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インド神話と宝石のお話。ブルーサファイアと土星の神シャニの物語を追いかけてみた。

キラキラした宝石が大好きなので、インド神話と宝石を調べている。
今回の記事ではツイッター投票で一番投票が多かったサファイアについてまとめてみた。サファイア、とても人気がある。私も青い宝石は大好き。
さくっと書いてみようと思っていたのに、相変わらず毎回長い記事ですまない。
ちなみに記事の中に出てくる宝石の意味については、スピリチュアル的な視点で述べたものではないのでご了承ください。

サファイアは不吉な宝石なのか

サファイアについてネットで調べると、Wikipediaでは「インドでは、ヒンズー教徒には不幸をもたらす不吉な石とされていたが、インドの仏教徒には逆に尊重され、その風習がヨーロッパに広まった。」と書いてある。

ヨーロッパで知られるようになったのはトラヤヌス帝ローマ以降で、当時盛んだったインドとの交易でもたらされたとされる。 インドでは、ヒンズー教徒には不幸をもたらす不吉な石とされていたが、インドの仏教徒には逆に尊重され、その風習がヨーロッパに広まった。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)サファイアより

ヒンドゥー教徒にとってサファイアは不幸をもたらす不吉な石で、逆に仏教はサファイアを尊重していた? ソースはどこだろう。
人に聞くより自分で調べる方がすきなオタク、ワクワクがとまらない。

というわけで。
この謎を解き明かすべく、我々はインドのジャングルの奥地へを向かった(向かわない)

サファイアの種類について

サファイアにはいろんな色があるが、インドで特に重視されるのは、ブルーサファイアとイエローサファイアだ。
ちなみに透明なサファイアはダイヤモンドの代用とされる。
あとお隣のスリランカでは蓮の花の色のパパラチアサファイアが有名。
サファイアとルビーと同じ鉱石で、赤いのがルビー、ルビー以外の色がサファイアと呼ばれるらしい。

赤いのがルビー。それ以外の色は全部サファイアらしい。

インドで最も重要だとされる宝石マハーラトナ(偉大なる宝石)には、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、真珠の5種類がある。
この場合のサファイアは、とくにブルーサファイアを指すっぽい。

ブルーサファイアはインドのお守り宝石、9つの惑星(ナヴァグラハ)と関連づけられているナヴァラトナ(9つの宝石)の一つであり、土星の神シャニの象徴でもある。
ナヴァラトナとマハーラトナについてはこちらの記事をご参考に。

ちなみにイエローサファイアは木星ブリハスパティの象徴とされるけれどもトパーズでも問題ないとされているし、サファイアはブルーサファイアを指すことがおおいので、ここではイエローサファイアではなくブルーサファイアについて追いかけて行こう。

聖なる碧い宝石、ブルーサファイア

インドではブルーサファイアは秋を表す宝石とされる。
ブルーサファイアの色については「紺碧の海。聖なる孔雀の喉の色。青い水の泡。狂ったコキラ鳥の喉の色。インドラニーラ」と表現されている。
ちなみにコキラ鳥というのはインドにいるカラスみたいな紺色の鳥のこと。カッコウの一種らしい。

Indranīla インドラニーラはインドラの青という意味でブルーサファイアのこと。また、ブルーサファイアはŚakranīla(シャクラニーラ。インドラの青)nīlamaṇi(ニーラマニ、青い宝石)、śanipriya(シャニプリヤ。土星が好きなもの)などと呼ばれている。
シャクラもインドラの意味なので、ブルーサファイアは昔はインドラと関連づけられていたのかもだ。

サファイアの青は美しいね

ニーラは空の色、深い海の青色を表す神秘的で聖なる色とされてきた。
シヴァはニーラカンタとも呼ばれる。シヴァが世界を救うために毒を飲んで青くなった喉の色がニーラだ。ヴィシュヌ(クリシュナ)の肌の色もニーラとされる。
言語は専門ではないのでアレだけれども、ニーラ nila には青、深い青色、黒、という意味があるので、カーラ kala (時間、深い青色、黒)とも近い。

神聖な、天空や大海を表す青。その青を宿したのがブルーサファイアだということだ。

インドでは、宝石の種類よりも色が重視される場合が多いというのはナヴァラトナの記事でも解説した。これらの意味合いを鑑みると、青い宝石というのは別格の扱いを受けてるような気がする。
なんたってヒンドゥー教の主神であるヴィシュヌ(クリシュナ)とシヴァが関係しているし、神の王であるインドラが名前に入っている宝石なのだから。

しかしこれだと、一体どこに不吉なという意味合いがあるのか全くわからない。ブルーサファイアは明らかに神の石じゃないか……

滅多に使われない「偉大なる宝石」

不思議なことに、ブルーサファイアはマハーラトナ(偉大なる宝石)なのに、ほかの4つの宝石(ルビー、真珠、ダイヤモンド、エメラルド)とは違って、伝統的なインドのジュエリーにはあまり用いられない。

もちろん、ムガル帝国時代のジュエリーコレクションなどで、サファイアが中心にあるものもあるっちゃあるし、ナヴァラトナには当然使われているが、ルビーやエメラルドのジュエリーに比べると格段に少ない印象。

ムガル帝国時代のジュエリー。
ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、真珠の4つが使われているが
サファイアは使われていない

というのも、ブルーサファイアはほかのマハーラトナとは扱いが違っていて、特に慎重に扱われていたそうだ。
ブルーサファイアには強い魔除けの力があると考えられていたこともあり、安易に身につけるものではなく、占星術師がホロスコープからブルーサファイアが合うかどうか判断してから身につけていたとか。
よくないサファイアを身につけるとヤバいと信じられていて、入手する際の石選びも慎重に行っていたらしい。

そしてこれは、やはりインド占星術の土星の影響があるからということだった。

前述したとおり、ブルーサファイアはインド占星術では土星の宝石とされる。土星の神シャニは、不幸を司る神として有名だ。土星の神と惑星については後でまとめるが、不幸の神の象徴がサファイアとされたのであれば、たしかに不吉な宝石だと考えられるのは理解できる。

しかし、だったらどうしてそんな不吉な宝石がマハーラトナとされているのだろうか?

また、インドにはマハーラトナではなくてパンチャラトナ(5つの宝石)とされるものがあって、これは「金、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、真珠」であり、ここにもサファイアは入る。
つまり昔から重要視されている宝石のはずだ。なのにどうして。

謎は深まる。

サファイアの歴史

国家のあり方や財政などについて詳細に記されている『アルタ・シャーストラ』(紀元前3世紀頃)には、サファイアについての記述がある。これだけでもう、古代インドでは、サファイアはとても重視されていた宝石だったということがわかる。ちなみにサファイアは紺碧の色のものが上質らしい。

『アルタ・シャーストラ』に書かれているということは国がしっかり品質を管理していただろうし、この時代には特に不幸だとかよくない宝石だというイメージはなかったということがわかる。

ちなみに『アルタ・シャーストラ』で宝珠とされているのは「ルビー、ラピスラズリ、サファイア、ムーンストーン、水晶、太陽石」の6石で、それとは別にダイヤモンド、真珠、珊瑚の3石が特に重要な扱いになっている。

サファイアとお花のアクセサリー。2世紀くらい。
ブッダガヤ出土 大英博物館蔵

つまり、インド占星術で惑星と宝石が文献で紐付けられるようになるのは6世紀の『ブリハット・サンヒター』より後になるだろうから、サファイアもそれまでは貴重な宝石として珍重されていたのだろうなと。
特に青い宝石=ニーラ=ヴィシュヌやシヴァと関連付けて考えられていたことを鑑みれば、土星と関連づけられるまでは、不幸どころかめっちゃご利益あるありがたい宝石だったのではという気がする。

というところをみていくと、やはりサファイアが不吉だとかなんとか言われるのは、土星と関係づけられるようになったことが原因なんだろうなあ。それまではそうでもなかったんだろうなあ、と。

土星さん、あなた一体何者なのよ。

インド占星術における土星

インド占星術では、土星は凶の星とされている。
とにかくなんか辛抱とか困難とか義務とか、試練を与えるとか、そういうかんじの厳しめの意味合いを持っているらしい。
動くスピードが遅い星なので、遅延、抑制とか制限みたいな意味合いもある。つまり、華やかで力が漲っているイメージではない。静かなかんじだ。

なので、惑星の神々の中では一番人気がない。
まあ不幸や困難や辛抱やらそういうことは、人生の上でできるだけ避けたいことではある。避けたい気持ちもわかる。

土星と関連づけられているものたちはこちら

・乗り物:カラス
・色  :黒
・持ち物:ダンダ(杖)とカマンダル(壺)
・金属:鉄
・エレメント:空気
・供物:米
・穀物:胡麻
・花:シャミ
・宝石:サファイア
・色:青
・宇宙の色:紫
・位置:西

土星の色は青だとされるので、青い宝石であるブルーサファイアが象徴となったのだろうと思う。

そんなこんなで、その土星の宝石とされるブルーサファイアなので、やっぱりこうどうしてもインド人にとってもサファイアは負のイメージが強いらしい。
うろ覚えなんだけど、インドドラマの『ポロス』で、青い石を「不吉だから触るな」とかいうシーンなかったっけ、あれサファイアかな?

しかし、あんまよさげじゃないイメージがある土星だけれども、本来土星が司る困難や試練というのは、人生のうちでとても重要な、乗り越えなければならない課題とかだったりもするらしいので、凶の星とされてるからといって土星自体が悪いというわけではないらしい。

また、土星の落ち着いていて、確実で、慎重な面というのは悪いわけではないし、インド占星術では様々な星との関係性で占うので、土星の影響がかえって良い結果になる場合もあるそうな。

なので、インド占星術では、ホロスコープから守護惑星と宝石を教えてもらったとき、あなたの星は土星だと言われても悲しまないでほしい。
土星だから悪いというわけではないそうなので。

Shani Amavasya という土星の神シャニのお祭りのときにシャニを崇拝すると、土星の影響を避けることができて、幸せになるし成功もするし、いいことだらけだという。
強くて恐ろしい存在だからこそ拝むことでより強いパワーを授かり御利益を得ることができるという、インドあるあるのやつだ。
ちなみに2022年のShani Amavasyaは4月30日だそうな。
シャニに礼拝するときは黒い服をきたり、胡麻油を体に塗ったりすることもあるらしい。

また、調べたところ、土星はnīlavāsas(ニーラヴァーサス)とか nīlāmbara (ニーラーンバラ)などと呼ばれている。

なんてこった! 土星がニーラですって!

土星もクリシュナやシヴァ、インドラと同じく青色ということなのだ。
そしてやはりというか、土星はkala(カーラ)とも呼ばれているらしい。

カーラ!!?
つまりあれか、ヒンドゥー教の最強パワーの概念の一つ、カーラ。
カーラ=時間、黒、青。誰も止めることができない時間と死を司るカーラ。シヴァでありヴィシュヌでありヤマでありカーリーでもあるこの最強のパワーが、土星にもあるととれるのでは。
インド神話、時間が最強なのはジョジョみあってすごくすき。

しかしなんてこった(二度め)
つまり前述した、聖なる青であるシヴァやクリシュナの青と、土星の青は同じとみなされていて、青繋がりで土星はカーラでもあるということだ。

シャニのすがた。からすさんが可愛い。

ヒンドゥー教の主神の持つ力と同じ言葉で呼ばれるなんて、もしや土星の神様のシャニ、すごい力をもった神様なのでは???

インド神話でのシャニ

シャニはスーリヤやブリハスパティのような古い神ではなく、中世以降にプラーナなどの聖典に登場してきた神だ。

シャニのすがた。カラスさん可愛いな!

シャニはスーリヤの息子とされる。スーリヤの妻サンジュニャーが、スーリヤの熱さと眩しさに耐えきれず家出したとき、自分の身代わりに置いた影、チャーヤーとの間にできた子供だということだ。
シャニは黒い体で生まれてきたので父のスーリヤから本当に自分の子供なのかと疑いを持たれた。そのため父親のスーリヤと仲が悪いとか。
邪視のパワーがあって見たものを破壊することができるとか。(妻の呪いという説もあるらしい)
あと兄は黄泉の国の神、ヤマ様(日本だと閻魔様)だとか。
これは数多くあるシャニの物語の一つで、『ヴィシュヌ・プラーナ』にある。

また、シャニは視線だけで神を殺せるすごいパワーがあるらしい。ガネーシャの頭がシャニに見つめられたことによって破壊されたので、代わりに象の頭をつけたという神話があるくらいだ。

シャニは手にはダンダ(杖)か剣、三叉戟などを持ち、肌は黒く、黒い服をきている。
ヴァーハナ(乗り物)はいろいろ説があって、カラスだったり馬だったり牛の像もあったりする。
シャニは年老いた老人、つまり長寿であり、悲しみや老い、義務、役割、リーダー的な存在、知恵者であったり、過去を持つ者であったりそういう意味合いがあるらしい。

また、ネットで検索すると、英語の記事では「シャニはラーヴァナに囚われていたときハヌマーンに開放されたので、その恩義を返すためにハヌマーンの信者には土星の力を向けないとされる」という話がたくさんでてくる。
ラーヴァナは占星術師でもあり、惑星たちを閉じ込めてその力を利用していたとかなんとか。
ヴァールミーキ仙の『ラーマーヤナ』にそのエピソードがあったかどうか忘れたので今度読み直してみる。

シャニが太陽の息子とされて具体的に神話の中に登場したのが中世以降というと、やはりインド占星術とナヴァグラハ(9つの惑星)の関係が作られてきた時代でもあるので、どちらか先かはわからないけれども、お互いが関連しあっている関係なのだろうなと思う。

そしてシャニは、クリシュナの化身の一つであるとされている。

ヴィシュヌの化身であるクリシュナさま

……いや、シャニがニーラと言われているあたりで、なんとなく気づいてはいたけど、はっきりと公式(聖典)で言及されている。
インド神話、なんて公式が手厚いジャンル……

『Brahma Vaivarta Purana』というヴィシュヌ派の聖典では、クリシュナがシャニであると書かれている。気になったので調べてみたら、クリシュナは「惑星の中のシャニ」とあった。
クリシュナの青い肌は、9つの惑星の中では、聖なる色である青、二ーラでありカーラであるシャニと同一視されてもおかしくはない。

『Brahma Vaivarta Purana』は様々な神様がクリシュナの化身だとされている。ガネーシャもシヴァもクリシュナの化身となっているので、シャニもそうだと言われれば、せやな、と思う。

ちなみに『Brahma Vaivarta Purana』は基盤は8〜10世紀頃にできていたところにいろいろ追加されて15〜16世紀頃に今の形になったらしく、やはり新しい部類の聖典ということになる。

とはいえシャニはシヴァ系の寺院で祀られていることもある。シャニ=ヴィシュヌかといったらそういうわけではなく、物語によってはシャニはクリシュナの信者だったりシヴァの信者だったりするので、このへんは聖典や地方によっても解釈はいろいろあるとはおもう。

そして土星が象徴する義務とか役割とか困難とかそういう厳しめの言葉で思い出すのは、インドにあるダルマという思想だ。
『バーフバリ』でアマレンドラがクマラに言った「王族の義務」(クシャトリヤ・ダルマ)といったアレだ。
どんな人も、生まれながらにダルマ(義務、役割)を背負っている。
だから役割を果たしなさい、という教えだ。

もし土星にしんどいダルマ的な意味合いがあるのなら、そりゃあ強いわな。やべえ星だわ。と思った。
クリシュナ様とダルマが絡むといわれて思い浮かべるのは『バガヴァッド・ギーター』でクリシュナ様がアルジュナにクシャトリヤのダルマを説くあの有名なシーンだ。

クリシュナの教えを聞くアルジュナ 

従兄弟たちを殺したくないと戦場で立ちすくむアルジュナに、なすべきことをしなさい、役割を果たしなさいとクリシュナ様は言った。アルジュナは全てを受け入れ、戦争へと赴いた。

クリシュナと土星が結びついて考えられたのが遅くとも16世紀ごろまでに一般化していたのだとしたら、ブルーサファイアがほかの石とは違うと考えられていた理由はわかる。

ブルーサファイアがクリシュナ様を象徴する石なのであれば、身につけることで、これから起こることが大きな試練となって襲いかかってくるイメージが湧く。安易に身につけるのは気が引ける。よほどの覚悟が必要になる気がする。

そういえば、クリシュナ信仰で有名なナットドワラのシュリーナートジーのお姿を入れたペンダントには、青い石が使われていた。あれはたぶんブルーサファイアだろうな。

ちなみにクリシュナやシヴァの顔をサファイアで表現しているジュエリーやお守りはあるのだけれど、ざっと調べたところ、クリシュナの象徴がサファイアというわけではなさそうなので、これは私がそうじゃないかなと思ったことなので一般的ではないかもだ。そのへんはご了承いただきたい。

サファイアは身につけてはいけないのか?

そんなこんなで、土星とかクリシュナ様の宝石だとしたら、ちょっとこれはパワーやばすぎかもしれないという気がしてきた。
だとしたら、サファイアはやはり身につけてはいけないと考えられているのだろうか?

そんなことはないだろう。というのが結論だ。

18世紀 ムガル帝国時代のサファイアの指輪 英国博物館蔵 

サファイアは、古くは南インドやセイロン島(スリランカ)で採れていたし、アクセサリーとして使われていた。今でもスリランカは良質なサファイアの産地だ。
インドのサファイアといえばカシミール産が有名だが、カシミールで上質なサファイアが採れるようになったのは19世紀後半になってからのこと。
そのためか、19世紀や20世紀の英国統治下の藩王国時代に作られたジュエリーには、ブルーサファイアがじゃらじゃら使われているものもある。

現代のインドでも、サファイアが不吉だから売られてないとかそういうことはない。インドの通販サイトでは、サファイアは心を癒し精神的な落ち着きを与えるとして、ブルーサファイアで彫られたクリシュナ像やシヴァ・リンガ、ガネーシャなどもみつけることができるし、宝石店にはサファイアも普通に並んでる。

またインド占星術に関連して、インドには宝石療法という考え方があって、ホロスコープによってその人に合う宝石を処方して悪い影響を抑える場合がある。そのときにブルーサファイアを処方場合ももちろんある。
肌に直接ふれるようにつけるのがよいらしい。
あと昔から宝石は薬と考えられていて、病状によっては粉にしたサファイアを飲むこともある。

なので、サファイアが不運を呼ぶとか不吉な石ということではない
人によっては強すぎる石だと考えられているかもしれないが、土星の影響が強すぎる場合は、サファイアを身につけることで和らげることもあるそうで、サファイアを避けているわけではない。

ちなみにお友達のインド人に占星術師の先生がいるので「サファイアってどんな石なの?」と聞いたとき、先生は遠い目をして答えてくれた。

「サファイアは……すごく難しい石。強いパワーがある。早い時期に効果がはっきりとあらわれる。入手して数日内に、あるいは当日にでも何かが起こるかもしれない。石はよく選んで決める必要がある」

これはインド占星術でお守り石を決めるときの話だ。
スピリチュアル的な石のパワーとかそういうのは全然わからんのだけども、話を聞いたときは、プロがそういうのだからたぶんそういう宝石なんだろうなあ。とぼんやりと思っていた。

しかしこうしてサファイアについて調べてみると、さもありなん、と。
あのクリシュナ様を宝石として身につけるのかーと思うと、ウワー恐れ多いわーって思うし身構えてしまう。

そういう気持ちが、なにかしら影響するんじゃないかな、と思った。

あと、インドの青い宝石といったらめちゃ有名なのがホープダイヤだ。
呪いの宝石とか言われていていろんな逸話があるが、史実と創作がごっちゃになっていて大変なことになっていて、そこまで呪いのダイヤというほどのものではなかったということはわかっているらしい。

青い宝石であるホープダイヤ。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:HopeDiamondwithLighting2_(cropped).JPG

ホープダイヤの色は青だ。深い青。つまりサファイアと同じ青い宝石。
ダイヤモンドでありながら神の石である青い輝きを持つ石だ。
ホープダイヤは神像に埋め込まれていたという物語が真実ではないにせよ、宝石の色を重視するインドでこれほど青い宝石であれば、神様として祀られていた可能性は十分に考えられるなあ。と思った。

まとめ

というわけで、インドにおけるサファイアについて調べた結果、ブルーサファイアは不幸を司るシャニの宝石だからと避ける人もいるかもしれないが、古代ではブルーサファイアは珍重されていたし、現代でも特別に不吉な石とされているわけではなさそうだ。ということがわかった。

インド占星術と土星とブルーサファイアの関係が関連づけられてから軽く1000年は経っていると考えると、土星とブルーサファイアについては伝統に組み込まれていると考えていいだろう。

また、土星の神であるシャニは不幸の神とされるが、土星が意味する義務や困難や苦難などは、人が成長する上で必要になる試練であり、不運というわけではない。厳しい存在ではあるが必要なものだ。

世界を遍く照らす光が父スーリヤの象徴、ルビーであるならば
深く青い海や静かな天空を表すのが息子である土星のサファイアなのだな。

青は聖なる色であり、土星の神シャニはクリシュナの化身であるとすると、ブルーサファイアは聖なる石だからこそ重視され、その結果「持つためにはいろいろ準備が必要」「特別なパワーがある石」「なんかヤバい石」ということになっていったのではないかなあと思う。

あとはあれだ、インドラニーラ、シャクラニーラという名前からは、ブルーサファイアはインドラの石とされていたと想像できるんだけども、インドラは中世以降のヒンドゥー教では位置が低くなっていったこともあるので、インドラの持っていた神の王という位置づけが、クリシュナや土星に移ったのかなあともぼんやりと思った(根拠は特にない)

古代から珍重されてきた青い宝石の神秘性。試練や義務やダルマの星である土星。クリシュナへの信仰。それらが合わさった象徴とされるのがブルーサファイアだとしたら、とても素敵な、しかし厳かな気分になる。

聖と俗、幸と不幸、吉と凶が表裏一体なのはインド神話あるあるの世界で、ブルーサファイアはとてもインドみがある宝石だなと感じた。

神聖な青い宝石でありながら、土星の厳しさと強さを持つ宝石。
ヒンドゥー教の神々が持つカーラと呼ばれる最強の力を持つ宝石。
それがインドのブルーサファイアなのだな。と。


おしまい。

あなたに土星シャニの御加護がありますように。クリシュナ様の御加護がありますように。

※だそく。仏教とサファイアについて

仏教については全然わからないし知識もないので、「仏教徒はサファイアを重視してる」的なことがウィキペディアに書いてあったのでついでに調べたみたら、定方先生の論文にたどり着いた。
(ちなみに定方先生は学生時代にゼミでお世話になったこともある!お懐かしい!)

先生の論文によると、仏教の七宝にサファイアが含まれていたかどうかは断言できない、みたいな内容だった。青い石とされるのはたぶんラピスラズリだろうけどもしかしたらサファイアかもしれないね。的な。

ていうか古い時代の仏典に書かれてある七宝には、ダイヤモンドもルビーも入ってないよ、ってかいてあった。ちなみに『リグ・ヴェーダ』にはサプタラトナ(七宝)についての記述はあるけど七宝がどの宝石かはわからないらしい。仏典の中の七宝はかなり古い時代のものがそのまま残ってるんじゃないかなということだった。

なので仏教徒がサファイアを重視しているというWikipediaの記述は、たぶんスリランカとかの仏教徒の間でじゃないかなあという気がする。スリランカの人たち、サファイア大好きだし。サファイアの産地だし。

タイトル画像に使用したこちらのサファイアは
カットされたサファイアでは世界最大と言われるローガン・サファイア
スリランカ産 スミソニアン博物館蔵
https://www.flickr.com/photos/stannate/4827647183

古代は珍重されていたサファイアだけど、中世以降、ヒンドゥー教徒にとっては凶星である土星と紐づけられた。でも仏教徒にとっては青い石の神秘性は引き継がれたままだったとか?青い蓮(睡蓮)の色のように。
中世は仏教がインドで影響力を失いつつあった時代でもあり。でも南インドやスリランカのほうではそうではなかっただろうし。
またはヒンドゥー教徒が忌む石は仏教徒にとっては吉だとかそういうアレもあったのだろうかとか。妄想が膨らむ。

というわけで、サファイアのお話はこれでほんとうにおしまい。
ここまで読んでくれてありがとうね。

参考文献
・カウティリヤ実利論 カウティリヤ 上村勝彦訳 
・占術大集成 ブリハット・サンヒター 古代インドの前兆占い ヴァラーハミヒラ
・占星術師たちのインド―暦と占いの文化 (中公新書)矢野道雄
・星占いの文化交流史 矢野道雄
・「七宝について」定方晟 印度學佛教學研究第24巻第1号
・Traditional Jewelry of India  Oppi Untracht
・Brahma vaivarta purana all four kandas English translation
などなど。

こんな本書いてます。

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