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住宅営業マン、人間のしがらみの深さを知る

住宅営業マンになって10年以上になる私は、今でこそ紹介受注の比率が80%前後となり、「人と人とのご縁」のすばらしさ・ありがたさを知ることができました。

ただ、その一方で、自分にとって不利益な見方をすると「人と人とのしがらみ」は簡単に断ち切ることはできないということだなと思う出来事が2年目にありました。


自分の家の近所のお客様が来場!

新人として誰よりも早く展示場に行って、掃き掃除、水撒き、飾りつけをしてお客様の来場をお待ちしているといらっしゃったのがT様。

パートの女性がアンケートの記入をお願いし、和室で書いてもらっているところに私が挨拶をしながらT様とのお話はスタートしました。

アンケート記入が終わり、お預かりをすると住所がすぐ近所、私が小さいころよく遊んだ公園のすぐ裏にお住まいのお客様でした。

そんな話題で盛り上がり、家づくりのご要望を伺うと、4人家族でゆったりめの40坪程度のご計画、予算も十分。

これはもうご用命いただかないといけない案件!緊張しながら今後の敷地の調査や、プラン提案の日程をおさえていきます。

ここまで自分たちの会社を気に入ってもらったり、計画のヒアリングをするのは、とてもスムーズにできた印象があったんです。


いざ敷地にいってみると、これはどこまでが敷地…?

調査会社に敷地調査を依頼した当日、敷地を見に行ってみると、これはまた見事な地主さんの敷地。

ご自宅の先にも母屋、納屋、畑、蔵などいろんなものが敷地に混在している都内ではなかなかお目にかかれない状況だったので、経験豊富な設計士を連れてきておいてよかったと胸をなでおろしました。

ご主人は一般のサラリーマンですが、ご主人のご実家はまだ農家を続けられており、このあたりでも有名な地主さんだったんです。

地主さんの案件は、敷地内に建物が複数建っているので、早めにご自宅部分として使える敷地の範囲の把握や、ローンの組み方などを確認したり、外構計画の提案など考えることが多かったので、いい勉強になりました。


商談は比較的一人で任せてもらえた時期

この時の上司は、非常にモチベーション管理が上手な人で、部下にある程度仕事を任せることを大事にしている人でした。

地元トークで盛り上がり、スムーズにスケジュールを組めていることもあり、上司は私を信頼して、同席はなしで営業は私一人で進めることになり、とてもやる気になっていたのを覚えています。

商談自体もなごやかな雰囲気で、教育熱心な奥様に対しての勉強空間の提案などもヒットしている印象でした。

気がかりだったのは競合の○○ハウス。お客様からは当社か○○ハウスのどちらかからメーカー決定をすると、初回の展示場からうかがっており、都度お客様の検討状況を聞くと「五分五分」のしびれる展開が続きました。


雲行きは突然怪しくなるもの

そろそろ見積もりを出して、どっちのメーカーで建てるかをお伺いする時期が近づいてきたころ。

そのころにはご夫婦との距離感も近くなっており、奥様を中心に、ショートメッセージでやり取りをする関係性になっていました。

突然のショートメッセージ「主人から、しばらく家づくりは中断になったから伝えといてくれと言われましたので連絡しました。お世話になりました。」

今までの和やかムードからの急転直下のメッセージに震えながら、すぐに電話、留守だったので家に向かいました。

出迎えてくれた奥様からは「父が反対しているみたいです。私も詳しくはわからなくて。せっかくよくしてくれたのに本当にごめんなさい。」

このあともご主人やお父さんと話をしたいと言っても「ごめんなさい」の一点張りで、ひたすらに拒否をされてしまいました。

お客様と信頼関係を築けていたと思っていたのは、私の独りよがりだったのです。

社内でもこの一件は再三非難を浴びました。

お施主様の立場からすると、断って何が悪いと思われるかもしれませんが、何千万円ものプロジェクトが大きな理由も聞けないままショートメッセージ一通で終わってしまうというのはやはり不義理なものではないかなとは思います。

ただ、私個人としては、理由一つ教えてもらえないままメッセージで切られてしまう人間関係しかつくれない自分の営業力、人間力への絶望しかありませんでした。


T様その後

この一件で、しばらく落ち込んだ日々をすごしたものの、T様をこれ以上しつこく問い詰めたりフォローをしても嫌われてしまうという判断から、時折手紙をお送りする程度の関係として、次第にT様のことも忘れていました。

それから半年後、地元の友達と友達の家で遊んだ夜の帰り道に、ふと思い立ってT様の家の前を通りかかったんですね。

「○○ハウス」

そうなんです、デカデカと○○ハウスの養生シートがかかっていたんです。

計画は中止と聞いていたのに、実際は○○ハウスと契約をして、私から手紙が来ている間も打合せをして、ついに家を解体し、着工を迎えていたんです。

ちょっとT様に悪意のある書き方をしましたが、これっておそらく2つの理由があったんだとしばらくしてから考えられるようになりました。

一つ目は、T様のご実家は、実は○○ハウスと深い付き合いがあったんです。

2年目の私は勘が鈍く、気付いていなかったんですが、地元でも有力なT様のご実家は、畑だけで敷地が終わっておらず、その先のブロックに何棟もアパートがあって、それらはすべて○○ハウスで施工したものだったんです。

おそらく推測するに、ショートメッセージがくる前までは、お二人は本当に当社も検討してくれていたはずです。

きっとその直前にお父様から、「○○ハウスで建てろ」という鶴の一声があったと思うんです。

そうでなければ、プランもある程度喜ばれていて、見積もりをまだ見ていないというタイミングで、一言で断る理由にはならないと思うので。

二つ目は、お父様からの一声があった時に「いや、きちんと自分たちで比較検討してから決断を出したい」とご主人に言わせるほど、私たちの提案や対応が満足いくものではなかったんだと思います。

そこで「どっちでもいいや」と思っていたからこそ、T様は「わかった、○○ハウスで建てるよ」とお父様の言葉に従ってしまったんだと思います。


この1棟から学んだこと

1、メーカー決定をするための主権者の確認は最初に。

住宅営業の基礎中の基礎ですが、これを怠ったらいけないと改めて感じました。

最後の決断をするのは必ずしもそこに住むご家族だけとは限りません。

若いご夫婦、援助を受ける状況、地主家系などのシチュエーションは必ずご両親や親族からの意見が出てくる前提が必要だというのがよくわかる案件でした。

2、並みの営業がお客様から信頼を得るのは週1の打合せでは無理。

これも私の勘違いでした。

週1回の2,3時間の打合せで、お客さまが本当に心を開いてくれるような接客は、とても難しいと思います。

「この人に任せたい」と思う人間力だったり、スキルがしっかりと備わっていないと、お客様からの本音を引き出せないと痛感しました。

この足りない人間力や、スキルを補うために、当時の私はもっと時間をかけるべきだったと思います。

平日も奥様は自宅にいらっしゃるので、ちょっとした時間を頂戴してプランに磨きをかけるなどの努力が不足していたんだと思います。

お客様の信頼は人間力×スキル×時間で築かれていくんですね。

3、嫌われても白黒はつけるべき

これは少し住宅営業側の目線でしかなく、お客様からすると迷惑に感じられるところもあるかと思います。

それでも、しっかりと私はお客様から「中断」と聞いたときに、急な変化に違和感を感じたわけですから、他社になったらなったでしょうがないので断られるところまでやりきるべきでした。

そのあとも、手紙を書く時間や、DMを送る手間、T様のことを考えたりフォローする時間すべてが無駄になってしまったのですから、その半年でトータル5,6時間は無駄にしているんだと思います。

また、T様の目線でも、本当は可能性のない会社からDMや手紙が届き続けるのは決していい気持ちではないはずです。

そう考えると、T様に嫌われないように置きにいったフォローをするのではなく、嫌われてでも、「なんで中断になったんですか、私に可能性がないならないでいいので理由だけ教えてください。」とはっきり確認すべきでした。


実はこのT様はご近所なので、この後も年に1度くらいは道ですれ違ったりするんですね。

でも、全然私の顔なんて覚えていないんです。

自分の接客なんて所詮そんなものだったんだな、って思います。

そして、最後まできちんと断られていないので、T様の顔を見るたび、その道を通るたびにモヤモヤとしたものが残るんです。

自分に自信がなかったり、臆病になっていると、お客様の本音を聞くのがこわかったり、本音を聞くために一歩前に踏み出す勇気がなかったりするものです。

この気持ちをすてて、一歩前に出て、お客様と本音で会話をする。

本音を聞いたからには、そのお客様の気持ちに寄り添って、自分が正しいと思う行動を選択する。

そんな営業マンでありたいと思います。


この前には設計事務所にも完敗しております。。。


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