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【シリーズ第12回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 ブルースでジミー・ジョンソンを聞いた翌週末、私はキングストン・マインズにいた。
 出演は、あのマジック・スリム(Magic Slim)だ!
 マジック・スリムは1937年、ミシシッピ州生まれ。ブルース界のレジェンドのひとりだ。
 絶対に聞いておかなければならない!!
 生マジック・スリムだ~!!

 クラブの中に入ると、巨大なマジック・スリムがステージですでに演奏していた。
 「スリム」の形跡はなくなり、縦横ともにでっかい。
 マジック・スリムは元々ピアノプレイヤーだったけれど、農作業中に右の小指を失ったために、ピアノからギターに変更した。
 とはいえ、指が4本とは思えない。
 ものすごいカッティングで、バキバキ弾きまくっている。
 ペダルもスライドバーも使用しない彼の演奏は迫力満点。
 まさにシカゴブルースだ!

マジック・スリムでーす

 是非一度!・・・と言いたいけれど、2013年に他界されたので、もはや生で聞くチャンスはない。

 この日のキングストン・マインズは、週末だからか、マジック・スリムが出演しているからか、広~い店が満員だった。

(キングストン・マインズについて書いた記事 ↓ )

 人々の話し声で、演奏はほとんど聞こえない。
 大晦日のカウントダウン並みだ。(↓)

 ここへ来る客の多くにとって、音楽はメインではなく、酒のお供なのかもしれない。
 声をかけてくる酔っ払いを振り払いながら、とりあえず最後のショウまでがんばった。
 けれども、必死で音を拾い聞いていたせいか疲労困憊、楽しめた感はまったくない。

 あ~・・・疲れた・・・・・・・と脱力している場合ではない。

 演奏が終わるやいなや、厳ついセキュリティのお兄さんが、客を追い出しにかかった。
 モタモタしていると、お兄さんに首根っこをつかまれて、放り出されそうなので、ただちに席を立ち、帰る準備をした。

 その時だっ!!!

 ノースステージのバーカウンターの傍に立っている、俳優のモーガン・フリーマン似の長身の黒人男性と目が合った。

 ・・・・・・・・・・ひとめ惚れ~♡♡♡

 黒人にネガティブな感情もなければ、黒人と付き合いたいと思っていたわけでもない。
 しか~し、あたたか~いオーラを放つ、その黒人男性に、私は初ひとめ惚れをした!!!

 有難いことに、私の意思に関係なく、出口へ向かう人の流れは、彼が立っているバーカウンターの方向へと進んでいる。

 うぉ~っ!・・・彼に接近したい~!!!

 流れる方向は間違っていないけれど、私が流されている場所は、彼の立っている場所からちょっと遠い。
 けれども、途中で止まることも、流れから抜け出すこともできない。

 こっちを見ろ~!!!

 これまでの人生で、こんなに念じたことはない。
 念じたおかげか、ただならぬ殺気を感じたのか、彼が私の方を見た!!

 よっしゃ~!!
 
 さらに!!

 「君、キュートやなぁ!名前なんていうの?」

 と、私に聞いたのだっ!!

 「ゆみこ~!」

 押し流されながら答えた。

人込みに流されて近付けなーい!

 キュートって言われた~♡
 アメリカで美容院へ行く自信がなかったので、日本を発つ前に、髪の毛をちょんちょんに切っていたからかな?
 サイズがピッタリだった、子供用の真っ赤なスキーコートを着ていたからかも。
 愛玩動物的なキュート???・・・そんなことはどうでもいい。

 彼は私の存在に気付いた!!

 とはいえ、人の流れには逆らえない。
 あっと言う間に、出口のある、サウスステージ側の部屋へ流れ着いた。

 このまま出口まで押し流されるんだろうなぁ・・・。

 大人しく帰るしかないか・・・と思っていると、出口の手前で突然流れが止まった!
 出口の扉は、ひとりしか通れず、これだけの人数をスムーズに吐き出すことができなかったのだ。

 振り返ると、彼はサウスステージのバーカウンターに移動し、誰かと話をしていた。

 チャーンス!!!

 彼が立っている向こう側にあるトイレへ行くふりをして、近付くことにした。
 といっても自分から話しかける勇気はない。
 というか、英語でナンパできる自信がない。
 彼の存在に気付かぬフリをして、通り過ぎることにした。

 接近中・・・接近中・・・接近中・・・接近!!!
 彼の横を、まさに通り過ぎようとした瞬間、彼のでっかい手が伸びてきて、とおせんぼをした!!!

 やった~🎉

 それにしてもでかい手だ。
 身長は2メートル近い?
 そしてとろけるような優しい笑顔。

 抱きつきたい衝動に襲われたけれど、さすがにできない。

「トイレに行くねん」

「終わったら戻っておいで」

 ただちに戻った。


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