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マンガ『妻が口をきいてくれません』と小説『賢者の贈り物』

先日、本屋さんをぶらついていて、棚積みからこの本を手に取り買って帰った。
4コマ漫画なので1〜2時間で読めた。


Kindle版も出ているし、メディアで反響続々と書いてあったので、もう終わりかけている話題かもしれない。

商品の紹介欄のあらすじを引用すると、、

妻、娘、息子の四人家族として、平凡ながらごく平和に暮らしていると思っていた夫。しかし、ある時から妻が口をきいてくれなくなる。家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩したわけでもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ。何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。知らないうちに嫌がることをしたのだろうか。特に思いあたることもなく、あれこれと働きかけてみるものの…。累計3000万PV(集英社ノンフィクション編集部公式サイト「よみタイ」)を超え、反響に次ぐ反響を呼んだ話題のコミックエッセイ、待望の書籍化!

とある。

結局妻がこの状態を5年余りも続けた、ということ以外はどこの夫婦でもありそうなエピソードだ。

例えば、妻が「今日バスの中で悠がぐずってさ、おじさんに(乗り合わせた見ず知らずの)うるさいってすごい剣幕で怒鳴られちゃって、、、」と昼間あった悲しかった出来事を話しだすが、夫は「それはママが悪いよ。ぐずったらすぐに降りなきゃ。」と言う。

「降りようとしたよ、だけどバスが、、、、」と言いかけると「ほら、また言い訳。」と夫に挟まれ、実は子ども二人とバス停2つ分歩いたことを、言わずに終わってしまう。


あるあるだよね、みんなおんなじだよ、、、と過度の一般化はいけないけれども、少なくとも私達夫婦は同じ様なことを経験して来た。


***

もう、お互い60歳なので、ここ数年はないけれど、数日前ひさーしぶりに、「妻(私)が口をきいてくれません」をした。。。


毎週火曜日の夜は、仕事を終えて、と言っても私が塾をしているので終わるのは22時を回る、さっと夕食を食べて、お風呂屋さんに行くことにしている。

今は時短営業で飲食店には頼れないので、昼のうちにお弁当を買っておいて、それを食べることにしている。
でもおとといは、そこをあえて、簡単に作って食べれるしとそうめんに変更してみた。大急ぎで作って片付けて、食卓につく。

すると主人は
「つゆが濃すぎる」「作りすぎ」「家を出るのが遅くなった」と並べて、聞こえよがしなゲップの後に「やっぱり弁当のほうが良かったんじゃない?」と。
そうめんで労ってほしいというのも何だけど、、、


それでも私としては
「なにー、私は昼間、『毎週似たようなお弁当だな、申し訳ないなぁ』ってスーパーの中を何周回ったと思ってんだ」と思っても口にはしない。
その分、口を閉ざす。


主人としては、
イレギュラが苦手なのだ。
何より、私にひと手間をかけさせてしまったということをとても心配してざわつく人。
わかっている。


***

古今東西、いつの時代も男女の行き違い話は尽きることはない。

ただ、少し見方を変えれば美談になる。

オーヘンリーの名作『賢者の贈り物』がそれじゃないかと思う。

若く貧しいヤング夫婦は、それでもクリスマスイブだけは楽しく過ごしたいとお互いに思っていた。
そこで、妻のデラは、愛する夫ジムのために、彼が大切にしている金の懐中時計につける「プラチナの鎖」をプレゼントしようと思いつくが、お金が足りない。
デラは自慢の美しく長い髪を売って、お金に変えたのだった。

一方ジムは、大切な懐中時計を売って、デラの自慢の長い髪をとかす用にと「鼈甲の櫛」を手に入れる。
愛する妻のために。

その夜、プレゼントを手に勇んで帰るジムが扉を開けると、デラの顔を見て棒立ちになってしまう。デラのあの美しく長い髪がない。。。


さあここで、ジムが
「えー!お前何やってんのー、髪どうしちゃったんだよー。なんだよ、俺の時計は懐中時計なんだよ、鎖なんかないならないでもいいんだよー。」

とか言っちゃたら、『デラが口をきいてくれません』が書ける。

ところがご存知のように、彼らはお互いの「思いやり」を受け取り、自分が一番大切にしているものを犠牲にしてまで、喜ばせようとした相手の気持ちに、お互いに感謝するのだ。

オーヘンリー曰く
「現代の賢者たちに言おう。贈り物を与え、贈り物を受け取る人々の中で、彼ら二人の如き者こそが、最も賢き人々であるのだと。」


確かに、お互い苦楽を共にした相手だからこそ、言わなくてもわかって欲しくなる。ましてや心が疲れている時は、なおさら、ひっくり返して美談にするパワーもなく、ややもすると自己憐憫に沈んでしまう。

でも、賢者でなくとも、お互い精神衛生的にハッピーでいたい。


***

火曜日の夜、お風呂屋さんから帰っても、私は口をきかずに就寝した。

夜中、女の子が悲しくうめく様な声を聞く夢を見て目を覚ますと、夢じゃない。本当に聞こえてくる。「何?」と思って窓の外に意識を向けると、違う、隣のベッドで背を向けて、丸まって寝ている主人から聞こえてくる。

恐竜のようないびきの主人が、、、どうした?、、まさか夢で泣いてる?、、ごめんね、やり過ぎた。

そう反省した私は、朝、心なしか小さく見える主人に「おはよう」と元気に言った。

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