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「推しとの百合はありえない!」はありえないからこそ面白い

皆さんラブコメ好きですか?
率直ぶっちゃけ嫌いな人の方が少ない万人に好まれるジャンルだと思うんですよラブコメって。
恋愛もコメディも受けやすいジャンルなのでこれの超次元合体なんてカツカレーみてーなもんでしょ。

でも私は具体的に好きなラブコメ作品が何かと問われたら答えられねぇ。

でもエンカウント出逢っちまったんですよ好きなラブコメというものに……。
ん?百合とか薔薇とかそんなの些細なことでしょ?(そう考えると一番最初に出逢った好きなラブコメはトムジェリかもしんねぇな)


【混ぜるな危険】

とりあえずどちらでも1話を読めるので。

web掲載側も張っておきます。

※※※

ツイートをご覧になっていただければわかりますが、本作は

  • 完璧主義で(人格以外)完璧超人の美少女委員長

  • ド変態マゾ気質の隠れオタギャルとかいう治療不可能どうしようもない生物

という正反対でどっちもやべぇ女子が

1話より

一緒に学級委員をやらざるを得なくなることから始まります。

【勘違い完璧委員長】

そんなこんなで「完璧」ならばこの理解不可能な生物校則違反常習ギャルを服従屈服させるというおよそ社会権力持たせちゃ絶対ぜってーダメな理由で委員長の柄本杏は、学級委員をやることを承諾し、委員としてファーストコンタクトを取った瞬間この有り様。

1話より

始終、いや話せば話すほどより重症な挙動不審の言動行動を取る理解不可能生物を前に遂には

1話最終ページ
……うんこれは中毒ラリっているようにしか見えんわ

こんな勘違いをする結果に。
……まぁ更生はさせた方がいい気はする。

【ド変態マゾ隠れオタギャル】

しかしてこの挙動不審を通り越した有り様の理由は

いや外観は確かにそうなんだが
反応がいちいち気持ち悪い(褒め言葉)

単にあまりにも好きが好きすぎて脳みそ沸騰パンクして合法ドラッグ(違います)の服用キメすぎで死にかけていただけだったり。

いやだけじゃねーわやっぱ馨ちゃん変態だわ。

※※※

ともあれ

  • 委員長(柄本杏)=この理解不可能生物を屈服させるのは私!

  • ギャル(剣崎馨)=推しへの好きが過ぎて距離感わかんねぇ!!!

でひたすらすれ違いと勘違いのドタバタコメディを繰り広げるお話でございます。

【ラブコメの王道はすれ違いと勘違いのドタバタ】

私はラブコメの基本骨子ってこの二つだと思っているんですよ。

想い人が別の人と仲良く話している現場を見てしまってショックを受けた結果、奇行に走る。
一方でその想い人と親し気にしていたのは実はただの親類で、本当は両想いなのに奇行に暴走している想い人を心配してさらにこっちも奇行に走る。

テンプレとしてはこんな感じで、互いが互いを想い合っているからこそ話が拗れて周囲を振り回すコメディ劇場を繰り広げる。

※※※

そして本作「推し百合」は明らかに絵面も台詞回しも全部変態やべー危険やべーしかないのにこの王道をガンガン突き進んでいる。

【委員長(柄本杏)側の認識】

私は完璧!

だから一緒に学級委員をやることになった以上、相方の剣崎馨はまっとうに更生させて自分が屈服させてやる!

おいこら逃げるなこの社会不適合生物ギャル

逃げられたり避けられたりしていたのは嫌われていたからだと思ってたのに、私のこと好きってどういうことなの?

どうせ今時女子高生令和JKギャルに江戸脳の私は馬鹿にされているんだ!絶対に絶対に屈服させてやる!!

【オタギャル(剣崎馨)側の認識】

ウチは陰から推しの尊みを接種するだけで満足していたのに突然の過剰摂取で脳がバグる

そうだこれを機会にちゃんと真人間になろう!推しの委員長と普通のJKらしい付き合いをしよう!

あ、やっぱダメだわ推しに声かけられただけでアヘ顔晒すわ

(冷静になってから)ガチ恋勢とかキッショ。いやそもそも変態はダメだろ。もう限界無理ウチが推しを推す権利とかない引きこもろ……

推しが家庭訪問カチコミに来てガチギレ圧つよつよで死ぬもう変態でいい死にゅ

変態でいいや!!!

え?なんで委員長ウチの友達と仲良くしてんの?変態でいいって決めたし推しているだけでいいって思ったのになんでこんなに辛いの?ってか委員長そんな団地妻並みにチョロいなんて解釈違いすぎる

違う違う違う解釈違いだからって推しにウチの理想を押しつけるのも違うしでも理想の委員長が推しじゃなくなっていくのも辛い!けど傍にいたい!わけわかんねー!!

【実態=オタクと堅気の価値観と誤解】

実際のところ、馨ちゃんはオタクとしては(気持ち悪いけど)非常に理想的な態度と距離感を模索しており、推しである委員長を推したい。
推したいのであって好きとか恋とかそういうカテゴライズに入れられたくない。
入れられたくはないが、でも好きという気持ちは抑えられない。

委員長=柄本杏は一人の人間であり人権があり偶像や理想像を押しつけるのは良くないとは理解している。
理解してはいるけど気高く完璧だからこそ委員長が大好きになったのであって、その理想像を崩されると心が拒絶すパニくる。
委員長だって実は完璧じゃない、ウチと同じJKらしい弱さも持った人間なんだと理解しつつはある(でもどう折り合いをつけたらいいのかわからない)。

……何このオタクが推しに抱く面倒くさい気持ちをきちんとラブコメに落とし込んだリアルな心象?
絵面の破壊力、スピード感、台詞回しのセンスが凄まじいので普通に笑えるのに、そこにちゃんと我々オタクが抱きがちなジレンマと葛藤が描かれている。

※※※

一方で杏ちゃんは「自分は完璧」「完璧じゃなきゃだめ!」と思い込んで周囲を見下し、長じれば一つの些細な挫折であっという間に自滅するタイプ。
本人も無意識下ではそれを理解しているのか、だからこそ年齢が上がるにつれてどんどん同世代の子どもたちを見下す傾向が止まらない。

「自分は完璧」というアイデンティティの裏には「理解できないモノは理解できるようにしないと気が済まない」危うさが潜んでおり、それは同世代同性のクラスメイトの共通観念を理解できない自分は本当に完璧なの?
彼女たちに些細なことでも負けてしまったら自分は一体なんなの?
完璧じゃない私に価値なんてないなんて拗らせてしまっているわけで。

この二人、正反対で混ぜるな危険そもそも出逢うなの二人なのに、拗らせ方や一歩道を踏み外しただけで自己否定と自己嫌悪の奈落の底に落ちるのは一緒なのです。

そんな二人がドタバタラブコメを起こす様は、ありえないフィクションなのですが、その裏にオタクと優等生が抱きがちなリアルな拗らせがある。

私、こういうありえない設定の上に成り立ったリアリティある心理描写を鋭く抉った作品大好き!!!!!

【そもそも漫画が上手い】

緩急の付け方とか、顔芸で笑わせてくる画力とか、台詞回しとか、総合レベル高いんですよこの漫画。

4話の左下コマ。照れ照れしている馨ちゃんめっちゃかわよす
左下コマなので読者は次ページをめくることになる(電子媒体であったとしても)
しかして次ページの破壊力は……

※※※

いっ…椅子になりてぇ
推しの全質量を受け止めるだけの存在になりてぇ…!

お姉ちゃんダメだよ?椅子は税金納められないでしょ?

5話より

この剣崎家の会話は毎度キレッキレで、常識人の弟である透君が常識人であるが故に発言ツッコミするたび破壊力がものすごい。

※※※

コミックス表紙もご覧の通りいわゆる「片思いハート」で二人のヒロインのすれ違いを一発で表しています。
馨ちゃんはアヘ顔晒してハートマークと涎飛ばして見つめているのに、カメラ目線の杏ちゃんとかさぁ……。このイラストだけでこの漫画が如何なるものかを圧縮表現している。センスありすぎでしょ。

※※※

このX描き下ろしですらセンスが爆詰めで1ページ目ではこんなこと言っている推しの動画を幸せにへら顔で見ている馨ちゃんが

即落ち二コマで表情が曇って「違う違う委員長はこんなくっ殺女騎士メンタルじゃないでも委員長実は楽しいんじゃだったらウチの理想押しつけんのアカンしってかまこピとみぃたすウチの委員長そんな弄らないでいやウチの委員長じゃねぇくぁwせdrftgyふじこlp@」で闇堕ちしているし委員長は普通に堕ちているし……(オマケにメイクしているまこピやみぃたすは調子乗っているけど悪気は無いことはおそらく伝わっている)。

情報量多すぎだろ!曇らせ案件いいぞもっとやれ!!

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