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【特集】衛星データ×温室効果ガス:水田らのメタン排出量を推定し、効率的な温暖化対策へ

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

近年、人間の活動によって、大量の温室効果ガスが大気中に放出され、地球の気温が上昇し続けることで、気候や生物など自然界のバランスが崩されています。ニュースでも取り上げられることが多く、みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この記事では、深刻化し続ける地球温暖化について詳しく解説をします。そこで、天地人や他の企業は一体どのように対策を行っているのかについて詳しく紹介していきます。

1.地球温暖化とは

近年、人間の活動によって、大量の温室効果ガスが大気中に放出され、地球の気温が上昇し続け、気候や生物など自然界のバランスが崩されている現象を「地球温暖化」と呼びます。

出典:気象庁

地球の表面はもともと窒素や酸素、二酸化炭素(CO2)などの大気が取り巻いており、気温を一定に保つ役割を果たしています。
しかし、私たち人間の生活によって石炭や石油などの化石燃料を大量に燃やしたことにより、二酸化炭素(CO2)などの「温室効果ガス」の排出量が大幅に増えた結果、余分な熱が宇宙に放出されず地球にこもった状態になったことが、地球温暖化の原因とされています。
地球温暖化は、平均的な気温の上昇のみならず、異常高温(熱波)や大雨・干ばつの増加などのさまざまな気候の変化をともないます。その影響は、早い春の訪れなどによる生物活動の変化や、水資源や農作物への影響など、自然生態系や人間社会にすでに現れています。
このままのスピードで温室効果ガスが増え続け、気温が上昇すれば、地球環境が悪化し、私たちの生活や健康に大きな被害がもたらされることになります。


2. 地球温暖化の原因となる温室効果ガス

地球の大気には二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体がわずかに含まれています。主な温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスがあります。


出典:気象庁

これらの気体は赤外線を吸収し、再び放出する性質があります。この性質のため、太陽の光で地球の表面が暖められ、地表面から外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を暖めます。これを温室効果と呼びます。

温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられていますが、温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ15℃となっています。
大気中の温室効果ガスが増えると温室効果が強まり、地球の表面の気温が高くなります。


出典:日本ガス協会

3.温室効果ガスの一種、メタンについて

メタンは二酸化炭素に次いで排出量の多い温室効果ガスです。そのため、地球温暖化に及ぼす影響は二酸化炭素の次に大きくなります。メタンは、湿地や池、水田で枯れた植物が分解する際に発生します。家畜のげっぷにもメタンが含まれています。このほか、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を採掘する時にもメタンが発生します。石炭炭鉱においては炭層中にメタンが含まれており、採掘に伴ってメタンが大気中に排出され、同様に、原油や天然ガスの生産井やパイプライン等からも、地中に埋蔵されていたメタンが漏洩するからです。


出典:NEDO「米国政府によるメタン市場化パートナーシップ」(2009)p9

地球全体のメタン濃度の経年変化を見てみると、メタン濃度はこの30年間で上昇し続けていることが分かります。2000年代前半は一時的に上昇が緩やかになっていますが、2010年代以降は濃度上昇が加速しています。
2017年には、大気中のメタン濃度は産業革命前(1750年頃)より150%以上も高くなりました。


出典:気象庁

メタンは、対流圏の光化学反応で分解するまでの寿命が約12年と言われています。温室効果ガスのうち、メタンは大気の中で維持される寿命が比較的短いことから、メタンの排出削減を行うと、直近の温暖化対策となることが知られています。つまり、二酸化炭素だけでなく、メタン排出量を削減することも温暖化対策として重要となります。


4.メタン排出低減対策紹介

温暖化対策としてメタン排出量の削減が重要視されています。2021年に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の「グローバル・メタン・プレッジ」では、メタンの排出量を2030年までに30%削減する目標が宣言されました。また、2022年11月に開催されたCOP27では、米バイデン政権が最新の「米国メタン排出削減行動計画」を公表しました。
ここでは、メタンの排出量を減らすために実際どのようなことを行っているのかということについて解説します。

先ほど紹介したように、メタン排出源の3割をしめる「腸内発酵」つまり、家畜のゲップを減らす対策として、「家畜がメタンを排出しにくい飼料に変える」が挙げられます。

  • 家畜がメタンを排出しにくい飼料に変える

カゲキノリという赤い海藻を牛の飼料に混ぜることで、牛のゲップによるメタンガスの放出を85%も削減できる効果があると報告されています。

カゲキノリは全体の飼料の0.2%の量だけ振り掛ければよいとされています。さらにこの海藻を用いることで飼料の総量が少なくなることも分かっています。ゲップはエネルギーが消費される原因なので、ゲップを抑えることで飼料効率が良くなるのです。
現在、カゲキノリの養殖が進んでおり、商業化も見込まれています。

世界では、カゲキノリ以外にも牛のゲップ削減に貢献する飼料の研究・開発が進んでいます。

次に、メタン排出源として多い「エネルギー分野」の対策として、「化石燃料依存からの脱却」が挙げられます。


  • 化石燃料依存から脱却する|再生可能エネルギーを利用する

化石燃料開発によるメタンの発生量は、家畜のゲップの次に多くなっています。石炭、石油、天然ガスのいずれも採掘から輸送、貯蔵、精製工程までのすべての過程からメタンが漏出しています。
メタンの削減、つまり温室効果ガス排出量を削減するためには、化石燃料依存からの脱却がいち早く必要となるでしょう。
再生可能エネルギーはCO2だけでなく、メタンも排出しません。火力発電に頼るのではなく、太陽光発電、水力発電、風力発電などの再生可能エネルギーに変えていく必要があります。

最後に、メタン排出源の約2割をしめる「農業分野」の対策の中でも、特にメタンの排出が多い稲作の分野の排出削減対策として、「中干し」が挙げられます。


  • 日本の水田では行われている「中干し」を世界に広める

水田から水を抜く管理方法を「落水」と言います。日本ではこれを「中干し」と言います。
中干しを行うことで、メタンの発生源となる微生物を不活性化できます。メタンを発生する微生物は酸素のない状態を好むためです。水を抜いてしまうと空気中の酸素が土壌に届くようになります。

中干しは、田植えから1か月後に行われ、昔から増収効果があると考えられていました。しかし、世界の水田では中干しが行われず、常時水が張っている状態が多く見られます。世界の水田で中干しを行えばメタン発生量の16%が削減できると試算されています。
さらにはこの中干し期間を慣行(通常1~2週間)より1週間伸ばすことで、18~72%のメタン発生量を削減できることが、日本全国の水田での実証試験によって明らかにされています。

5.メタン排出低減に関する宇宙業界の取り組み

前章で紹介したように、グローバルな風潮として、メタンの排出削減対策の開発が進んでいます。このトレンドは宇宙業界の中でも同様です。


<天地人>

CO2に加えてメタンの排出削減もグローバルな目標となったことから、株式会社天地人は水田からのメタン排出量を推定する手法の必要性を感じ、独自の方法論の開発に成功しました。

本方法論は、天地人の強みである衛星データ、AI分析、および水田農業の専門性を組み合わせています。光学衛星画像やSAR画像、衛星から取得した気候データ等を活用し、メタン排出に大きく関わる「水管理の履歴」を把握することに優れています。

続いて、天地人以外の宇宙企業や団体の取り組みを紹介します。JAXAやNASAなどの航空宇宙技術開発企業、海外のスタートアップ企業ではどのような開発が行われているのでしょうか。



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