父とFFⅩ
ファイナルファンタジーシリーズは、小さい頃から知っている。
まあ、言うほどコアなファンではなく、プレーしてクリアできたナンバリングはⅫしかない。最後まで行けなかったのは幾つかあり、そのほかはストーリーを何となく知っている、くらいのものである。
個人的にはⅧの思い入れが深い。生まれて初めて出会ったFFがⅧであり、園児の頃に親がやっていた記憶がある。台風が家に直撃した夜に、ガルバディアガーデンのケルベロスと戦闘をしていたのをよく覚えている。
父はFFⅩのファンだ。
発売当初はソフトを借りてプレーしていた。買う暇が無かったのか、お金が無かったのか、在庫が無かったのかは分からないが、とりあえず知り合いに借りていた。まだ説明書があったPS2。当時の私は、ヒロインのユウナのキャラクターデザインに感銘を受けた。今でもFF界なら1、2を争う女性キャラ衣装だと思っている。
父はPS2をテレビとテーブルの間に置いてプレーしていた。我が家はゲーム一家なので、その光景は見慣れたものだった。
私は、何の気無しに畳に置かれたPS2を跨いだ。幼いが故の過ちだった。立っていたPS2を蹴倒したのだ。それまで、あれよりも高いものを踏まずに越えてきた経験はいくつもあったのに、どうしてかあれは越えられなかった。気の緩んだ、後ろになった右足の端に引っ掛かった。
テレビ画面が暗転した。父は急いでディスクを確認した。ディスクには傷が付いていた。もう一度入れて読み込ませてみるが、うちのテレビに「ザナルカンドにて」が流れることは無かった。ディスクの傷をマッキーで線を引いて潰してしまえば復活する、という噂を母が聞いてきた。すぐさま処置は施されたが、動く気配は依然無かった。
私に両親は轟雷の如く叱った——かと思いきや、意外にも優しかった。叱ったのかもしれないが、そこに関しては今ひとつ記憶が無い。予想していたよりも両親は私に穏やかに接し、借りてきたFFⅩは弁償された。
あの一件から数十年経ち、私も社会人になり稼げるようになった。
去年の暮れの「RTA in Japan」にてFFⅩのRTAが行われた。残念ながら、リアルタイムで全て追うことは出来なかった。このとき初めて、エンディングまでのFFⅩをゲーム画面で見ることが出来た。シーモアバトル、otherworld……好きなサウンドトラックが流れるシーンを見て感動を覚えた。
そして、それと同時に、父はこれを知らないのだと思った。
記憶が正しければ、父のFFⅩのセーブデータは「ガガゼト山」——おそらく、前記した神曲は堪能していないはずだった。サントラ如何以前に、父はザナルカンドに辿り着いていなかった。
「ああ、これはまずいな」と、私は罪の重さを改めて知った。
家で自由に使えるのはPS3だった。私はリマスター版を買った。父は喜んでくれたが、起動するや否やコントローラーがぶっ壊れており、□と△が押しっぱなしの状態という縛りプレーを強制された。私はすぐさまコントローラーをネットで注文したが、それが届いた頃にはブリッツボールのチュートリアルが始まっていた。
新しいコントローラーは、今のところ動作は正常らしい。心ゆくまでプレーして貰いたいものである。
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