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【特集】世界の水道インフラを知る:水メジャーによる漏水検知技術を解説



天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

天地人は、豊田市上下水道局、フジ地中情報株式会社と連携し、衛星画像を活用した漏水可能性区域の判定を目指す実証実験を、2022年2月より開始致しました。実証実験では、豊田市全域を対象に、衛星画像から水道管の水漏れの可能性がある区域をより高精度に判定するための取組を行っています。

10月の記事では、日本の水道インフラの中で特に上水道を取り上げて、インフラの仕組み、インフラ管理を取り巻く課題を整理しました。さらに、水道管理で重要な漏水について市町村で行われている発見方法を紹介したのちに、世界の漏水検知ツールや、天地人やその他企業による漏水可能性リスク判定サービスを紹介しました。

この記事では、日本から外に目を向けて、世界の水道インフラを特集します。

1.SDGsにおける水道インフラの位置づけ


昨今話題の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」においても、水道インフラに関する目標が掲げられています。

6:安全な水とトイレを世界中に

特に、上水道に関わる個別な目標を抜粋すると、以下の2つが挙げられています。

  • 6-1:2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする。

  • 6-4:2030年までに、今よりもはるかに効率よく水を使えるようにし、淡水を持続可能な形で利用し、水不足で苦しむ人の数を大きく減らす。


出典:日本ユニセフ

なぜ、このような目標が挙げられているかというと、水道の設備がない暮らしをしている人が世界に、まだ20億人もいるからです。
2015年時点の水道普及率の地図を見ると、アフリカやアジアの複数の国で、水道普及率が50%を下回っています。

このような課題に直面すると、世界の水道インフラが直面する課題は、日本の水道インフラが直面する課題と大きく異なると気づかされます。


出典:JICA

2.世界の水道インフラが直面する課題


2016年にOECDが発表したWater Governance in Citiesというレポートによれば、世界の都市では以下に挙げるような課題に直面しています。

  • 水道管を含む水道インフラの老朽化

  • 公共機関の予算不足により、適切な水道インフラマネジメントができない

  • 洪水・干ばつ等の自然災害リスクへの対応が不十分

  • 水質汚染

  • 水道インフラへのアクセスができない人がいる

  • 手頃な値段で水道が利用できない

中でも、「水道管を含む水道インフラの老朽化」は、OECDのレポートで調査対象となった世界の都市の92%が課題として挙げており、世界共通の課題となっています。

世界の都市の漏水率(2012年)のグラフを見てみると、ニューヨーク、パリ、シンガポール等の大都市で10%未満となっている一方で、香港やストックホルムで15%を超えるほか、スコットランドのグラスゴーやイタリアのナポリでは、漏水率が30%を上回っています。
日本の平均漏水率が5%程度であることを考えると、水道インフラの老朽化の深刻度合いが伺えます。

世界では、水道管の老朽化への対応が急務となる一方で、そもそも水道管が整備されていない課題にも直面する等、課題が多様となっていることが伺えます。


世界の都市の漏水率 出典:OECD「Water Governance in Cities

なお、2014年の推計によれば、世界で1,009万km分の水道管の需要があり、特に中国、インド、インドネシアでの需要が高いといわれています。
これらの国で需要が高いといわれているのは、プラスチック素材でできているPVC管です。

水道管の老朽化やそもそもの水道の未整備に対し、水道管を交換・新設することで対応している様子が、水道管の市場推計結果からもわかります。

3.世界の水道インフラの規模


日本における水道管(上水道・下水道を含む)の総延長は約67万kmといわれていますが、世界における水道管の総延長はどの程度なのでしょうか。

米国では190万km英国では70万km、中国では例えば北京で1万kmの長さといわれています。
全世界の水道管総延長を把握した統計はありませんが、日本だけでなく世界において、とてつもない長さの水道管をマネジメントしていく必要があることがわかります。漏水を効率的に検知できる技術は、世界中にニーズがあると言えそうです。

4.世界の水道インフラ管理の仕組み


日本
では主に市町村等の自治体が、水道インフラの管理を行っています。世界ではどうでしょうか。世界では、国・地方自治体や、官が設立した公社に加え、民間企業が水道インフラの管理を行う例も見られます。特に米国では、2万以上の水道事業について民間企業が主体となって維持されています。


各国における水道事業の事業体種別 出典:JWWA

実は、ここに商機を見出して、水道インフラの整備・管理をパッケージ化して売り出す水ビジネスが世界で展開されています。特に、上水道インフラの管理・運営サービスは、水ビジネスにおける成長市場とみられています。経済産業省の試算によれば2030年には世界で20兆円の規模になると予測されているのです。


出典:経済産業省

水ビジネスで存在感を発揮しているのが、水メジャーと呼ばれる巨大民間企業です。
特にフランスのVeoliaとSuezが2大巨頭として知られており、水ビジネスによる売上高は他の追随を許しません。
また、2021年4月にはVeoliaによるSuezの買収に両社が合意したため、世界最大の水メジャーとして、Veolia一強時代を迎えています。


出典:経済産業省

5.水メジャーによる漏水検知の手法


それでは、水メジャーであるVeoliaやSuezではどのように漏水を検知しているのでしょうか。

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