その占い師が「当たる」ってホント?
●姓名判断の奇妙な世界
姓名判断についてネット検索すると、「ん?」という質問がたくさんヒットします。たとえば、「どの占い師(または占いサイト)が当たりますか?」とか、「画数は旧字体と新字体のどちらが正しいですか?」などです。[注]
こうした質問をするからには、姓名判断には流派がいくつもあって、単一ではないことを知っているはずです。ふつう、業界のこんな実態に気づいたら、「どれも当てにならない」と考えそうなものですよね。
なぜって、食べ物や衣装デザインを選ぶのとはわけが違うのです。「お好みの流派をどうぞ」っていう話ではないでしょう。占い師や占いサイトによって吉凶や解釈がバラバラだとしたら、彼らが共存している事実そのものが、すべてを物語っているではありませんか。[注]
しかし、世の中には理解しがたいことがあるものです。どんなに矛盾点や不合理な面を目にしても、あえて見ようとせず、思考停止に陥っているらしい人がいるのです。
●姓名判断の「聖杯探し」
昔の話ですが、姓名判断の結果が悪く、将来を心配している人に、おせっかいにもアドバイスしたことがあります。姓名判断は流派が違うと吉凶が逆転するので、気にしなくても大丈夫と。[注]
すると、反応は予想外でした。「否定的な意見は聞きたくない、当たる流派を知りたい」というのです。正直、面喰らいました。彼らは姓名判断の矛盾を知っても、「姓名判断なんて当てにならない」とは考えず、「当たる流派はどこかに必ずある」と探し続けていたのです。
FXトレードの世界には「聖杯探し」という言葉があるそうです。『アーサー王物語』の聖杯伝説に引っかけた業界用語で、「(存在しない)必勝法を探し求める」ことだそうです。
姓名判断の信憑性を疑う代わりに、「どこかに当たる流派があるはずだ」と探し続けるとすれば、まさに「聖杯探し」ですよね。
●論点すり替えのトリック-1
まあ、彼らがこうした思考停止に陥るのも、責任の半分は占い師の側にあるでしょう。怪しげなトリックで利用者をマインド・コントロールしようとしていますから。
たとえば、ある占い師は「姓名判断が当たらないのは、鑑定した占い師の技量不足が原因だ」というのです。自分は技術レベルが高いので、当てる自信がある、と言いたいのでしょう。
ですが、問題の本質はそこではありません。流派によって同一漢字の画数が違ったり、同一画数の吉凶が違っている時点で、すでにアウトなのです。たとえば「沢」の画数は、流派によって7画、16画、17画の3種類になります。論点は技量うんぬん以前のところにあるのです。[注]
●論点すり替えのトリック-2
また別の占い師は、改名がきっかけで開運した芸能人や、事件に巻き込まれた加害者・被害者がキラキラネームだった例を挙げて、「名前が運勢に影響したのは明らかだ」と言わんばかりです。
しかし、改名しても開運しなかった芸能人の数はどうなのでしょう。そちらも調べなくては、改名が開運につながったのか判断できませんよね。キラキラネームと事件との関係も同様です。
利用者を欺くこんなトリックは、すでに400年も昔、フランシス・ベーコンが指摘していることです。「当った事例には大騒ぎするが、外れた事例には、その方がずっと多くても、無視してしまう」のです。[注]
それに、名前の字画数と幸運・不運との関連はまったく説明がありません。本来なら、改名の前と後の字画数を比較して、凶数が吉数にどう変化したか説明すべきでしょう。
●論点すり替えのトリック-3
さらに別の占い師は、当たる占い師を選ぶポイントとして、次の条件を挙げています。① 姓名判断の鑑定実績が多い、② 口コミや評判が良い、③鑑定結果が具体的である。
しかし、この中には最も重要な条件が入っていませんね。「占い師自身が最高の人生を実現している」という条件です。周辺のことはどうでもいいんです。肝心なのは中身です。
この占い師は「名前で開運する、恋愛も成就する」と断言していますから、名前の呪力を確信しているわけです。つまり、この占い師は名前を操作して間接的に呪力をふるう「呪術師」ということです。[注]
であるなら、誰よりもまず、当人自身が最高の幸福を手に入れているでしょう。さらに両親、兄弟、子ども、親戚など、近親者も命名・改名で最高の運勢を体現しているはずです。
儲け話に勧誘する借金だらけの投資家、素行不良の子供をもつ教育家、いつも顔色が悪い医者、裁判で勝ったことがない弁護士、こういう人たちを信じられるでしょうか。占い師も同じです。
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