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【論文解説】宇宙からトラッキングすることで情報量が圧倒的に増加!船舶自動識別装置(AIS)の活用について


天地人(てんちじん)は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

今週は、天地人が注目した船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)に関する論文を解説します。

船舶自動識別装置(AIS)の信号は、2008年頃より人工衛星からもトラッキングできるようになりました。現在、AIS情報は宇宙業界で注目されているデータの一つです。

今回取り上げるのは、”Anomaly Detection in Maritime AIS Tracks: A Review of Recent Approaches” (船舶自動識別装置を用いた異常検知に関する最近のアプローチの紹介) という論文です。

宇宙から取得したAIS情報はどのように活用されるのでしょうか? 早速見ていきましょう。

※なお、本記事は執筆者が論文を読んで解釈・要約し、一部内容を抜粋したものです。詳細に関しては元論文をご参照ください。

AISとは何か?

出典:海上保安庁

AISは日本語で船舶自動識別装置と呼ばれ、船舶の安全に関する情報を自動で送受信する装置のことです。
送受信される情報は、

  • 船舶の識別符号

  • 船舶の種類

  • 船舶の位置、針路、速力、航行状態

等です。

AISは1990年代に国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)により開発されました。

2002年に発効された国際条約「1974年の海上における人命の安全に関する条約(SOLAS74)」(※)では、次に挙げる特定の船舶に対し、AISを搭載することが義務づけられています。

  • 国際航海に従事する300総トン以上の全ての船舶

  • 国際航海に従事する全ての旅客船

  • 国際航海に従事しない500総トン以上の全ての船舶

※豆知識
SOLAS条約は、多くの犠牲者を出したタイタニック号の海難事故を契機に1914年に締結された国際条約です。

AIS情報の送受信はVHF帯電波で行われ、自船の近隣にいる他船に自船の情報を伝えることができます。これにより、他船との衝突事故を回避し、船の安全航行に役立てています。

また、日本では、全国に7か所ある海上交通センターや、6か所の海上保安本部にAIS送受信所が整備され、陸上からもAISの情報を受信できるようになっています。これにより、日本沿岸を航行する船の情報を一元管理し、海上交通の安全を向上させています。

衛星からAIS情報を受信する

ベトナム・フィリピン近海のAIS情報(出典:Spire)

AIS情報を送受信しているVHF帯電波は、直進性があり、電波の回り込みが少ないという特徴があります。そのため近隣の船や陸上との情報のやり取りができる距離は、水平方向に50km程度に留まります。

というのも、地球が丸みを帯びているため、電波が直進することで、陸上の送受信所にAIS情報が届かないのです。そのため、陸上の送受信所では、日本の近海を航行している船舶のAIS情報しか受信できません。

一方で、垂直方向、つまり船の上空である宇宙空間に向けては、電波が直進するため、数百kmに渡り、AIS情報が送受信可能です。
この電波の特徴に注目した、カナダの航空宇宙関連メーカであるCOM DEV International により、2008年にAISの受信機を搭載した人工衛星が打ち上げられました。
これにより、宇宙でAIS情報の受信が可能となったのです。

これまで、陸地から50kmを航行している船舶のAIS情報しか取得できなかったのが、人工衛星により、地球上のすべてのAISを搭載している船舶のAIS情報が受信可能となりました。

AIS情報を受信するための人工衛星コンステレーションを構築している民間企業
(出典:NewSpace Index)

AIS情報を受信するための人工衛星コンステレーションを構築している民間企業は複数あります。既にコンステレーションを構築済みで、衛星AIS情報のデータ量の多い主要企業3社と、AIS受信機を搭載した衛星の数を以下に挙げます。

なお、2021年にSpireがExactEarthを買収したため、Spireが衛星AIS情報の業界シェアの1位となっています。

AIS情報を活用した異常検知技術とは?

AIS情報の異常値の分類
(出典:”Anomaly Detection in Maritime AIS Tracks: A Review of Recent Approaches”)

本日紹介する論文”Anomaly Detection in Maritime AIS Tracks: A Review of Recent Approaches” (船舶自動識別装置を用いた異常検知に関する最近のアプローチの紹介) では、AIS情報の異常値が、どのような船舶の行動を検知するかを明らかにしています。
人工衛星でAIS情報を受信できるようになったことで、これまで異常検知が難しかった分野(犯罪行為や漁獲量のモニタリング)へ適用が拡大されたことも述べられています。
早速解説していきましょう!

下記にAIS情報の異常値の種類と、どのような船舶の行動が類推されるかを整理しました。

  • 航行ルートの逸脱

    • 船の故障、天候等の影響により、通常の航行ルートを通れない

  • 予期しない船の動き

    • 悪意のある船の行動を監視されないよう、AISの電源を意図的に停止

    • ただし、AIS装置の故障、AIS送信電波の減衰等の可能性もある

  • 港への到着時刻の異常

    • 違法漁業を行い、別の港で魚の荷下ろしをした

  • 船同士の近接

    • 船の故障、天候等の影響により、船同士が衝突しそうになる緊急事態

    • 密輸品や薬物等の違法な取引

  • 制限エリアへの侵入

    • 領海や排他的経済水域への侵入

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