見出し画像

樹堂骨董店へようこそ⑫

「リリアはとにかく誰かと遊びたがる」
イツキはようやく食べ終えたカレーの皿にスプーンを置いた。
「そういえば、あの子遊びたかったって言ってた…」
七緒と那胡は顔を見合わせた。
「人を襲うというより好奇心が強いせいで、ここを借りた人々の前に現れては借主を怖がらせてしまうために嫌がられたんだ。まあ他にも電化製品がすぐ壊れてしまうとか他にも幽霊が集まってくるとかよくないことが多い。とにかくあの見た目だし、見えなくても家の中の異様な空気感に誰もが恐怖を感じる。だから誰もこの家を借りなくなったし買い手もいない。それで私のところになんとかしてほしいという依頼が来たんだよ。おかげで家賃はタダだし報酬ももらえるんだけどね」
イツキは那胡の前にあるあたりめに手を伸ばした。無言で那胡があたりめの袋を自分のポケットに入れる。
「那胡…パパにも金米堂のあたりめおくれよ…」
「イヤ。自分のお小遣いで買ったんだもん」
那胡は今日はとにかく機嫌がよろしくない。イツキはがっかりすると近くにあった温州みかんをひとつ取ってゆっくりと皮をむいた。なんかさみしい。
「にしてはやけにチカラをもってそうだったけど…なんでなの?」
七緒はふたりのやり取りをあきれながら見ていたが、リリアに対する疑問をイツキに聞いてみた。
「たぶんなんだが、桜杜と連動している気がするんだ」
「そういうことかぁ。今年は七年祭だからね」
イツキと七緒は事情を知っている様子だ。那胡だけがこの話についていけなかった。
「何?どういうこと?」
「…桜杜は七年に一度、土地のエネルギーが不安定になるんだよ。はっきり七年ていうわけじゃないんだけど」
「さすが桜杜神社の巫女だ。桜杜のことをよく知っていて頼もしい」
イツキは頷いている。
「私は事務職しかやってないです。巫女は別の人がやってくれてる」
「あれ、そうだっけ…」
「もぉ…お正月に集まった時も、ゴールデンウィークの時もその話してたじゃん……」
那胡はあきれつつ、桜杜神社のことはよくわからないので聞いてみる。
「だから七年祭っていうのがあるのか…でもなんで七年?」
「…これは言い伝えなんだけど、桜杜神社では自然のモノとか私たちがご神体なんて呼んで祀ったりするモノは七年で一年と数えるらしいの。それでひとつの区切りとして七年なんじゃないかって言われてるよ」
七緒の説明になんとなく那胡は納得できた。
「私それ…」
那胡が話そうとしていた時だった。
「みなさん、いらっしゃるの?」
突然ドアがぎぃぃぃと音を立てて開いた。冷たくひんやりした空気がリビングに流れ込んでくる。
「きゃ…」
「ひぃぃ…」
室内の空気が凍り付いた。
「リリア…出てきてはいけないよ」
イツキは椅子から立ちあがって右手をスッと上げると、冷たい空気が来なくなった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?