したもの
効用(2.5億) x 10% + 効用(0万) x 90% < 効用(5千万) x 11% + 効用(0万) x 89%

 この2つの式に整合性が取れない、一般的な期待効用の考え方が当てはまらない人間の行動ということでパラドックスと呼ばれています。

 経済学の期待効用というモデルで説明できないというだけで、決してこの考え方が変だというわけではありません。人間が期待効用モデルでは説明できない決定要因を持っているということです。

期待効用でカバーできてないところ

後悔
 
人間の持っている後悔の決定への影響をカバーできていない。

 最初の質問でくじAを選んでもし外れたら、大概の人間はとても後悔します。二番目の質問はどっちも外れる確率高いから後悔はしないです。この感情は期待効用モデルではカバーできて無い部分ですね。

損失回避性

 人間の一番発生しやすい結果を起点に考え、そこから損失が発生するのを嫌う損失回避の傾向をカバーできていない。

 最初の質問では一番起こりやすい結果である5千万円を起点に考えるとくじAでは損失が発生する可能性があります。
 二番目の質問では一番起こりやすい結果である0万円を起点に考えるので、どちらのくじも損失は発生しません。

以上、今日はアレの逆説を説明してみました。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考書籍


Photo by Steve Sawusch on Unsplash

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