「太陽の黄金の林檎」感想

レイ・ブラッドベリ「太陽の黄金の林檎」(ハヤカワ文庫)を読みました。

ブラッドベリは「華氏451度」「歌おう、感電するほどの喜びを!」に続く三冊目の読書ということになりますが、「太陽の黄金の林檎」は前2冊に比べると全体的に哀しい、暗いイメージの短編が多く収録されている印象です。

全編を紹介してしまうと結構な量になってしまうので、特に印象に残った何編かを選んでご紹介させていただきます。
あんまりネタバレをされて困るような本ではないと思いますが、内容に触れている箇所も大いにありますので苦手な方はご注意ください。

・霧笛
海中に潜む怪物のどうすることもできない哀しいお話。実は、たまたま最近トーマス・ホープ・ホジスンの「海の声」という短編集を読んでおり、この本が海洋版コズミックホラーといったテイストの作品でした。「霧笛」に怪物が登場した際にも、そういった海洋的な恐怖に対する身構えを心の中で無意識的にしてしまっていたのですが、だからこそ、本作のその後の展開には恥ずかしいような決まりの悪いような感情を抱いてしまいました・・・

この怪物に言うべき言葉がいつか見つかるときは来るのでしょうか。

・四月の魔女
ブラッドベリにしては珍しいかな?と感じる、風景を色彩豊かに表現した作品。視覚、嗅覚だけでなく温度感覚まで用いた表現には引き込まれてしまいました。一方で、主人公であるセシーの性格の身勝手さには少し目を覆いたくなるような部分があり、これは主人公を「自然」の一端として描写するための意識的なものなのかな、という気がしました。(的外れかも知らんけど)

・空飛ぶ機械
作品全体に漂っている寓話のような雰囲気がまず楽しめる。特に冒頭の皇帝と家来のやり取りは楽しく五感を刺激してくれます。

本作は冒頭と末尾で同じく安寧で美しい国・街・人々の描写を行っているのですが、中盤の機械的な展開と綺麗に対比ができているな、と感じました。新しく生まれた美をあえて殺した皇帝の心の内は、なかなか図り切れるものではありません。

・山のあなたに
人間の浅ましさがこれでもかと詰まった作品。まずはブラバムのさんのしようのない虚栄心にうんざりさせられ、その後コーラの子供のような奇行を見せつけられ、それに付き合わされる甥のベンジーに憐憫の意すら抱いてします。

しかし、その後のコーラの悔悟の独白は、現代を生きる我々なら全く戒めを感じない人はほとんどいないのではないでしょうか。

コーラはずっと「むこうの世界」との繋がりを求めており、ベンジーの来訪を機にそれを手にしようと胸を躍らせていました。しかし、目の前の手段を用いて「向こうの世界」との繋がりを作るのに躍起になってしまい、本当に繋がりを持つために必要なことを全くできていなかったことに、最後に気づいたのです。

色々な目的・手段が存在する現代で、本当に必要な目的を設定し本当に適切な手段をとることは物凄く難しいことだと思います。考えさせられる一遍でした。


思ったより長くなってしまいました。

次は、ミステリを、それもバリバリのフーダニットを読もうと思います。気が向いたらまたnoteに感想を投稿するので期待せずに待っていてください。

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