名前で運勢が変わるか?(13):音がもつイメージの科学的根拠<下>
音がイメージを生み出す「音象徴」という現象は、大きい、小さいなどの視覚的イメージだけでなく、人柄(人間のパーソナリティ)のイメージにも起こるようです。名前の音が人柄のイメージに影響するのです。
●マ行やナ行の音は、カ行やサ行の音より優しく聞こえる
音象徴と名前のイメージとの関係を調べたところ、[m、n、y、r、w] の音は「より優しくソフトな人柄」をイメージさせ、[t、s、k] の音は「よりクールで近寄りにくい人柄」をイメージさせる傾向があったそうです。
しかも、同じ現象が日本語を話す人々だけでなく、英語を話す人々にも見られるというのです。[*1]
このことから、人間が音声の性質を無意識に感じ取り、名前に人柄のイメージを投影していることがわかります。
実際、最近の日本語男女名について調べたところ、女子名には[m、n、y、r、w] の音が多く、男子名には [t、s、k] の音が多かったそうです。一般に、女の子は優しくソフトなイメージが相応しく、男の子はクールで近寄りにくいイメージが相応しい、という無意識的な選択傾向があるようです。
名前のまる子とかつ子、まる男とかつ男の音は、[maru] の [m、r] を [k、t] に入れ替えたものです。たったこれだけの違いですが、両者を比べてみると、確かにまる子、まる男のほうが優しくソフトな感じがしますね。
●聴覚的なイメージによる自己成就予言
さてそうなると、名前の音についても「自己成就予言」が期待できそうです。「ある状況が起こりそうだと考えて人々が行動すると、そう思わなければ起こらない状況が実現してしまう」というあの理論です。[注1]
名前(文字)の視覚的なイメージだけでなく、名前(発音)の聴覚的なイメージも「自己成就予言」の要因になり得るということです。
人は誰でもさまざまな先入観を持っています。よく知らない人物について、名前のイメージだけから人柄について特定の先入観をもつこともあるでしょう。
ある人物に対して、周囲が無意識にそうした先入観をもって接したら、当人も何らかの影響を受けそうです。周囲の人々の反応や自分自身の行動に対する気づきがフィードバックされる可能性があるからです。
その結果、「より優しくソフト」なイメージの [m、r] の音をもつ、まる子さんやまる男くんは、「よりクールで近寄りにくい」イメージの [k、t] の音をもつ、かつ子さんやかつ男くんより「優しくソフト」な人柄である確率が高くなるというわけです。
●もうひとつの聴覚的な影響力
名前の音については、このほかにも興味深い研究があります。発音しやすい名前は、発音しにくい名前より、好感度が高くなるらしいのです。しかも、実際の弁護士(外国人)を対象として調査したところ、発音しやすい名前の人が高い地位についていたというのです。
このテーマについて、日本の研究者が「発音のしやすさ」を客観的な基準で定義し、より厳密な調査を実施しました。
その基準に従って、子音と母音を組み合わせた無意味な単語を作り、それを「今度職場にやってくることになった外国人の名前」だとして、好感度を調べたのです。その結果、発音しにくい名前ほどネガティブに判断されることがわかったそうです。[*2] [注2]
こうなっては、もはや「名前と運勢は無関係」とは言いきれないでしょう。例えば会社の採用面接などで、名前が発音しにくいという理由で不採用になるかもしれません。そもそも上述の論文のタイトルが『どうか名前で判断しないでください』です。
人間の好き嫌いは多くが無意識的なものらしいので、人事担当者も自身が不採用にした本当の理由に気づいていないかもしれません。不採用がそのまま不運につながるとは限りませんが、人生の軌道が変わるという意味では、運勢に少なからず影響したことになります。
●明治期の技法「読み下し(の口調)」は復活する?
「発音のしやすさ」と運勢との関係は、意外なことに新しい発見ではありません。現代の姓名判断が作られた最初期の明治時代には、すでにあったのです。
当時の姓名判断は4種類または5種類の判断法による総合評価で運勢を鑑定しました。そのひとつが「読み下し」ですが、この技法には、文字の意義を重視する「読み下し(の意義)」と、読みの滑らかさ(語呂がよい)を重視する「読み下し(の口調)」の二つがあったのです。[注3]
「読みの滑らかさ」とは「発音しやすい」と同じような意味だったと思われますが、当時はまだ「読みが滑らか」とはどのようなことか曖昧でした。それが今、「発音のしやすさ」として明確に定義され、科学的データも蓄積されつつあるのです。
そう遠くない将来、長らく忘れられていた技法が、こんなキャッチフレーズで蘇るかもしれませんね。「ついに現代科学が実証! 最も古くて新しい音声姓名判断!」
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