見出し画像

【第7話】36歳でアメリカへ移住した女の話 Part.2

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 Part.1はこちら⇩

 前回の話はこちら⇩

 就職してしばらくすると、私の誕生日がやってきた。

 誕生日の従業員には、会社からプレゼントが贈られる。
 ”ハッピーバースデイ”と書かれた風船、ベーカリーで売っているスライス・ケーキ、そしてバースデイ・ランチとして10ドルのギフトカードだ。
 
 職場に到着すると、3個のバースデイ・バルーン(風船)が私を迎えてくれた。
 ストアディレクターからは、ギフトカードのプレゼントだ。
 けれども、これだけでは終わらない。
 
 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!」

 各デパートメントからバースデイメッセージが贈られる。  
 しかも館内放送で。
 まずは、オフィスで働くスーメイからのメッセージだ。

 「ハッピーバースデイ、ユミコ!スーメイ!」

 ここからがすごい。

 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!シーフード!」

 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!ミート・デパートメント!」

 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!グロッスリー!」

 レジには、館内放送ができる電話が各1台設置されているので、キャッシャー全員からメッセージが届く。
 
 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!アナ!」

 「ハッピー・バースデイ・ユミコ!ジム!」

 といった感じだ。
 せいぜい1分足らずとはいえ、放送が終了した時には、店にいる全ての人が、”本日のバースデイ・ガール”を知っている。
 客まで知っている。
 この放送の効果は素晴らしい。

「お誕生日おめでと~!」
 
 誰かに会うたびに、終日、お祝いしてもらえる。
 大きなストアの中で、自分の名前が呼ばれ続けるのは、照れくさかったけれど、自分が誕生したスペシャルな日を、祝って頂けることの素晴らしさに気が付いた。
  
 というのも、我が家ではお誕生日のお祝いはないからだ。
 シカゴにいる頃、一度だけ彼に、

 「私の誕生日すら知らんやろ!」

 と喧嘩を売ったことがある。
 誕生日を祝ってもらいたかったわけではない。
 けれども、私が借りたアパートの部屋は彼の私物で侵略され、顏を合わしても、いつも不機嫌でじろりと睨まれるだけだ。
 食事にすら出かけたこともない。
 文句のひとつも言いたくなる。

 私が喧嘩を売ると、

 「ほんならお前は俺の誕生日知っとんか!」

 もちろんこの反撃は予想していた。
 この日のために、彼のパスポートで誕生日を調べておいた。

 準備万端だ!

 しかし、準備から実行までに時間が経ち過ぎていた。
 といっても1週間くらいだけど。
 ・・・自信がない・・・。
 思い切って言ってみた。

 「・・・8月7日!」

 「惜しい!」

 彼の誕生日は8月8日だった。
 とっても覚えやすい。
 すごすごと引き下がった。 

喧嘩売ったくせに負ける人

 もともとお祝いをして欲しかったわけではないので、彼が私の誕生日を覚えないことに文句はない。
 けれども、このことで、私は彼の誕生日を忘れられなくなってしまった。
 お誕生日を知っているのに無視はできない。
 何かしら考えて、プレゼントをする。

 「なんで、買ってきたん?」

 「誕生日やから」

 「ふーん・・・」

 喜んでもらいたくてプレゼントをするけれど、まぁ、期待した反応は得られない。
 何かをしてもらうことに慣れていない彼は、他人からプレゼントをされると、疑心暗鬼になるようだ。
 そんな彼が、他人の誕生日を祝うはずもない。
 
 さて、私の誕生日イベントは、会社で終了し、風船をぶら下げて、私はご機嫌で帰宅した。
 この日はピカピカのお天気だったので、二人で湖沿いの遊歩道に散歩へ行った。
 すると、彼が珍しく肩を抱き、

 「お誕生日おめでと~!」

 と言った。
 風船を見たので、さすがの彼も誕生日と気付いたようだ。
 なるほど、散歩はいつものことだけれど、この日は近所じゃなくて湖だ!
 しかも、肩抱き付きだ!
 彼にとったらこんなプレゼントが一番嬉しいのかもしれない。

 二人で仲良く手をつないでお散歩した🎵


最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!