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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ 衛星通信 編~Vol.14

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
・AIによる宇宙産業のイノベーション加速
・グローバルスターがAppleやQualcommと提携
・地球に停電を引き起こす太陽フレア爆発をNASA衛星が明かす

・NSILが行う国家プロジェクト、「衛星通信技術を用いた10万もの漁船のモニタリング」
について取り上げます。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。

1.天地人が注目したニュース4選!


ニュース1:AIにより宇宙産業のイノベーションの推進が加速

宇宙産業は常に技術革新の最前線にあり、人工知能(AI)は、この分野のイノベーションを推進する上でますます重要な役割を果たしている。AIは地球の通信、ナビゲーション、モニタリングの方法に革命を起こす可能性があり、人工衛星サービスの需要が高まる中、AIを用いることでより効率的で信頼性が高く、用途の広い衛星システムの構築を支援している。衛星通信ではAIがビームの動的な調整や周波数帯の最適化を行い、通信リソースの効率的な利用と高品質なサービスを実現する。自律衛星システムではAIがデータの分析や衝突回避に活用され、地球観測や宇宙望遠鏡のデータ分析にも応用される。ただし、AIの統合にはセキュリティや倫理的な課題もあるため、使用の仕方には注意が必要である。

出典:https://www.energyportal.eu/news/the-next-generation-of-satellite-technology-how-ai-is-driving-innovation-in-the-space-industry/25653/


ニュース2:グローバルスターがAppleやQualcommと提携

グローバルスター(Globalstar)は、衛星電話及びデータ通信を行う低軌道衛星コンステレーション及びその運営会社であり、AppleQualcommとの提携により、衛星通信による地上通信の補完において価値を生み出している。特に、移動体通信の通信技術および半導体の設計開発を行うQualcommとの取引により、グローバルスターの衛星通信に利用する周波数帯(Band 53)を活用したプライベート5Gネットワークを展開し、収益を上げる機会を作った。ただし、競合他社や市場の変動に注意しながら、将来の成長と投資の可能性を見極める必要がある。

出典:
https://seekingalpha.com/article/4611132-globalstar-partnering-with-apple-and-qualcomm-is-advantageous


ニュース3:地球に停電を引き起こす太陽フレア爆発をNASA衛星が明かす

2023年6月上旬、M2.5クラスの太陽フレアによって、メキシコおよびアメリカ南部で電波障害が発生した。これはアフリカでの停電に続き、この週二度目の太陽活動による被害である。地球に向かって太陽フレアが発生すると、到来した電磁波の影響で電波障害が引き起こされ、無線通信・GPS・ドローン・航空機・船舶などに影響を与えることがある。さらに、太陽から到来した高エネルギー粒子により、大規模な停電、通信システム・電力網等のインフラへの甚大な被害など、経済的な損失を引き起こす可能性がある。不測の事態に備え被害を最小限に抑えるために、予備電源や、通信システムのバックアップシステムを用意すること、太陽の活動を監視しその兆候を捉えることが重要である。

出典:
NASA satellite reveals Solar Flare Explosion causing Blackouts on Earth; Is a Solar Storm on the Horizon? - Bollyinside


ニュース4:NSILが行う国家プロジェクト、「衛星通信技術を用いた10万もの漁船のモニタリング」

インド宇宙研究機関であるインド宇宙研究機関(ISRO)の子会社であるNSIL(NewSpace Limited)は、9つの州と4つの連邦直轄領にまたがる約10万隻の電動および機械式海洋(漁)船にモバイル衛星サービス(MSS)端末を設置し、運用する取り組みを今後進める。
これにより、漁船が海上に出ているときにも、衛星通信を用いて通信や情報提供が可能になる。MSS端末は、インドの上空(静止軌道上)に打ち上げられたNaVICシステム内の通信衛星と通信を行うと見られている。これらの取り組みは、漁業者に対して安全とセキュリティを提供することに加えて、国家安全保障の観点から海上脅威の懸念を軽減することが期待されている。

出典:
https://timesofindia.indiatimes.com/home/science/sat-tech-to-monitor-do-surveillance-of-99-9k-fishing-boats-nsil-to-roll-out-national-project/articleshow/101001408.cms?from=mdr


2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した3つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。
ニュース1は「COOの百束
ニュース2は「Tenchijin Tech Blogのメイン執筆者である寺田
ニュース3は「宇宙物理を専門とする学生インターンである井上
ニュース4は「通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村
の見解を記します。


ニュース1:AIにより宇宙産業のイノベーションの推進が加速

AIと宇宙の組み合わせは夢のような技術とも思われがちですが、特にリアルな観点を踏まえながら解説したいと思います。キーワードは、従来の人工衛星がもつ制約を乗り越えるための『AI』という観点です。
まず、衛星通信分野では、近年、通信容量の大容量化と衛星通信サービス提供エリアを柔軟に変更する技術の重要性が注目されています。
今回の記事(原文)で言及されている『フェーズドアレイアンテナ』とは、連続して並べられた複数の送信機(アレイアンテナ)の位相(フェーズ)を制御することで、通信ビームの方向を狙ったエリアに向ける技術のことです。機械的にアンテナを動かすことなく、通信サービスを提供する地域を自在に切り替えることができます。
ビーム方向を切り替えるだけであれば従来から存在した技術ですが、AIを使えば需要の多い地域を衛星が自動で判断する、衛星自身の姿勢誤差をキャンセルするように自律的にビーム方向を最適化する、といったさらなる発展が見込めます。ここで用いられるAIは、電波という限られた資源(地上の混線を避けるため電波は国際的に厳密に管理されています)を最大限活用し尽くすためのAIだと言えます。
また、天地人では通信衛星のための気象予報・渋滞予報をAIで行う研究開発を実施しています。こちらの記事もご覧ください。
(https://note.com/tenchijincompass/n/nb74d8eb6bd15?magazine_key=mccb8816d2094&from=membership-magazine)

もう一つ、地球観測衛星分野では、いかにして効率よく観測画像を地上に送るかという課題があります。言い換えると、宇宙〜地上間の通信コストに関する制約です。
地球観測衛星は日々大量の画像を撮影していますが、年々多くなる衛星機数と、個々の衛星の解像度の向上によって、地上へダウンロードするデータの総量は格段に増えています。
衛星画像の中には観測したもののあまり利用価値のないものも実はかなりの数で含まれています。例えば、雲によって地表が見えない衛星写真や、撮影したもののユーザーにとって価値のある情報が取れなかった場合(例えば「変化をみたい」という要望の場合、変化のない状態での複数枚の衛星画像には価値がないと言う場合もあります)などです。
これらは一例ですが、もし衛星側でそのような無価値なデータを自動で判定して、価値ある情報だけ選択的に地上へダウンロードできるようになれば、通信コストを大きく削減できます。このような衛星搭載AIはすでに実現されつつあります。
今回は、いずれも電波と通信に関連した解説になりました。従来の人工衛星が持っていた制約を乗り越えるために、AIの応用例に今後も注目したいと思います。
(解説:COO 百束)



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