2022 年　🇺🇸 アメリカ中間選挙総括！

2022年11月8日（現地時間）、アメリカでは下院議席の定数435席全て・上院議席定数100のうち35席が改選される中間選挙が行われました。

バイデン政権の支持率低迷および深刻なインフレの影響で、当初は共和党の下院大勝と上院奪還が予想されていました。しかし、共和党は下院を共和222 - 民主213（過半数218）とかろうじて奪還するにとどまり、上院では民主党に敗北する大苦戦を強いられました。

アメリカの中間選挙といえば、歴史的に大統領の所属政党に大きな向かい風が吹くことで有名です。特に大統領1期目の中間選挙の反動は凄まじく、直近では2010年（オバマ在任時　下院：共和＋63議席）や2018年（トランプ在任時　下院：民主＋41議席）の中間選挙がこれにあたります。極端な経済状況悪化・政権支持率の低迷が相まって民主党は絶望的な状況に立たされていましたが、いざ蓋を開けてみると歴史的にも稀に見る大健闘を見せました。共和党はなぜ中間選挙特有の「波」に乗ることができなかったのか、以下の3点に分けて解説します。

目次
１ Swing voters（浮動票）の取り込みに共和党が大失敗
２ Dobbs 判決 = 最高裁による人工妊娠中絶権利剥奪
３ 都市郊外部での民主党伸長

1 Swing voters（浮動票）の取り込みに共和党が大失敗

アメリカは二大政党制の下で選挙が行われます。民主党と共和党それぞれの岩盤支持層の母数には大きな違いはなく、接戦においてはどちらの政党にも属さない independents (無党派層）や両政党の候補者に投票する swing voters と呼ばれる有権者の票を集めることが必要です。

この層は中間選挙において政権に対するチェック＆バランスを求めて大統領と逆の政党を支持する傾向がありますが、今回は複数の要因によってそのような投票行動をとらなかったと考えられます。

大きな理由の一つとして、共和党候補の思想過激化が挙げられます。今回、接戦州における重要な上院選・州知事選において2020年の大統領選の結果を否定する候補が共和党により何名も擁立されました。トランプ大統領の "Stop the Steal" 運動（2020年の大統領選がトランプから「奪われた」とする陰謀論）に賛同する彼らは、選挙中も2020年の「選挙不正」是正・期日前投票の大幅削減などの公約に焦点をあてて活動してきました。

しかし、選挙不正論を支持する有権者は共和党岩盤層に集中していて、swing voters の間ではむしろ忌避されています。AP通信の世論調査*1 によると「バイデン大統領は正当に選出された」と考える有権者は全体の66％にのぼりましたが、共和党員では33%と大きな乖離が生じています。

民主党・共和党それぞれの候補者は、政党の公認・推薦を受けるために党内の予備選挙（primary）を通過しなければいけません。多くの場合、この予備選挙は党員のみによる投票が認められる形になっており、党員間のコンセンサスに迎合しない候補者は苦戦します。今回共和党の予備選を突破した候補者の多くは、2年前の選挙結果を否定する過激派でした（州選挙レベルにおいてはほとんどがトランプ元大統領の推薦を獲得済）。接戦州・接戦区において無党派層の票を確保できないような過激派候補を推薦することは、共和党にとって大きな戦術的ミスとなりました。

２ Dobbs判決 = 最高裁による人工妊娠中絶権利剥奪

2022年6月24日、アメリカ連邦最高裁判所は妊娠中絶の権利を全国的に認めた1973年制定の Roe v. Wade 判決を覆しました（Dobbs decision）。この判決によって人工妊娠中絶権利の連邦法による保障が無効となり、その合法性が各州政府に委ねられることとなりました。ミシシッピ州やオクラホマ州など共和党によって州政府機能が掌握されている州ではすでに「トリガー法」（連邦法における中絶権利が撤廃されると自動的に州内での中絶医療行為が違法になる法案）が用意されており、多くの州で中絶が禁止・制限されるに至りました。

最高裁判所の判事は在任の大統領によって任命されることが決まっています。名目上は政治的な役職ではないものの、重大な判決の多くは政治的問題に絡むものであるため、任命時に判事の政治思想は非常に考慮されます。国政における政治対立の激化に比例して、近年最高裁はますます政治的恣意性を増してきました。現在、9人のうち6人は保守派（conservative）の判事であり、キリスト教保守層にとって政策的優先事項である中絶問題について今回の強硬的な判決が下されるに至りました、

中絶権利擁護派の市民の間には激震が走りました。民主党が両議会において過半数を保持していても、保守派の掌中にある最高裁に権利を脅かされるという現実が浮き彫りになりました。ABC News による選挙後の出口調査*2の「今回の選挙において最も重要だと感じた問題」に対する回答ではなんとインフレーション（31％）に次いで2位に中絶（27％）がランクインしました。歴史的なインフレにより物価が高騰し、多くのアメリカ人が経済的困窮に立たされた年において中絶問題が有権者の関心をこれだけ集めていることが、この判決の地すべり的な影響の大きさを物語っています。

通常の中間選挙では投票に行かなかったと考えられる中絶容認派の有権者層がこぞって民主党に票を投じるインセンティブとなり、民主党政権下でありながら共和党が無党派女性票を42％-54％という大差で失った*2という結果に明白に現れています。

３　都市郊外部での民主党の伸長

少しマニアックな話にはなりますが、今回の選挙を理解するためには不可欠な要素であるので触れておきます。

アメリカ政治において都市では民主党が強く、田舎では逆に共和党が強いという極端な傾向が存在します（例外あり）。この背景について説明すると長くなるので省略しますが、都市中心部に民主党の支持層が集中していて、田舎に共和党の支持層が集中していると捉えていただければ大丈夫です。

下院における激戦区のほとんどは都市と田舎の境目に位置し、両党の勢力が拮抗する都市郊外部に存在しています。車で都市部に通える、大きな住宅を購入できる余裕のある高収入・高学歴のホワイトカラー層がその住人のほとんどを占めます。

ここで、トランプ登場以来のアメリカ政治において起こっている "Educational Realignment" という現象について説明します。民主党が高学歴層（主に白人）において得票率を伸ばし、逆に共和党が低学歴層において得票率を伸ばしているというここ数年での傾向です。

共和党はマイノリティ層（白人より大学進学率が低い）が多い都市中心部や白人労働者層が多い農村部で票を伸ばしているものの、前者はあまりにも民主党が強い場所であり、後者は共和党が強い地域です。つまり、共和党は両党のいずれかが圧勝している地域で少しずつ得票率を上げているということになり、下院の地区選挙においてはほとんど有利になりません。

逆に、民主党は激戦区が集中している都市郊外部で高学歴・高収入の有権者の間で勢力を伸長し、接戦となる選挙区での立ち位置をより強固なものにしています。

今回激戦が予想されていた選挙区の結果を例に出すと：

ミシガン州　第3選挙区　Grand Rapids とその郊外
2020大統領選：Biden + 8.6%差で勝利
→ 2022下院選：Scholten（民主党） + 13%

カンザス州　第3選挙区　Kansas City とその郊外
2020大統領選 : Biden + 4.5%
→ 2022下院選：Davids（民主党） + 12%

バイデン氏は2年前の大統領選で、民主党候補としては前例がないほど全米の都市部郊外で健闘しました。民主党政権下の中間選挙では共和党へのある程度の揺り戻しが当然だと予想されますが、それどころか民主党候補が2年前よりも得票率を伸ばした地区が多くありました。以前はとても考えられなかったような結果であり、共和党が下院の接戦区で苦戦した大きな一因です。

都市郊外部での共和党候補の極端な不振は今回の選挙にとどまらず、今後のアメリカ政治に大きな影響を与える可能性が高いです。2024年の大統領選においてトランプ氏が正式に共和党候補となれば、ミシガン州・アリゾナ州・ジョージア州など郊外部の票が鍵となる接戦州における大苦戦が予想されます。

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以上、今回の中間選挙の総括でした。所々詳しい解説を省いている箇所があるので、途中で疑問をお持ちになった読者の方もいらっしゃると思います。僕に直接DM・質問していただければここで書いていないことについてもお伝えすることができます！次回のトピックはまだ考えついていないので、疑問をリクエストしていただける方がいらっしゃればそのお題について書こうと思っています！

山田　優

ヘッダー写真ご提供：zenpaku様

References :
*1 https://apnorc.org/wp-content/uploads/2021/02/Demoracy-Topline-Final.pdf

*2

Exit Polls for 2022 US House Election: Results & Analysis