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【特集】競争が激化する人工衛星向け地上局ビジネス:地上局を設置するのに適している場所とは。

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

また、天地人は、総務省の研究開発予算を用いて、衛星通信の回線条件や通信需要の変化をデータ解析に基づき予測を行っています。これまで培ってきた気象解析技術やAI技術(機械学習技術)を活用して、気象状況予測サブシステムならびに移動体需要予測サブシステムの研究開発を担当しています。

本日は、各国のスタートアップのほか、AmazonやMicrosoft が進出し、競争が激化している人工衛星向け地上局ビジネスを紹介します。今後、世界で拡大していく衛星通信市場を語る上で欠かせない分野です。

地上局ビジネスとは何か?

人工衛星は地球の周りを周回します。人工衛星の運用に欠かせないのが、地上局です。
地上局を取り巻くビジネスを分類すると大まかに以下の3つに分けられます。

  • 人工衛星の管制

    • 人工衛星の状態を監視したり、人工衛星を制御するための指令を行う

  • 人工衛星からのデータ受信・蓄積

    • 人工衛星から取得した画像・センサのデータを受信し、蓄積、地上で衛星データを利用する相手先に送信する

  • 衛星通信の利用

    • テレビの衛星放送、衛星電話、衛星を活用したブロードバンドインターネット等、人工衛星を利用した通信サービスを提供する

2022年7月1日配信の天地人note「【特集】世界の低軌道小型衛星コンステレーション計画:次世代のスタンダードは光通信衛星」で、解説したとおり、今後、低軌道小型衛星コンステレーション計画が実現されていくと、無数の小型衛星が地球を周回するようになります。
これにより、より多くの地上局を整備し、衛星の運用をサポートしていく必要があります。

従来は、地上局の整備・運用は、各国の宇宙機関(NASA等)や軍、人工衛星を運用する衛星オペレータや大規模な通信事業者が行うことが主流でした。
しかし、近年の衛星コンステレーションの増加をうけ、地上局の整備・運用を衛星オペレータ向けに提供する「地上局ビジネス(Ground segment as a Service: GSaaS)」を展開する民間企業が出てきています。

地上局ビジネスのメインプレイヤー

人工衛星を保有せず、地上局ビジネスに参入しているGSaaSとして挙げられる民間企業には、1990年代からビジネスを展開している老舗から、2010年代から参入したスタートアップ・巨大IT企業まで様々挙げられます。

  • Swedish Space Corporation (スウェーデン)

    • 1972年創業

    • スウェーデンの国営企業、GSaaSのほか、衛星の打ち上げ・運用等、衛星に関する地上インフラ・サービスを提供

  • Kongsberg Satellite Services (ノルウェー)

    • 2001年創業(前身となる地上局設備は1967年から運用)

    • ノルウェーの宇宙機関とテクノロジー企業が保有する半官半民企業、GSaaS・衛星運用に関する地上インフラ・サービスを提供

  • ATLAS Space Operations (米国)

    • 2015年創業

    • 衛星通信分野、米軍での経験を活かして創業されたGSaaSスタートアップ

  • RBC Signals (米国)

    • 2015年創業

    • 航空機の通信分野での経験を活かして創業されたGSaaSスタートアップ

  • infostellar (日本)

    • 2016年創業

    • 地上局シェアリングサービスを提供するGSaaSスタートアップ

  • AWS ground station (米国)

    • 2018年参入

    • GSaaSのほかに、AWSによるデータストレージ、データを活用した機械学習等が行えるコンピューティングサービスまで提供

小型衛星コンステレーション計画が発表され、地上局サービスのニーズが高まるとともに、2010年代から複数のスタートアップが参入し始めました。
さらに、2010年代後半以降にAmazon、Microsoft のような巨大IT企業が参入し、地上局ビジネス業界では競争が激化しています。

地上局はどこに設置すると有利か?

土地評価サービスを展開する天地人的な観点では、地上局をどこに設置すれば、地上局ビジネスに有利になるのか、興味があります。

地上局の設置場所として考慮しなければならない点がいくつかあります。天地人・JAXA兼業の衛星通信エンジニアの稲岡によれば、

  • 衛星の軌道

  • アンテナの見通し

  • 周波数共用検討

  • バックホール回線との接続性

  • 高周波数帯・光通信の場合は気象条件

等が、挙げられます。

電波の基本

地上局ビジネスでは、人工衛星のアンテナと地上局のアンテナ間で、電波による無線通信を行います。ここでは、一度基本に立ち返り、電波とは何か、おさらいしてみましょう。

電波は、高校生のときに物理で習った電磁波(電界と磁界の振動により空間を伝搬する波)の一種です。日本の電波法において、電波は電磁波のうち周波数が3THz以下のものを指します。

出典:総務省「周波数帯ごとの主な用途と電波の特徴

電波を通して無線で通信することを、無線通信と呼びます。送信アンテナと受信アンテナ間は電波が空間を伝搬して伝わります。有線等のケーブルを伝搬して伝えるわけではないので、無線と呼ばれます。

衛星通信では、人工衛星のアンテナと地上局のアンテナ間で無線通信を行います。衛星通信で利用されているのは、300MHz以上の高周波数帯です。電波は周波数の高低で、電波の減衰・反射・透過・回折・干渉の特徴が異なるため、電波のふるまいが異なります。高周波数帯の特徴は下記のとおりです。

  • 直進性が高い

  • 距離による減衰が大きい

  • 波長が短いのでアンテナが小型でよい

  • 情報伝送量が多い

さらに10GHzでは下記の特徴があります。

  • 大気中の降水粒子による吸収・散乱で、電波が減衰が大きい

2022年7月1日配信の天地人note「【特集】世界の低軌道小型衛星コンステレーション計画:次世代のスタンダードは光通信衛星」では、今後増加する可能性のある衛星コンステレーション計画に、光通信衛星を挙げました。

電波と同じくも電磁波の一種です。
それでは、光の特徴はどのようなものでしょうか。

  • 電波よりもさらに周波数が高い

  • 指向性が高い(干渉・盗聴が少ない)

  • 大気中の温度のゆらぎに通信が影響を受ける

  • 大気中の降水粒子(雲・雨)による吸収・散乱で、電波が減衰が大きい

  • つまり、雲が発生すると光通信が利用できない

ここまでをまとめると、10GHz以上の高周波数帯の電波、並びに光は、雨や雲等の気象状況の影響を受けやすいことがわかります。

地上局設置おすすめエリア

ここでは、地上局の設置場所として考慮しなければならない点をそれぞれ見ていきながら、地上局を設置するのにおすすめのエリアを考察していきたいと思います。

大前提として、地上局にはアンテナや通信設備を整備する必要があるため、通常は地上に設置します(船舶が移動式の地上局となる場合もあります)。

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