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名前で運勢が変わるか?(6):名前による自己成就予言

●無意識の共通イメージ

名前には共通のイメージが結びついているらしいことがわかりました。

たとえば、「佐藤あけみ」は10代~20代の小中高校生かOLで、性格的には清純でお人よし、「井村リツ」は40代~60代の主婦、「石川秀男」は穏やかな性格のサラリーマン、「熊谷昭吾」は男性的な人物、「花田夏子」は派手で行動的などといったイメージです。

また同じケンゾーでも、賢三は20代~40代で、賢蔵は40代~代をイメージする人が多く、良夫より良雄のほうが男性的と感じるらしい、ということでした。

こうした共通のイメージはどこから来るのでしょうか。あるものは文字自体の印象から、他のものは日本人の共通認識や個人的な経験にも関係しているのでしょう。

「夏」は明るく、華やかで、情熱的な印象があるでしょうし、「蔵」は年配者に多く使われているとか、友人・知人からの連想、有名人やドラマ、小説の主人公からの連想なども考えられます

しかし、これらの共通イメージに年代や地域で違いがあるにしても、名前に何らかの特定のイメージが結びついていたら、姓名判断的には無視できません。

●自己成就予言とは何か?

というのは、こういうわけです。心理学には「ある状況が起こりそうだと考えて人々が行動すると、そう思わなければ起こらない状況が実現してしまう」とする理論があります。これを「自己成就予言」というそうです。

『不思議現象 なぜ信じるのか』(菊池聡・谷口高士・宮元博章 編著)では、血液型と性格の関係について、自己成就予言がはたらく可能性を次のように説明しています。

人が自分の行動をどう選択するかは、自分が自分自身のことをどういう人間だと思っているか、他人が自分のことをどういう人間だと思っているかという認識にかなり左右されるものでしょう。

自分は(血液型が)B型なので周囲の目を気にせず、即行動する人間のはずだと思い込んだ人は、その信念に合致した行動をとるようになるかも知れません。すると自分がそう行動したという事実により確認が強まります。

一方周囲の人も「やっぱりB型だからだ」と解釈し、その後もその人にそれなりの行動を期待するようになります。すると、その人も周囲の期待に自然に応じます。このような循環を通して、だんだんB型的になっていく可能性は十分にあります。

『不思議現象 なぜ信じるのか』(菊池聡・谷口高士・宮元博章 編著)[*1]

●「魔術(呪術)」的に作用する自己成就予言

これと同じことが人の名前で起こらないと誰が言えるでしょうか。ある人物に対して、周囲が無意識に特定の思い込みをもって接したら、当人もその影響を受けることは十分考えられます。

かすかなサイン(しぐさ、合図)が人の無意識に影響することは、実験によっても確認されています。たとえば、中性的な男性モデルの写真をスクリーンに映し、ふたつのクラスの学生たちに見せた実験があるそうです。

一方のクラスでは、特別な細工をしないで見せたところ、95%以上の学生が「中性的か、やや女性的」と評価したのに、もう一方のクラスには、特殊な装置を使って、ふつうでは知覚できない速さで「MAN」という単語を重ねて投射したところ、60%以上の学生が「男性的か、やや男性的」と評価したというのです。 [*2] [注1]

それならば、ある人物について、名前のイメージだけから、「この人は、こんな人だ」という先入観を周囲に植え付けてしまうこともあるでしょう。

そして、表面的には些細でも、無意識レベルでは大きな影響力のある、周囲の人々の反応や自分自身の行動に対する気づきがフィードバックされて、本来の自分から少しずつ軌道がずれていくかもしれません。

赤ちゃんの名前』(中野洋監修)では、公務員に「敬」の文字が多く、政治家で「政」「行」「栄」が多いということでした。この中には単なる偶然もあったでしょうが、これらの漢字と特定のイメージとの結びつきで、自己成就予言が作用したケースも混じっていたのではないでしょうか。

●「占い」にも使える自己成就予言

逆にまた、もし名前がその人の性格や運勢に影響するなら、理屈の上では、名前で個人の特徴を占うことも可能でしょう。

自己成就予言がどう作用するか推理すれば、多少は性格や未来を読めるかもしれません。世の中に思い込みがまったく無い人や、周囲に影響されないという人は、少ないでしょうから。

そして、もし自己成就予言が性格形成や職業選択に影響することがあるなら、「剛」や「猛」の文字の影響で生来の小心者がいくらか図太ずぶとくなったり、「匠」や「法」の文字で職人や弁護士などに強い興味を持つかもしれません。そして、興味があれば、その道で成功する確率も高まるでしょう。

もちろん、人の名前に注意を払う機会は、経験的にそれほど頻繁ではありませんから、これらの仮説には十分な検証実験が必要です。しかし、こうしたことが現実に起こり得るとすれば、「名前は運勢を左右することがある」とは言えそうです。

同様にして、名前に「哲」の漢字を持つ人は、そうでない人よりも哲学に興味を持ちやすいのかもしれません。井上円了氏が哲学館(現在の東洋大学)を創立したとき、「哲」の字を持つ学生が集まって来たのは、自己成就予言の結果かもしれないのです。

円了氏が論説『名称教育』を執筆し、約10年が経過しても考えを変えないばかりか、「ますます名称教育の事実なるを知る」と表明したことは、円了氏の確信の深さを感じさせるものです。[注2]

==========<参考文献>=========
[*1] 『不思議現象 なぜ信じるのか』(菊池聡・谷口高士・宮元博章編著、北大路書房)
[*2] 『潜在意識の誘惑』(ウィルソン・ブライアン・キイ著、リブロポート)
[*3] 『洗脳ゲーム サブリミナル・マーケティング』(横井真路著、リブロポート)
[*4] 『サブリミナル効果の科学』(坂元章・森津太子・坂元桂・高比良美詠子 編著、学文社)

==========<注記>==========
[注1] サブリミナル(潜在意識)知覚とその影響[*2-4]
 人の表情をどのように解釈するかも、サブリミナル刺激で影響されることが分かっている。同じ無表情な顔を見ても、被験者がふつうは知覚できない速さ(1/3000秒など)で、感情を表す単語(「怒っている」または「幸福」や、「HAPPY」または「SAD」)を投射した場合、サブリミナル刺激に応じて表情を読み取るという。

 また、サブリミナル刺激によって引き出された行動が、さらに自己成就予言の現象を引き起こす実験もある。
 被験者Aと被験者Bがペアになってゲームをする。このとき、相手を「敵意的な人物」と思わせるサブリミナル刺激を被験者Aにだけ与える。すると、被験者Aは被験者Bに敵意を向け始める。そのうち、被験者Bも(おそらくは仕返しとして)被験者Aに敵意を向け始める。
 こうして、被験者Aから見て、はじめは敵意がなかった被験者Bが、あたかも「敵意的な人物」であるかのように行動するようになる。

[注2] 名前に「哲」の字を持つ哲学館の学生
 詳しくはこちら⇒『井上円了と姓名判断




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