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『フラ・フラダンス』を踊れているか?~実験的500字エッセイ~

今週から公開が始まった映画、『フラ・フラダンス』。僕はこの映画を1人で見ていた。1人で見に行ったのではない。日曜日の夕方、映画館の劇場内では、僕1人だけが『フラ・フラダンス』を見ていた。座席を見回しても、そこにあるべき観客の姿はない。劇場内の空間が、そしてスクリーンが、いつもよりも広く、そしてこちらに迫ってくる感覚が僕にもたらされた。

『フラ・フラダンス』はどこまでも綺麗な青春映画だった。「フラダンスで人をひまわりのような笑顔にしたい」という目標を持った主人公。周りよりフラダンスが下手な主人公だったが、先輩や友達と一緒に努力を重ねることで、技術的にも人間的にも成長していく。そこには、新しい環境の中でもへこたれず、協力しながら道を切り開く、たくましいフラガールの姿があった。

大学生活の新しい環境にいまだになじめていない僕は、そんな映画を1人で見ていた。劇中、「人生もフラダンスも同じ、時にはフラフラと迷うこともある」というメッセージが出てくる。そのセリフを聞いた時、僕はつらさや悲しさではない、むしろもっと透明な虚脱感を得た。1人暗闇の中でスクリーンを見つめる僕は今、『フラ・フラダンス』を踊れているだろうか・・・。