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【映画感想】越後奥三面
越後の国――新潟県は自分の故郷と思っている節がある。
正確には母の故郷なのだが、幼い頃から高校までの長期休みには、かなりの頻度で祖母の家を訪れた。
山奥の集落に、家はぽつんと建っている。
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だから、越後と山というワードに、私はまず祖母の暮らしを思い出し、ならばもう絶対にこの映画を楽しめるなと確信して、あまり前情報なしで映画館に飛び込んだ。
今から40年前に撮られた、ドキュメンタリーのデジタルリマスター版だという。
新潟県の北の方、山形に近い山間にその村はあって、ダム建設で立ち退かなければならないことが決まっていた。
村には、狩猟採集、川漁、農耕、そして四季の民俗行事が色濃く残り、映画スタッフが4年間一緒に過ごしながら、四季の生活を映像に収めている。
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深い山と豊かな川の中に代々続いてきた暮らしがあって、信仰が無理なく存在している。書物で知るようなかつての暮らしが、昭和も残すところ5年という40年前に、あたりまえとして残っていたことに驚く。
将来的にはダムの底に沈んでしまう、ということはみんな分かっていて、寂しいという気持ちを口にもするけれど、映像の中の彼らは日常を続けていく。
お正月のカラフルな花餅に、竹の柄を切ってつくる小さな弓矢。
手作りの籠で捕まえる魚と、光る水面に川のせせらぎ。
家族で移動するゼンマイ小屋は、猫も当然の如くいっしょ。
焼畑のやりかた、種の撒き方。
豪雪の季節に、馴染んだ指の動きで編まれる、色鮮やかな籠。
熊を狩りに行く緊張感と、仕留めて帰ってた男たちの高揚。
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ダム建設の犠牲になってしまう人々の悲しみや失われていくものについて、糾弾したり、反対しようという内容ではない。
方言が近いせいもあり、どうしても出てくる人達と、祖父母の顔が重なってしまう。絶対に病院で死にたくないと言って家で治療を続けた祖父。祖父が亡くなり、関東で住もうという娘達の誘いに、絶対嫌だと言った祖母。
やっぱ、山はいいなあ。
俺は山しかねえなあ。
山、山、山、俺には山しかねえなあ。
この言葉でボロボロ泣いてしまった。
映画の後のショートムービーで、ついにダム建設の工事が本格化し、村の家々が取り壊されていく映像があった。涙する村民の姿にもくるものがあったが、やっぱりこの言葉が一番印象的だった。
未練がましい言い方ではなく、むしろ清々しく、改めて確認するような言い方だった。
かっこいい。なんて、羨ましい。
映像に映る様々な景色は、2024年に東京に暮らす私から見れば十分に「非日常」で「遺すべき資料」に見えるが、本人達からしたら、きっと日常を過ごしているだけ。受け継がれてきた日常を、全うしているだけ。
だから、子供たちの記憶に残っていればそれでいい、という言葉になるんだろう。
自分にはこれしかないな、と口にできる何かを、あとどれくらいしたら手に入れられるだろう。祖母のもとを訪れてはその生活をiPhoneに撮りだめ、会話を録音して東京のまばゆい夜に聞く私は。
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日常なんだよな、と思う。
人生で非日常の思い出をいくつ抱えて死ねるかよりも、日常の豊かさと確かさの精度を上げたいものだ。
それにしても、自分の生活を自然と一体化させている人間のかっこよさには、年々惚れっぽくなって、まいる。
私が観た映画館ではアンコール上映が決まったとか。めでたい。
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