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住宅営業マン、7棟目は「キミ、かわいいから。」

私は住宅営業マンになって11年目。

もう若手と呼ばれる時代は過ぎて、中堅として会社の中核を担う年代になっています。

一生懸命なだけではお客様には認めてもらえず、接客の心地よさや、知識・提案力がないと、お客様からは当然選ばれません。

一方で、若手営業マンの場合は、「圧倒的な熱意」が伝われば、多少の粗さは目をつぶってもらえるやさしいお客様に出会えるチャンスが訪れます。

2年目の冬、私はまさにそんなお客様、O様に出会いました。


展示場へのご来場、明らかにセレブ感。

受付の女性がアンケートへの記入をお願いし、和室へとO様を誘導したあと、私が入っていきました。

O様は私の両親と年が近い60代のご夫婦。

一目見た瞬間に、成功してきたオーラがありました。

決して威圧感などはないのですが、大人の余裕を感じられる立ち居振る舞いに、とてもドキドキしたのを覚えています。


初めての遠方の計画に汗だく。

O様はお勤めの会社で成功されたポジションの方で、都内にご自宅はあるものの、リタイアした後でセカンドライフをスタートするために、某県に土地を数年前にご購入されていました。

その後、建築をすぐに考えていたそうですが、会社がリタイアを認めてくれずにずるずると数年が経過してしまい、来年にはリタイアできるはず!と思って展示場に来場されたとのことでした。

別荘でもなく、リタイア後のお住まい。お子様はいらっしゃらず、ご夫婦二人でのお住まい。都内ではなく、遠方でのご計画。

今思えば特別なことでもないのですが、当時は何からヒアリングすればいいのかわからず、汗だくでお話をしていました。


若手にありがちな失敗・覚えたての営業トークに必死になる

何を聞けばわからないので、結果として私はお客様に売り込むことに必死になってしまいます。

私が若手時代に成績が全く伸びなかった原因がここにあると思います。

研修やロープレで覚えた営業トークをとにかくまくしたてるように説明してしまいました。

「耐震性は~素材は~当社のデザインは~メンテナンスは~」

思い出すだけでゾッとするような自己満足の接客です。

しかし、O様はまるで息子の話を聞くかのように、ゆっくりうなずきながら、私の退屈な話を聞いてくださいました。



仕事で初めて高速に乗る

ダメダメな私の接客にもかかわらず、O様は次回のアポイントをくださいました。

これは、会社のブランドにある程度の期待があったからこそ頂けたアポイントであることは間違いないと思います。

店長;に喜んで報告すると、衝撃の一言。

「よし、火曜水曜に見てこい。」

へえ。

このセリフは「定休日にサービス残業で、出社していないわけだから当然経費精算もできないから高速代自腹で行ってこい。」という意味です。

当時はまだまだコンプライアンスやら働き方改革が盛り上がる前なので、ガバガバなハウスメーカーはよくある指示でした。

とはいえ、2年目の若者としては全く納得ができず、自主的に行くならわかるけど、平気で部下に自分を犠牲にしろと指示ができる店長ってどうなのよ、と店長への信頼が全く持ってゼロになった瞬間でした。

とはいえ、来週のアポイントで「土地を見てきました!」はお客様に喜んでもらえるポイントなので、休みに活きました。

都内では見られないゆとりある敷地に、こんもりと法面で仕上げられたきれいな別荘地。

ちょっと困惑しながら、メジャーではかったり、写真をパシャパシャとって、現地確認を終えました。

そのあと、自腹で休みに仕事だけだと悔しいので、高速の途中で降りて、アウトレットモールに行って、散財をしたのはいい思い出です。(独身だからできたなぁ。。。)


初めて聞いた「決め手はなんですか。」

商談は順調、きれいな間取りの提案ができ、別荘地に似合うチークの床材をつかった素敵な洋風住宅を提案できました。

2Fのお風呂から山を眺める提案もヒットし、あとはコストだけになりました。

急いでモデルハウスから会社にもどって、上司(店長より偉い人)に直接報告を入れます。

「プランはヒットしていて、今月中のご契約もご了解をいただきました。ただ、金額がネックになっていまして。。。」

カッコイイプラン、チークの床材、広い敷地でかさむ外構計画と積み重ねられた結果、実際にお客様の予算をかなりオーバーしており、お客様から「これくらいは値引きしてほしいな。」と伝えてもらっていました。

「○○○○万円に収めれば、お客様のご了承はいただけるのですが。。。」

この金額は、当時の当社の平均的なお客様への値引き額を大きく超えた内容なので、私もドキドキしながら上司に申告しました。

「まーお前が一人でやってる物件で利益なんか期待していないわ。内諾をもらってこれるだけでうれしい誤算だから、早くお客様にこの値段でお願いしますって言ってこい。」

(ぬおーーーーーーー!!)と思わず心の声が洩れました。

急いで車に飛び乗ると、お客様のところに飛んでいき、インターホンをおしました。

「O様、先ほどはありがとうございました。上司からお値引きの話をもらってきましたので、少しよろしいでしょうか!!」

インターホン越しの私は暑苦しかったと思います。。。

「O様、やりました!!あのお値引き、上司からOKもらえました!!」

ドアが開くなり、奥様に報告し、二人で喜び合うことができました。

あとからご主人も出てこられ、「やったね、それじゃ話を進めよう。」とすぐにご決断いただけました。

一週間後の契約調印。

再度見積もりの確認、約款の読み合わせ、重要事項説明を終え、署名捺印をしていただいてちょっとお茶を飲む雑談タイム。

私は初めて、勇気を出して聞いてみました。

「当社でご用命いただいた決め手はなんでしょうか。」

ご夫婦は最初驚いた表情でしたが、奥様が教えてくださいました。

「最初から、おたくの会社ならカッコイイのをつくってくれるのはわかったけど、最初に出てきたのが若いキミでしょう。ちょっと不安だったのよね。」

「でも、一生懸命会社の説明してくれて、すごい会社が好きなのが伝わってきたから、キミのこと、かわいいねってモデルハウス出てから主人と話していたの。」

「そのあともいい設計が出てくるし、キミが一生懸命なのはずっと伝わってくるから、他の会社も見ようかと思っていたけど、もういっかってなっちゃったんだよね。」

「だから決め手はキミがかわいいからかな。笑」

うろ覚えですが、こんなうれし恥ずかしいメッセージを頂きました。

このあともインテリアの担当として、当社のエリート部署に後々選抜されるような担当が入り、輸入物クロスや、素敵な家具もご提案させていただき、この家は素敵な仕上がりになりました。

なかなか離れたお住まいなので、旅行ついでに寄ってみてもご不在だったり、何年も会えていませんが、私をかわいがってくれた大切なオーナー様の一人です。


この1棟から学んだこと

1、どんな遠方でも、土地をしっかりと把握するのは基礎中の基礎

別に、土地を見に行くのは立派な業務なので、勤務日にいけばいいんです。

この一件で店長のことはめちゃくちゃ嫌いになりました。笑

でもやっぱり土地を見に行くのはとても大切です。

隣に住んでいる人がどんな人たちか、庭先にどんなものが転がっているか、自分がいる間にどんな交通量だったか、日当たりはどうだったか、といった情報は、GOOGLEストリートビューが便利な今でも大切な要素です。

実際、お客様も隣の人がどんな人たちだったかという話で盛り上がったり、人通りが少ないことがわかったので、窓の取り方も少し攻めた窓の取り方を提案できたりしました。


2、可愛げのないやつでも一生懸命な姿は可愛いと言ってもらえる

私は自分でいうのもあれですが、どっちかというと生意気に見えるので、あまり可愛がられるタイプではないです。

そんな私が、今回は「かわいいから」とおっしゃっていただけたのは、やはり「一生懸命だった」という一言につきると思います。

スキルもない、可愛げもないやつが、クールに一人前ぶっていたらお客様に選んでもらえなかったと思います。

「どうにか好かれたい!」という一心で、お客様のために行動できたからこそ、熱心に行動でき、その熱心さがお客様に伝わったんだなと思います。


3、担当のマッチングは営業の責任で行う重要ポイント

この物件で、ようやくお客様と各担当の相性の重要性を知ります。

このお客様は、とにかく明るいお客様で、いつも打合せにチョコレートを持参してくれ、雑談ムードで打合せをしてくれる楽しいご夫婦でした。

そんなご夫婦に対して、サラリーマン感の強い担当や、自己主張の強い担当を付けていたら、盛り上がらない打合せになってしまったと思います。

O様スタッフは、お客様と和やかに雑談を楽しめるスタッフなので、打合せスペースがO様のブースだけは、カフェの1席のような楽しい空気感になりました。

ここで、「担当によって打合せの空気はいくらでも変わる。その担当を誰にするのかは、一番お客様に接している営業の自分だ!」ということに改めて気付きます。

そこから、なんとなく上司の言う通りにしていた担当決めに、「○○様はこんな性格で、こんな要望があります」という言葉を添えたり、最近は設計担当を決める前に、お客様にどんな担当と打合せをしたいかを細かく聞くようにしたり、はっきりと担当を指名しています。

どうせ何か月も打合せをするなら、お互いが気を許して楽しめる打合せができるように手配したい、というのは私がこだわっているポイントです。

美しい家をつくることも大切です。

住みやすい家をつくることも大切です。

でも、「あの人とこんな打合せしたよね。」という楽しい思い出のある家づくりも、何物にも代えられない注文住宅の醍醐味だと私は思います。

これは、これからも大事にしたい、営業マンとしての私のこだわりです。

楽しんで打合せをしてもらっている笑顔をたくさんつくる営業マンでありたいと思います。


このO様との出会いの直前に、実家を出て一人立ちしています。

この翌月に、大惨敗します。


入社からの私の物語です。


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