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【99%日本人は知らない】ドイツが日本を抜いてGDP3位の嘘

GDPで日本を抜いたドイツ

2023年、ついにドイツのGDPが55年ぶりに日本を抜き、世界第3位となりました。

同時に、長らくGDPのTOP3を守っていた日本が第4位に陥落し、「もはや日本経済は衰退している一方だ」という悲観論が広がりました。

しかし、経済成長率を見てみると、なぜかドイツは0.3%のマイナス成長で、これはG7の中でも最悪の数字で、ドイツは先進国の中で、唯一景気が後退している国です。

また、ドイツ商工会議所の会長は、ドイツについてこのように語っています。

「我々はもはやヨーロッパのエンジンではなく、ブレーキ役なのだ」

一方、ドイツに抜かれた日本は円安に苦しんでいるものの、成長率自体はプラス1.3%と健闘しています。

なぜマイナス成長を続けるドイツが、プラス成長を続ける日本を抜くようなことが、起きたのでしょうか?

なぜドイツのGDPが日本を抜いたのか?

この不可解な現象を理解するには、国際通貨基金・IMFが発表しているGDPが「名目GDPである」という点を押さえる必要があります。

この名目GDPというのは、実際に取引されている価格に基づいて計算されるので、物価変動や為替レートに、非常に大きく影響されるもの。

一方、実質GDPとは、名目GDPから、為替レートや物価の変動による影響を取り除いたものです。

そして、この名目GDPは「米ドル建て」なので、円安が進む日本では、名目GDPが、ユーロ高ドル安が進むドイツよりも、かなり低く算出されています。

ある調査では、ドイツの米ドル建て名目GDPの成長率を、実質GDPの増減である「成長要因」と、物価変動である「価格要因」、対米ドルレートの変動である「為替要因」に分解しました。

すると、ドイツの名目GDPの増加に最も貢献したのは、価格要因だと判明したのです。

次に、「為替要因」もドイツのドル建て名目GDPを、膨らませる方向に働いています。

この間、ユーロの対米ドルレートは、3%ほど、ユーロ高ドル安が進んでいました。

一方、「成長要因」は、マイナスとなっていました。

これは、ドイツの実質GDPが、0.3%減のマイナス成長となったためで、ドイツ経済の厳しさが分かります。

つまり、ドイツの名目GDPは、高いインフレ率の下で、低成長という、典型的なスタグフレーションの影響を受けて、膨張していたというわけです。

スタグフレーションとは、景気の低迷と物価の上昇が、同時に進んでいる状況です。

一般的に、不景気時は、需要の落ち込みにより物価が下落し、好景気時は物価が上昇するとされています。

しかし実際は、景気が減退傾向にもかかわらず、物価が上昇するという状況が生じることもあります。

この状況がスタグフレーションで、決してドイツの名目GDP3位というのは、喜べる数字ではないのです。

なぜなら、ドイツは経済不況だから、GDPが膨らんだという地獄のような状況だからです。

日本のGDP

一方、日本のGDPはどうでしょうか?

GDPをドル換算すると、日本の名目GDPは、2011年9月に過去最高となる、6.5兆ドルを記録していたのに対し、2023年9月時点では、4.0兆ドルにまで落ち込んでしまいました。

すなわち、この12年間で、ドル建て名目GDPは、3分の2以下に落ち込んでしまった計算になります。

しかし、これは数字のマジックなので、詳しくひも解いてみましょう。

ドル建て名目GDPを、円建てにしてみます。

すると、少なくとも「名目」ベースでは、特に近年、経済成長が続いていて、過去最大の「600兆円台」の達成を目前にしています。

ちなみに、2008年9月に起きた、リーマン・ショックの影響で、名目GDPは2009年3月に492兆円にまで減っているので、この十数年で、GDPは100兆円以上成長したということになります。

つまり、日本の経済成長が、伸び悩んでいるわけではありません。

円安が急速に進行したために、ドル建てのGDPが低迷しているだけで、円建てのGDPの成長率自体は、極めて堅調なのです。

では、そんな日本と対照的な、ドイツの根深い経済問題について見ていきましょう。

ドイツのエネルギー問題

今回のドイツの名目GDP上昇に、最も貢献したと言われているのが、ウクライナ問題を受けたエネルギー価格の高騰です。

ドイツは脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めていて、再生可能エネルギー移行の過渡期のエネルギーとして、天然ガスを国家の柱に据えてきました。

その調達先はロシアで、天然ガス輸入の55%を、安価なロシアからのパイプラインに頼っていました。

ドイツ経済は、シュレーダー政権で強化された対外競争力が、メルケル政権で中国という巨大市場を得て、大きく花開きました。

その対外競争力は、すべて安価なロシアの天然ガスに、支えられていたのです。

この、ロシアの天然ガス大量購入を決めたドイツの判断について、EU内外から地政学リスクを懸念する声が、多くありました。

また、トランプ米元大統領も、ドイツのエネルギー政策について「ロシアの捕虜」と批判するなど、非常に大きなリスクを抱えたものだったのです。

それでも、メルケル政権は方針も行動も変えずに、エネルギー政策を実行し続けます。

しかし、ウクライナ問題の勃発、さらにはドイツとロシアを結ぶ、「ノルドストリーム」の破壊により、ドイツはロシアの天然ガスを、今までのように輸入できなくなります。

さらに、ロシアの石油、石炭も失ったドイツは、エネルギー価格の上昇に直面しています。

ドイツが進めていた脱原発は、ロシアから安価な天然ガスを輸入できた時代だから、可能だった政策であって、今のドイツに脱原発と、脱炭素を両立する力はありません。

その結果、2023年2月の消費者物価指数でみると、21年1月からエネルギー価格は47%上昇しています。

60%以上上昇していた、2022年秋からは少し下がりましたが、依然大きな額であることに変わりありません。

このエネルギー価格の上昇は、産業に直接の影響を与えた上に、物価上昇と金利上昇を通して、消費支出と設備投資を抑制し、実質成長率を鈍化させました。

アメリカの調査会社によると、今年3月のドイツの産業用の電気料金は、フランスや日本の約2倍、カナダの4倍以上となりました。

高い電気料金は、商品やサービスのコストに跳ね返ることで、ドイツ国民の家計を圧迫しています。

このようなエネルギー価格の高騰により、ドイツでは企業が国外に逃げる、産業の空洞化が止まりません。

企業にとって、従来よりも、高価で不安定なエネルギーの利用を強いられる、コストの高い国での、消費・投資活動を回避しようと考えるのは、当然です。

中でも、特に、外国企業のドイツ離れ、つまり「対内直接投資の激減」が進んでいます。

なんと、対GDP比の純流出は、マイナス4%に迫りつつあり、これはリーマン・ショック以降、ドイツが経験したことがない流出規模です。

ドイツの名目GDP上昇は、エネルギー問題だけではありません。

ドイツ経済は厳しい

ドイツ製造業の主力である、自動車工業と化学工業の生産水準も、回復が遅れています。

自動車工業は、半導体の供給制限に加えて、欧州中央銀行の利上げに伴う需要の低迷、電気自動車シフトに伴うリストラもあり、回復が遅れています。

他方、化学工業は、大量に用いる産業用ガスの価格が、高騰し続けているので、自動車工業以上に回復が遅れていて、今後の回復の展望も描きにくいのが、実情です。

これまでの高インフレに伴い、ドイツでは人件費も増加しているので、ユーロ安も進まず、国際競争力が低下しているため、今後は輸出主導で景気が回復するのは、困難でしょう。

主要な輸出先である、中国の景気低迷が続くと予想されていることも、輸出主導の景気回復を阻む要因です。

さらに、内需においても、低迷が続くと考えられます。

ドイツの高インフレのピークは過ぎ去りましたが、それでもエネルギー価格の高止まりや、人件費の上昇を受けて、インフレ率は高いまま。

そのため、実質所得は増加するはずもなく、個人消費は抑制されます。

加えて、2023年末で、エネルギー高支援のための補助金や、電気自動車購入のための補助金がカットされたことも、これからの個人消費を、下押しすると考えられます。

そもそも、 EU は、コロナショックに伴い悪化した財政の、本格的な再建に 2024 年から着手するよう、加盟各国に義務付けています。

つまり、加盟各国には、EU から財政赤字を、対GDP比3%以内に削減することが、要求されているのです。

ドイツの 2023 年の財政赤字も、 GDP の 3%程度に膨らんでいて、また 2024 年も 3%以上に膨らむ可能性が、 EU から指摘されたため、ドイツは歳出をカットする必要がありました。

そこで、ドイツ政府は、過去に借り入れた資金の未利用分を転用し、それを財源にすることによって、2024 年も政府支出を維持しようとしました。
しかし、それがドイツ憲法裁の判断で、不可能となったので、ドイツは 2024 年から政府支出を見直す必要に迫られ、様々な補助金のカットを余儀なくされたのです。

このこともまた、個人消費を下押しすると考えられます。

さらに、ドイツは労働者不足に苦しんでいます。

労働者不足は、2035年までに700万人に達すると予測され、ドイツの福祉制度は、深刻な被害を受けることになります。

にも関わらず、失業者の増加にも歯止めがかからず、2023年の失業者は、なんと平均280万人弱まで増加しています。

ニューヨークタイムズの記事では、「過去四半世紀の間、団体協約に守られ、ストライキの少なかったドイツ経済に、顕著な変化が見られる」と報じられています。

ドイツ東部の、SRW金属スクラップ工場のストライキは、過去最長の135日を数え、その他の産業でも、異常なスピードでストライキが起こっています。

さらに、高齢化社会も相まって、ドイツ経済は、まさにがんじがらめの状態。

長年ヨーロッパ経済を率いてきたドイツですが、歴史の転換点とも言うべき苦境に陥っているのです。

まとめ

ドイツのGDPが、日本を抜いて世界第3位になったからと言って、手放しには喜べない。

むしろ、本来はあってはならないスタグフレーションによって、GDPが膨張しているというのは、国として非常に危険な状態です。

たしかに、ドイツはヨーロッパの王者、そして世界の中でも産業大国として、存在感を発揮していますが、これから増々経済が悪化することが考えられます。

果たして、ドイツは経済を回復し、本当の意味で、世界第3位の経済大国になることはできるのでしょうか?

今回は、「ドイツが日本を抜いてGDP3位」という数字の裏側について見てきました。

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