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カイロス打ち上げ失敗。試験1号機にロケットよりも高額な衛星を搭載して失い続ける我が国の愚かさ。

民間企業のスペースワンが開発した小型固体燃料ロケット「カイロス」の試験1号機(打ち上げ費用は約8億円)は、内閣衛星情報センターの情報収集衛星(開発費用は約11億円)を搭載して、令和6年3月13日に打ち上げられました。ところが、打ち上げから僅か5秒後に、映像を見る限り順調に上昇していたカイロスは、「飛行の安全に重大な支障が生じた際に自動的に破壊する制御機能」が突如動作して、衛星もろとも自爆してしまいました。
 
振り返ってみますと、JAXAが開発した大型液体燃料ロケット「H3」の試験1号機(打ち上げ費用は約50億円)は、地球観測衛星だいち3号(開発費用は約380億円)を搭載して、令和5年3月7日に打ち上げられました。ところが、1段目から切り離された2段目のロケットエンジン点火に失敗(原因は、異常電流を検知した制御機能が点火に欠かせない電流を完全に遮断してしまったこと)して、遠隔操作により衛星もろとも破壊されてしまいました。
 
「カイロス」と「H3」の1号機の打ち上げ失敗に共通することは、ソフトウェアとセンサーで構成される「制御機能」が働いた結果であるということです。ところが、このような「制御機能」の信頼性や安全性については、詳細設計図面を隈なく具に調べ上げてみても全く確認できないのです。電流の流れやソフトウェアの動作といった目には見えない部分については、詳細設計図面から判断することができないためです。
 
「H3」は、その製造に先立ちJAXAの「設計審査会」で詳細設計図面を徹底的に審査され、メカニカルな信頼性や安全性についてのお墨付きを得た上で製造されました。しかし、前記の「制御機能」の信頼性や安全性については全く確認できていないまま打ち上げられてしまったことが、致命傷に直結したと言えます。
 
「カイロス」は、JAXAが開発した小型固体燃料ロケット「イプシロン」を原型として、「イプシロン」の開発に携わった多数の技術者により開発されました。そして、「イプシロン」には無かった「飛行の安全に重大な支障が生じた際に自動的に破壊する制御機能」が新たに追加されています。このことから、「カイロス」も「H3」と同様に、詳細設計図面を徹底的に審査することにより、メカニカルな信頼性や安全性については十分に確認した上で製造されたのですが、前記の「飛行の安全に重大な支障が生じた際に自動的に破壊する制御機能」の信頼性や安全性については全く確認できていないまま打ち上げられてしまったことが、致命傷に繋がったと推察されます。
 
「カイロス」も「H3」も、試験1号機でありながらロケット本体よりも高額な衛星を搭載してしまったのは、詳細設計図面を徹底的に審査することにより、ロケットの信頼性や安全性については十分に確認できていると過信してしまった結果と言えます。しかし、繰り返しになりますが、ロケットの信頼性や安全性に直結する「制御機能」の多くは、ソフトウェアとセンサーにより構成されており、このような「制御機能」の信頼性や安全性については、詳細設計図面を徹底的に審査してみても全く確認することができないのです。
 
このような問題を抜本的に解決するには、プロジェクトマネジメントの在り方を変えていく他にはありません。我が国では、「組織対応」と称して、関係する組織ごとの部分最適化(ボトムアップによる部分最適化)を図っていくプロジェクトマネジメントが主流です。この場合のプロジェクトマネージャの役割は、関係する各組織間の「まとめ役」、つまり、コーディネーターに過ぎなくなります。しかし、これでは、プロジェクトマネージャは、関係する組織ごとの部分最適化を全て確認すれば「やるべきことは全てやり尽くした。」として、試験1号機に本番の衛星を搭載する動きとなってしまうのです。
 
実は、「組織対応」と称するプロジェクトマネジメントは、他国に類を見ない我が国独自のやり方です。欧米諸国では、そもそも「組織対応」という概念や用語が存在しないのです。欧米諸国では、トップダウンにより全体最適化を図る権限を有する「真のプロジェクトマネージャ」が、責任を持ってプロジェクト運営全般を司るのが当たり前です。それゆえ、ロケット打ち上げに失敗して搭載した衛星を失った場合の責任者は「真のプロジェクトマネージャ」となりますから、試験1号機に本番の衛星を搭載するといった判断はあり得ないのです。
 
また、ソフトウェアとセンサーにより構成される「制御機能」の信頼性や安全性は、トップダウンにより全体最適化を図るプロジェクト運営の中でしか確保することができないのです。具体的には、基礎設計の段階から、ソフトウェアとセンサーにより構成される「制御機能」の信頼性や安全性などについて、求められる機能と性能の要件を明確にして、それらを設計や製造に具体的に反映させていくプロセスを遂行することが効果的であり、必須であると言えます。


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