見出し画像

あの頃おこった、新日本プロレス3大暴動事件①

これまでプロレス会場にはファンとして、選手として、そして取材のために幾度も訪れてきた。それぞれの立場で記憶に残る大会というのはあるが、ファンとして観戦していた時代に遡ると、80年代に新日本プロレスで暴動の起こった3大会は、のちのち語られることも多いことから、印象深い大会となっている。

83.6.14蔵前国技館
87.3.26大阪城ホール
87.12.27両国国技館

たまたまボクはこの3大会を会場で観戦していた。観客として、なぜ、どのように、暴動が引き起こされてしまったのか、当時の状況を書き綴ってみたい。

▼84年6月14日蔵前国技館 第2回IWGP決勝 アントニオ猪木VSハルク・ホーガン

猪木にとっては前年のIWGP決勝から、1年越しのホーガンへの雪辱戦。誰もがすっきりとした勝利を期待していたが、果たしてWWFヘビー級王者となり勢いにのるホーガンに勝てるのか?というのが当時のポイントだった。

この日は会場に入れなかったファンのために外に大型スクリーンを用意して、日本初のクローズドサーキット(有料)が行われるなど、蔵前国技館は大観衆の熱気に包まれていた。どのくらいの大観衆かというと、チケットは完売。さらに一階のマス席は、普通は一マス4人が定員だが、ボクの周囲ではチケットが重複した席があちこちで見られ、一マスで最大8枚のチケットが存在していた。

ちなみにボクが持っていたチケットは4色刷りの硬券だが、あとから来た人のものを見ると、2色刷りの薄いものだった。席は暗黙のうちに先着順になっているようで、だいたいは後から来た人たちがどこかへ姿を消していったが、6人ぐらいが座っているマス席もあった。このようにこの日の蔵前は、文字通り立錐の余地もないほどの大観衆に包まれていたのだ。

そして肝心の試合は両者リングアウトに終わったが、延長戦が行われることとなり、場内のボルテージが更に上がる。
しかし数分で両者リングアウト裁定から、またも延長戦に突入。こうなると通常のプロレスのルールはなんなのか、猪木をそこまで勝たせなければいけないのか、ホーガンは延長に同意していないんじゃないか?などいろいろな思いが見ている側の心を錯綜し、怒号が飛び交うようになった。

そこに長州力の乱入が助け舟となり猪木がリングアウト勝ちを拾うという、誰も納得しないエンディングをむかえた。

「なんだよ、これ!?」
「無理やり延長してまで見せたかった結末はこれか!?」
「なんで長州がリングサイドにいるんだ!」

怒号が飛び交う場内は、試合が終わったにもかかわらず、多くの人がその場を動こうとしない。

「でてこい!でてこい長州!」

あちこちから長州に対する怒りの叫びは大コールとなり、怒り心頭となった観客は、遂に国技館を破壊する。
一番多く見られたのはマス席の破壊で、マス席を囲う枠が次々と引き抜かれていった。設備が古いせいか、いとも簡単にネジがぬけるようだ。
そのうち周囲から「火がつけられた!」との声が聞かれた。ただボクがいた一階席からは、その状況は確認できていない。
半年後には両国新国技館がこけら落としされることが決まっている中、蔵前は最後の最後で結構な規模での修復をするはめになってしまったのだった。

▼87年3月26日大阪城ホール INOKI闘魂LIVE PART-2

海賊男に加え、全体的にカードが弱すぎたことが、暴動を引き起こした原因だったといっていい大会。
猪木VSマサ斉藤、木村健吾VSケリー・ウィルソンの異種格闘技戦と、6日前に行われたIWGPタッグ王座決定戦の再戦で越中、武藤VS前田、高田が後日追加された。
ジャパン・プロレスの斉藤が猪木と闘うことが注目を引いたが、見る側としてはその背後に潜んでいるであろう、全日本マットから姿を消した長州力が、会場に現れるかどうかが最重要ポイントだった。
新大阪駅で購入した大阪スポーツには、前日行われた猪木VS斉藤の調印式に長州が姿を見せたことが報じられており、いやでも期待は高まる。

個人的には木村健吾の異種格闘技戦も楽しみだったが、対戦相手のケリ-・ウイルソンは、身長、体重、リーチ、すべてが木村より上回っており、なかなかの実力者だ。不運にもいいところをまったく出せなかった木村は、この試合でそれまでの対藤波辰巳路線は、なかったことにされてしまった。

猪木VS斉藤は終始静かな展開で、おそらく観客は見ていて「何かものたりないな」とモヤモヤしたものを感じていた。試合は淡々と進み、このまま終わりそうな流れの中、長州力ではなく招かれざる客、海賊男が乱入し、斉藤に手錠をはめてバックステージに拉致するという意味不明な行動にでたため、場内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

戻ってきた斉藤は、手首に残った手錠で猪木を殴打。猪木もリングのロープを固定する金具をはずし、前半とは打って変わって大荒れの試合になりそうな雰囲気となった。
おそらく試合はここから、この1か月後両国で行われたノーロープ決戦のようになったのかもしれないが、あまりの茶番劇に場内のムードがとてもそれを受け入れるどころではなくなってしまった。

そのまま試合は不完全決着となったため、蔵前同様観客が帰らず暴動に発展した。
蔵前と違ったのは、アリーナの客席がイス席だったこと。
暴徒となった大阪の観客はイスを投げまくり、会場のあちこちにイスで築かれた山ができあがった。
そんな光景をボーっと見ていると、ボクの背後でごそごそしていた人がものすごい勢いで走り去っていった。なんだろう、と振り返ると、目の前には火がついていたのだ。関係者とおぼしき人たちが数人駆け寄り、慌てて消火したので大事にはいたらなかったが、火って一瞬であんなに大きくなるのか、と思うほど結構な火力だったと記憶している。アリーナ席で放火をするって、これはもう抗議ではなく大犯罪といっていいだろう。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?