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オレンジ色のやさしさ

前に茶トラの猫を飼っていた。
もう亡くなっているので今はいない。

その猫がふと見せる行動が印象的だったのを、思い出すことがある。

あれは、隣に住んでいた幼なじみである友人のお父さんが亡くなった時のこと。

飼い猫は普段から、ベランダから屋根に行き、背中を屋根に擦り付けながら、ツツツーと屋根の上部から下部に背中からすべり落ちていく「屋根すべり」をしていた。背中が擦られるのが気持ちよかったのかもしれない。それは、猫同士で流行っていたのか、知らない猫が勝手に家に入り、うちの猫と一緒にやっていたこともあった。

その姿を隣の家のベランダから見ている時の友人のお母さんは、まるで小さい子のことを褒めるように、「〇〇ちゃん(うちの猫の名前)すごいすごい!」と褒めていた。
猫もそう言われてる間は繰り返しやっていた。

友人のお父さんが亡くなった直後に、ベランダでいつものように猫が屋根すべりをするから見るように私をベランダへ誘導してきた。
その屋根すべりをする猫の姿を見る私。友人のお母さんもベランダにいたので、一緒に見ながら褒めていた。
何度か屋根すべりを繰り返したあと、急に猫は屋根すべりをやめ、私の手の甲の皮を噛んで部屋の中へ入るよう引っ張った(痛かった…)。初めてだった、そんなことをされたのは。
驚いて、友人のお母さんがいるベランダのほうを見ると、はしゃいだ様子は一切消え、遠くを見つめてぼうっとしていた。そんな彼女の姿を見たのも初めてだった。

まるで、私には、猫がいっとき屋根すべりを見せて彼女を慰めて、あとは悲しみに浸る時間を作ってあげたかのように思えた。

猫って優しくて賢いとしみじみ感じる。
愛しいオレンジ色の子だったなぁ。

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