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住宅営業マン、設計事務所の提案に震える。

ハウスメーカー、工務店、設計事務所を大きく大別して、それぞれの特徴を書いたようなサイト・ブログをよく見ます。

もちろん、傾向として見えてくるものは多少あると思いますが、私は正直そういった大きなひとまとめに語る記事・言説は、暴論だと思っています。

よく私が使う例えですが、居酒屋で酔っ払ったおっさんが「女っていうのはよぉー!!」って言っているのと変わらないと思います。

地球上の半分は女性であって、十人十色の女性をひとまとめに語るおっさんトークは大体暴論であるのと同じように、ハウスメーカー、工務店、設計事務所をひとまとめに語る言説も雑なことがほとんどです。

「設計事務所はデザインに優れる」というのも、必ずしも真理ではない言説の一つです。

例えば、設計事務所と一言で言っても、リフォームや、商業建築が中心の方もいらっしゃいますし、ハウスメーカーやゼネコンなどの下請け仕事が大半の方もいらっしゃいます。

そうすると、新築注文住宅の設計に携わる機会は年に1,2回なんていう方もたくさんいらっしゃいます。

ハウスメーカーで、年間10も20もお客様との商談をしていて、お客様のニーズをとらえる力を伸ばしたり、提案の引き出しを増やしている設計士の方が優れているケースもいくらでもあります。

実際に、競合した際に、設計事務所のプレゼンを見ると20年前のデザインですか。。。っていうような提案をしていたり、私のお客様のアドバイザーとして入られた設計士の方のアドバイスが基礎的な一般論だけで全く深みがなかったりするケースがありました。

ただ、今回は設計事務所ってやっぱりすごいんだなと思ったボロ負けしたエピソードです。


結構長く通ったN様

私は、1年目の時点で「展示場接客ってあまり好きじゃない」と自覚していました。

お客様も営業マンを選べずに決まっていくストレスがあるでしょうし、我々営業マンとしても、展示場に待機していても接客できるかは来場数次第だし、一日待ってイベントのために来た冷やかし客だけで接客順が終わってしまうなんていうこともザラなわけです。

とはいえ、紹介がもらえるようなスキルも人脈もキャラクターもない私は、平日にお客様を見つけるために、先輩たちが追わなくなったお客様のリストから、「土地がある」「落ち着いた年代(50オーバー)」「どっちかっていうとお金持ちエリア」の3点に絞って、片っ端から訪問し、家が建替え時かを確認し、自分の顧客リストに加えていました。

N様もそんなリストからお付き合いが始まったお客様で、土地も広く、家もきれいにはしていますが、年数が経った傷みが目立つ状況だったので、熱心にアプローチしていました。


計画のスタートは突然に。

N様のお住まいは築35年程度で、完全分離の二世帯住宅の間取りでした。

しかし、数年前にご主人のご両親は他界され、せっかくの大きな建物にも関わらず、1Fの両親のお住まいは全く手つかずになっており、2Fのみで暮らされている状況でした。

初対面のときから奥様としては、すぐに建て替えを計画したいとおっしゃっていましたが、ご主人のお仕事が忙しく、プライベートなことを考える余裕がないからスタートを切れていないといわれていました。

年明けのある日、N様奥様からのお電話がありました。

「主人が今年こそやるぞって言ってくれたので、さっそく計画を進めたいんです。」

よく年明けに家族で「今年こそ!」と決意されるお客様は多いといいますが、そんな電話をいきなりいただけると思わなかったので、喜び勇んでN様のご自宅に飛んでいきました。

「やっと主人がOK出してくれてよかったです。ずっと通ってくれていたので、あなたには一番に連絡したんですよ。」

という奥様のお言葉。

(こ、これは競合なしで当社で決めてくれるパターンなのでは。。。)という淡い期待をしたのは事実です。

「すぐに間取りや見積もりをつくってもらいたいです。あ、友達が紹介した設計事務所と見比べるけど、悪く思わないでね。」

サラッと私の淡い期待は打ち砕かれましたが、そうは言っても貴重なチャンスです。すぐに会社に戻って設計を手配しました。


大誤算、オラオラ設計士に物言えないダサい営業マン

会社に戻り、すぐに設計提案に進みたいと上席者に伝え、設計担当を決めてもらいます。

「最近来た彼、前の支店じゃエースだったらしいから、設計事務所と戦えるでしょ。」と設計責任者から言われ、30代半ばの中堅設計士と組むことになりました。

私「よろしくお願いいたします!」

設計「よろしくな。設計事務所だって?どうせ大したことないんだろ、しっかり決めてもらおう。」

なんと頼もしい設計でしょうか。。。

エース設計士でばっちり満足してもらえる!という期待でプランを待ちました。

数日後、設計士からプランがあがってきます。

ん?

これは?

設計からあがったプランは、見事に当社の企画プランそっくりの可愛いややダサい外観でした。。。

(これはまずい。。。)と真っ先に思ったものの、設計になんと伝えていいのわからない私は、このままではまずいので、改善してほしいということを伝えようと思いました。

私がとった行動は、競合する設計事務所の住宅実例をプリントアウトして、設計に、「こんなカッコイイ外観をつくれる事務所なので、もっといい外観をつくってほしい」という依頼をしました。

今思うと当然ですが、設計は明らかに「カチーーン!!」ときていました。

設計「うるせえよ、だったらお前もプランの一つも描いてみろよ、どんな外観がいいのか出してみろよ。」

もうこうなると設計の協力を得ることは難しいです。

2年目でプランの練習もろくにしていない私には、当然お客様に喜んでもらえるようなプランを提案できるわけがありません。


ファーストプランで勝負は決した。

プランの提案については、設計事務所が先、当社が後でした。

ダサカワプランを出しながら、外観集をお見せし、これから外観も含めて変えられるので、いろんな提案ができる旨を伝え、なんとかごまかそうと必死にプレゼンをしました。

ご夫婦はずっと「うん、うん」とプレゼンを聞いてくれました。

私「今回のプレゼン、いかがでしたでしょうか。いただいたフィードバックを基に、次回プランと見積もりをご提案したいです。」

ここに勝負をかけていました。ここで変更点を頂ければ、何とか次のご提案でリカバリーができるのではないかと思ったからです。

N様奥様「そうですね。。。申し訳ないですけど、これが御社のベストの提案なんですかね。設計事務所と比較されるのにあたって、デザインが重要なポイントになるっていうのはお伝えしましたよね。」

というと、奥様は裏のお部屋に行き、設計事務所のプランと模型を持ってこられました。

「ここまで差をつけられてしまうと、次のプランを見る必要はないと思うんですよね。」

外観パースを見ると、当社と比べてしまうと月とスッポン、我々のつくったパースはおもちゃというか、チャチなつくりものにしか見えないくらい差がありました。

模型に関しては、外構まで作りこまれた完璧な模型で、初めて見たきれいな模型に私はぐうの音も出ませんでした。

私「かしこまりました。。。もし、お気持ち変わられることあれば、ご連絡をお待ちしております。。。」

もうこの一言をひねり出すのが精一杯でした。

この2週間後、奥様から正式なお断りがありました。

「あなたが通ってくれていたから、デザインがそんなに変わらなければ、多少高くてもおたくで建ててもいいって夫婦で言っていたのですが、とても残念です。」

とても胸が痛かったです。

私は設計責任者の指名するままに担当を決めてしまい、設計を逆上させるような社内営業を失敗し、自分でリカバリーをしきれずに、お客様に対してベストを尽くしたのかと言われると、ベストとは程遠い仕事ぶりだったと思います。

このN様邸は、私が社内営業の重要性を認識し、いかに気持ちよくみんなでベストの提案をつくっていくかを考えていくきっかけになった1件でした。


この1棟から学んだこと

1、顧客に優先順位をつけることは大切。

N様と出会うきっかけになった顧客リストに関して、私が「土地があるか、年代はいくつか、富裕層のエリアか」など当社で家を建てやすい状況がどれだけそろっているかを整理して、優先順位をつけてアプローチをしていきました。

これは、お客様に対して失礼なことかもしれませんが、少しでも可能性を高めるためには必要なものだと思いました。

若手時代は、接客数が少ないし、接客できてもお客様の本音がきちんと聞けていないことが多いので、お客様が当社で建ててくれそうか、見極める情報がほとんどないという時期が長かったためです。

今では、お客様と腹割ってお話ができますので、土地がなかろうが、若かろうが、どんなエリアだろうが、一緒に家づくりに向かえそうかというジャッジができるようになってきましたが、有限の時間の中で、優先順位をつける癖を意識できたのは大切な経験でした。


2、ファーストプランがすべて。

ファーストプランは、お客様のニーズを短い時間でいかに深く正確にとらえられるのか、敷地についていかに思想をもって提案できるのかを見極めるのにとても大切な要素です。

何度も打合せをしていくと、同じ要望を聞いていくので、各社の提案は似通ったものになっていくケースが多いので、各社の違いがしっかりと出ているファーストプランというのは、冷静にジャッジをするのにはぴったりです。

そういった意味で、とりあえずファーストプランを乗り切って、次回でリカバリーしようと思った私の姿勢は、きわめてレベルの低い仕事だったと思います。


3、お客様のために社内営業はしないといけない。

これまでの私は、社内営業なんてゴマすりのダサい仕事だとバカにしていました。

しかし、今回のケースは、私が社内営業ができないために、設計の協力を引き出せず、結果として私に期待して真っ先に電話をしてくれたN様を裏切ってしまうこととなりました。

これをきっかけに、私は社内の根回しを少しずつ意識していくようになります。

元々のセンスがあまりにもないので、未だに設計などの他部署の担当からは、「お前は気が利かないなあ」とよく言われますが、お客様のためにベストを尽くせるだけの体制ができてきているのではないかなと思います。


「このままじゃまずいんじゃないか」という思いを抱えたままでお客様にプレゼンをするなんていうのは、お客様に失礼な行為だったと思います。

お客様に真摯に、自分の気持ちに正直に、くだらないサラリーマンにはならずに、自分が正しいと思える仕事をしたいものですね。


この悔しい負けの前には、お客様から一生懸命さが認められていたのに。


そんな社内営業下手な私が学びがあった!と思ったのはこちら。


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