振り上げた『拳』のかたち ーリライト版ー
『労働組合』とは、つくづく不思議な組織だった。
なり手もなく、前職が労組書記だったというだけで、イヤイヤながらやらされることとなった労組書記長。
「せっかくやるのだから」と、僕に言わせれば『旧態依然』とした意味不明な多くのならわしをやめる提案をしてみた。
しかし、「若造が何を言ってやがる」とばかりの古株役員たちのこぞっての理不尽な反対によって、私の提案はことごとく却下された。
労働組合とは、使用者と『労』『使』交渉を行い、労働条件や職場環境を改善し、より「風通しのよい働きがいのある職場」にしていく組織なはず。
なのに、私は恐らくは「若く経験がない」という理由だけで、『労』『使』交渉の前段階の『労』『労』交渉にも力を注がなくてはならないという馬鹿馬鹿しい状況に置かれていた。
さらにたちが悪いのは、この『古株』たちだ。
肝心の『労』『使』交渉では、『労』『労』交渉でのあの猛々しさはどこへいったやらで、使用者側に媚びへつらい、交渉は若手に任せきりで、まるで借りてきた猫のように大人しくしているのだ。
何が「風通しのよい働きがいのある職場をめざす」だ。
その後、
「さすがに何かしらかの足跡を残さないと、この任を引き受けた意味がない」
との思いから、交渉には直接関係しない事柄なら古株役員も検討くらいはしてくれるかと、「あの交渉後の『団結ガンバロウ!』だけは、時代遅れでめちゃくちゃダサいのでやめませんか」と提案してみた。
しかし、それについても「にべもなく」却下された。
まったく、「名ばかりの書記長」とはこのことを言うのだと思った。
癪にさわるのでいっそ辞めてやろうかとも思ったが、それでは古株に負けたような気がして悔しいので、踏みとどまった。
そして、「ささやかな抗議」を繰り返して腹の虫を治めつつ、私は書記長を続けたのだった。
古株役員たち。そしてみんなは気付いていただろうか?
交渉後の「団結ガンバロウ!」の際、私の振り上げた拳のかたちが「グー」ではなく、いつだって「ウィー」のかたちをしていたことを。
注)これは、もしかしたら実話かもしれません。
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