シャルル 第4話【創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品】
第4話「玲奈。落ち着いて、あなたはとても強いわ」
「死神さんは、どうして殺し屋をやってらっしゃるんですか?」私が校舎の回りを歩いてると、八頭司が言った。
「外で死神って言わないでもらえる?」私が質問には答えずに言う。
「なんでっすか?死神って殺し屋の最高の称号なんでしょ?」八頭司は不思議そうに私を見る。
「誰かに聞かれた困るでしょ」
「じゃあなんて呼べば?」
「玲奈でいいよ」私が言う。
「玲奈さんはどうして殺し屋をやってらっしゃるんですか?」八頭司が質問し直す。
めんどくせーな。
「才能を感じたから」私が適当に答える。
「やっぱ凄い人って最初から才能感じるもんすか?俺この業界向いてない気がしてきて」八頭司が言う。
こいつ本当に刺客か?
隙だらけだし、訳の分からない相談をしてくるし。
調子が狂う。
「八頭司くんは何でこの業界に入ったの?」私が質問をし返す。
「いや…人の命救えるって神じゃないっすか」八頭司が真顔で言う。
「こいつ本当に面白いね」愛菜がニコニコ笑いながら言った。愛菜が私以外の人間に対して好意的なのは珍しかった。
「でも、入ってみて思ったんですけど、護衛って基本失敗して、対象者死んじゃうじゃないですか?俺はまだ経験してないんですけど、今からそれが嫌で」八頭司は顔を顰めながら言った。
「対象者の生死に対して敏感なのは才能がないかもね。危険な仕事だし、さっさと転職すれば?」私が適当に言う。
「やっぱそうっすよねぇ」八頭司が頷く。
私はタバコを取り出して口に咥えた。
その瞬間。
八頭司が私の顔に手を伸ばす。
あまりにスムーズな動きで私は一瞬反応が遅れる。
ひょっとしたら私に対して何かしてくるかもしれないと、ずっと警戒していたにも関わらず、反応が遅れる。
「何すんだ、てめぇ」私が声を荒げてナイフを取り出して八頭司の首にあてる。
「え、す、すいません」八頭司が慌てて言った。
「流石に本部でもないところでのたばこは問題かなって思いまして。一応中学校ですし」八頭司が両手をあげて言った。右手には私のハイライトが握られていた。
私はとても取り乱していた。
殺し屋として10年以上、死線を潜り抜けてきた。
時には凄腕の護衛に囲まれたり、絶体絶命のピンチもあった。
だが、一番危なかったのは今だ。
八頭司がナイフを握っていたら、私は首を切られて死んでいた。
全身から汗が噴き出る。
「玲奈」愛菜が口を開く。
「落ち着いて」
私は目を閉じて、深呼吸をする。
「悪かった」私はそう言ってナイフをしまった。
「い、いえ、こちらこそ、口で言えばよかったですね」八頭司が申し訳なさそうに言った。
「今の、何の技?格闘技?見たことない動きだった」私が尋ねた。
「技?」八頭司はキョトンとした顔で私を見る。
「私のタバコを奪った動き」少しイライラしながら私が言った。
「いえ?俺格闘技とかしたことありませんよ」八頭司が言った。
「その割にはいい動きだった。なんかスポーツとかやってたの?」私が言う。
「ああ。スポーツですね。やってましたよ。中学から大学まで」
「何を?」
「陸上ホッケーっす。結構いいとこまで行ったんですよ」八頭司がドヤ顔で言う。
私は顔を顰める。
「何それ。聞いたことないんだけど」私が言う。ゲームセンターにあるエアホッケーを思い浮かべる。
「アイスホッケーをグランドでやるやつっすよ」八頭司が言った。
「アイスホッケーを知らないんだけど」
「嘘でしょ?キムタクのドラマ知らないんですか?玲奈さん、年齢的に世代でしょ?」
「知らない。弁護士のやつ?」私が言った。
「それは別の作品だし、あれ検事ですよ」八頭司が呆れ顔で言った。
思わずタバコに手を伸ばしそうになる。ハイライトをポケットの奥底に沈める。
私は首を振る。
「まぁ、いいや。確かにタバコ、よくないかもな」そう言って、八頭司の表情を確認せずに歩きだす。
「待ってくださいよ」八頭司が後ろから言った。
状況が一変したのはその後だった。
私は八頭司と一緒に学校の外周を回っていた。可能性は低いが、狙撃手等の遠距離型の攻撃の対策を考えていた時だった。
突然、非常ベルが鳴り響いた。
反射的に、私は学校の塀を飛び越え校内に入った。半人前の割には、八頭司もいい動きで私についてきていた。
勿論非常ベルと言っても誤作動やイタズラの可能性もある。中学校なら尚更だ。ふざけている時に押してしまったりすることもあるだろう。
だけど、私達は楽観視しない。
襲撃があったと想定して動く。
そのまま最速で花村瑠璃のいる教室に向かう。
近くの校舎を突っ切るのが一番早かった。
廊下を駆け抜けていると、放送が鳴り響いた。
「家庭科室より出火が確認されました。生徒の皆さんは教師の指示に従って、速やかに避難してください」
「まずいね」私と並走するように走っている愛菜の幻覚が言った。
「避難の時が一番危ない。大勢の生徒が焦ってパニックになったら瑠璃ちゃんを守りきれない」
「それはもうメフィストに任せるしかない。あいつらめっちゃ怪しいけど」私が言った。
「誰と話してるんですか?」後ろから八頭司の不思議そうな声が聞こえるが無視する。
グラウンド越しに家庭科室が見えた。本当に出火しているようだった。
頭の中の3Dマップを動かす。生徒達の避難経路を思案する。これが、殺し屋の放火で花村瑠璃を動かす作戦だとしたら、どこが危険なのか考える。
私なら一番混みそうな裏門で仕掛ける。
だったら先に裏門に行くか…。
だけどメフィストが花村瑠璃を既に保護し、別の方向から脱出している可能性もある。
まずは教室を目指そう。
そう思って廊下の角を曲がった時に、覆面を被った男が襲ってきた。
「おっと」私は慌てて躱した。
素早く敵の数を確認する。
3人だ。
私は顔を顰める。
そうか。私も同時に狙ってきたのか。
一応考慮していたけど、焦っていたので反応が少しだけ遅れてしまった。
さっきから後手後手になってしまったのは八頭司の存在が大きい。常に八頭司を警戒しながら動くので、全ての行動にワンクッション挟まり、意識が削がれてしまう。
集中しなければならない。
家庭科室の出火に、私への襲撃者が3人。
明らかに、うちの会社レベルの組織が集団で花村瑠璃を殺しにきている。
急がなければならない。
一応八頭司が襲ってくる場合も考えて私は間合いをとる。覆面の男3人は佇まいからしれもかなりの手練れだ。
だけど一番やばいのは八頭司だ。唯一、私より強い。だから八頭司は警戒しなければならない。
一呼吸おいて、私は3人の中でも一番大柄な男に切り掛かった。
大柄な男は、一歩引いて、冷静に対処する。
まずい、と私は舌打ちする。
前のめりで殺しに来てくれたほうがこちらとしては都合がよかった。
しっかりと防いでいるところを見ると、時間稼ぎできればいいと思っているのだろう。
それが一番困る。防御に回られると、中々殺せない。膠着状態を作られ、時間を稼がれるのが一番最悪だ。
「玲奈さん!どうしたらいいですか」後ろで八頭司が言った。
連携をとって私に攻撃してこないところを見ると、少なくともこいつらと八頭司は無関係と見るべきか。
私はそんなことを思う。
「八頭司。動くな。そこで見とけ」私はそう言って、覚悟を決める。
土壇場で重要なのは、最優先事項をはっきりと意識することだ。
私はこれが得意だ。
なぜなら愛菜がいるから。
「3人とも強いけど、玲奈の敵じゃないよ。だけど、重要なのは一刻も早く瑠璃ちゃんを助けること。無傷は諦めよう」愛菜が言う。
「傷を負いすぎるのもよくない。この後瑠璃ちゃんを助けなきゃいけないしね。そうだな。左足、走れる程度の怪我。それを犠牲にするのが一番いいよ」愛菜が廊下の窓にもたれかかりながら言った。
ありがとう。
私の深層意識。
そう思いながら、私はもう一度同じ男に切り掛かる。同じ動きで引いたので、追撃に左足で蹴り上げる。
わざと。
ゆっくりと。
いなせる程度で。
男は私の左足を受け止める。
「終わりだ、死神」男はそう言って私の左足殴りつける。ナックルダスターが嵌められていたのか、激痛が走った。
「終わりはおめぇらだよ。雑魚」私はそう悪態をついて、ナイフで男の首元を刺す。
初めから左足を犠牲にしたカウンター狙いだ。
外すわけがない。
そのまま空いた右手で銃を取り出して発砲する。私の足を掴んだまま血を吐く男を盾に、残りの2人も始末した。
「お見事」愛菜がパチパチと拍手して言った。
骨折する前に殺すことはできたが、左足は血だらけになった。
「玲奈さん、大丈夫ですか」八頭司が心配そうに言った。
「俺救急セット持ってますよ」
「いらない。私に近づくな」そう言って私は襲撃者の覆面を外す。
知らない男だった。
ひょっとしたら知っているやつで、どの組織か絞れると思ったが、当てが外れた。
「八頭司。いくぞ」私はそう言うと、左足の痛みに歯を食いしばりながら走る。死体を放置することになるが、メフィストがどうにかしてくれるだろうと思った。
「瑠璃ちゃん、もう移動してるんじゃないですか?」八頭司が走りながら言った。
「かもな。でも襲撃が確定している以上、お前らメフィストが対応してるはず。どこに逃げたかここからじゃ分からない。だからまず教室に行く」私が言う。
「玲奈。頑張れ」愛菜が笑いながら言う。
ああ。頑張るよ。
私は階段を駆け登った。
第5話に続く
第5話
第1話
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