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樹堂骨董店へようこそ25


登場人物    樹  イツキ、那胡の父、骨董店店主、年齢不詳
       那胡  ナコ、社会人一年生、イツキの娘
       七緒  ナナオ、桜杜神社で働く、那胡のイトコ、
       沙那  サナ、那胡の母、現在行方不明

     ほうづき屋メンバー  田貫(タヌキ) もののけタクシー担当
                りん 額縁から解放されて現在自由

       流   リュウ、イツキの知り合い、日本語がうまくない、
           いつもスーツを着ている、人間ではない
       菊乃  キクノ、亡くなった医師
      リリア  イツキ邸の元の住人、イギリス人、
           11歳で亡くなり、そのままイツキ邸に住み着く

       小林  県境の神社代表、イツキを追っている


「流だ」
そう言うと那胡は社務所の外へとすっと出て行った。取り残された七緒はその背中を眺めつつ小林を探した。
流の気配がちょうど境内の真ん中、本殿の正面にやってくると同時に小林と那胡もそこへたどり着くのが見えた。

小林はゾクゾクゾクと寒気を覚えた。
「なんだかこの境内はやたらと寒いな」
つぶやきながら背中をいくらか丸めた。なぜか急に寒くなったように感じた。ちょうど目の前に昼間、骨董店でレジをしていた那胡が歩いている。えんじの作務衣を着ている。間違いない。もう少しイツキについて聞いてみようかと那胡に声をかけようとした。
「流!どこへ行くの?」
那胡がふいに話し始めた。けれど、その先には誰もいない。小林は周囲を見回したが那胡の視線の先には誰もいない。
「…?」
那胡が足を止めると冷たい風が吹き込んできた。とにかく冷たく研ぎ澄まされた冷気だった。
(いくら高原とはいえ急に冷えすぎだろう…)
小林はポケットに手をつっこんだ。
「…ふうん、私もついて行っていい?」
那胡は誰もいない空間に向かって話しかけている。小林は那胡の様子をさりげなく見ていた。なぜ、誰もいない空間に向かって話しかけているのだろう。
那胡が右手を前方に伸ばすと、ふいに強い冷たい風が吹いてきた。
「うわっ」
小林はおもわずポケットから両手を出して身構えた。コートが風で巻き上げられる。とんでもなく強い風は台風のようだ。
右も左も上も下も…よくわからなくなって目を閉じ身構えていたら、急に風が止み今度はふわっと温い風が顔をなでていく。
「?」
目を開けると、そこはさきほどまでいた薄暗い境内ではなかった。明るい光がさし、周囲には白い煙のようなものがぐるぐると渦巻いてトンネル状になっていた。
「ここ…どこだ?」
小林は前方にいる那胡ともう一人背の高い人物を見つけた。


「ちょっと…年末のクソ忙しい時に…なんで消えたりすんの!」
たった今、窓ガラス越しに那胡と小林の姿が忽然と消えるのを目撃してしまった七緒は叫んだ。
「もう!どうなってんの?」
那胡だけならともかく、小林まで消えた。
「まずいなぁ…どうしよう」
24時間営業の忙しい大晦日、七緒は突然のアクシデントに戸惑った。
      


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