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【CRYSTAR】 恵羽千についての考察

CRYSTARのキャラクター心理考察的な記事だと思います。

基本的に最終章突入までのネタバレを含むので、何年も前のゲームですが一応注意を。
今回はパーティーキャラの一人である恵羽千についての記事。

【恵羽千と幡田零について】

零は主人公だけあってか、このゲームで対になるキャラクターが多い。
考え方の対立、罪の象徴である妹のみらい。
見た目通りの半身、もう一人の妹の久遠。
そしてシナリオで手を取り合ったり刃を交えたりすることもある、カラー的にも対となる千である。

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だが千は存外芯の所では零にかなり似た性格をしているのではと、プレイしていて感じた。

千は「秩序やルールを遵守する」という正義を掲げてそれに恥じないよう気高く生きている王子様のような女子高生であり、引きこもりで弱虫で泣き虫な零とは一見して正反対なキャラクター造形がされている。
しかし一週目の時点で、千はもうその正義を土壇場で翻してしまっている。二週目三週目のシナリオではどんどんズタズタになっていき、最終章では前の周回での自身の言動と行動で酷く落ち込んでしまっている。

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おそらくこの二人は、自身の芯となる部分を決めたか決めていないか程度の差で、本質的には二人とも優柔不断な性格をしているのだと思う。
決断というものを千は幼くして秩序に委ねた。一方で零は決断そのものから逃げる傾向にある。
一見正反対に思えるが、どちらにしても「自分の意志で決断する」という行為から遠ざかろうとしていることに変わりはない。

ルールに従っていても許容できる範囲内で感情が動く分には、千は非常に強い。しかしそこから逸脱すると一気に精彩を欠いた挙動になってしまう。
この落差による危うさを恐らく千の母は心配していたのだろう。この点、元から弱いことを本人自身自覚している零の方がまだ安心しできる。
零の強さは、自分の弱さに向き合えることである。もっともこの長所ですら愚門愚塔攻略の時期には見失っていたのであるが。

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優柔不断であることは人間的には短所ではあるが、シナリオの動きを見ると決して悪い方向にばかり動いているわけではない。

千がアナムネシスの正体に感づいた時、即座に小衣に対してアクションを起こさなかったのは決断の先延ばしであるが、その結果は二週目では一時的に小衣からの心象は最悪になったものの、最終的には和解できている。
もっとも三週目での決断の先延ばしは、双子の悪魔脚本によるフィナーレを仕込む準備を与える隙となったため、やっぱり悪い方向にも働く。

これは零も同じであり「時間が解決するかもしれない」と判断した三週目の希望的観測はさきほど述べたようにむしろ最悪の事態に至ることとなった。
一方で幽鬼にトドメを刺せず見逃してしまった結果777が生まれて仲間となったプラスの一件もある。
必ずしも即断即決が常に正解とは限らない。そういう意味では、自己のエゴを自覚し貫かんとしているが、それでも説得で矛先を収められる小衣はさすがにパーティーの中の年長者である。

エンディングでは、双子の悪魔と契約した三人は最初に掲げたエゴを貫いた先でその望みを果たすことができなかった。
だが納得はしている。
「万物は流転する」とはこういうことなのだろう。決断力の低さは、変化を生じさせる隙でもあり余裕でもある。

【千のモチーフと零のモチーフ】

二人のモチーフは、千はライオン、零はユニコーンである。
このモチーフは二つとも共通している点がある。誇り高く、強いことである。

ライオンはそのうえで権力とその頂点を意味している場合もある。秩序を正義に据える千らしいシンボルだ。だが反転して、強権の傲慢さを意味することもある。
一方でユニコーンは純潔や清浄なども意味するが、手のつけられない獰猛さや純粋故の危うさも意味する。とくに浄化や癒しの意味は大きい。感情の暴走で妹を手にかけてしまい、死者の断末魔で涙を流して浄化する零のモチーフとして非常にしっくりくる。

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千はシナリオ中では幸い権力の傲慢さや、正義を笠に着て弱い者いじめをするというような振る舞いはしない。というか、そういう場面がないものの明らかにその手のルールを悪用する行為を嫌うタイプである。

本質的には人心や情を重視するからこそ、それに流されないために秩序に従うのが千なのだ。彼女の父は「それは神様の仕事」と述べていたように自覚はあったようだが、千はまだ自覚があったようには思えない。
この結果、用意されたルールにもてあそばれて喜劇のお人形と化すのが三週目の千だと言える。
三週目での千との戦いはそう見るとコロッセオの中に放り込まれたライオンとユニコーンの戦いであり、観客はローマ市民ならぬ双子の悪魔といったところである。

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ちなみにこの三週目での千は小衣戦では本気を出していたが、零戦では手を抜いていたと私は解釈している。
根拠は単純な話で、零戦での千はソクラテスを出しておらず、小衣戦ではしょっぱなから出している。ゲームのボスとして守護者を介入させるのが面倒くさかったというメタ的な理由が真相だとは思うが、千の心境を考えてみても納得いく。

小衣戦での千は母の仇という大義名分がある。千の描写からするに、彼女は最後まで小衣に悪感情を抱ききれていなかったようだが、みらいは巧妙に「生き残ったら相手をしてあげる」と言ったので、母親の仇を二人とも始末するために千は修羅と化した。
だが始末した後の手に残っているのは、友人とその家族を斬り捨てた血刀である。このうえとくに個人的な確執のない零を斬ってまで生き残る理由はない。

まぁ手を抜いていてもクリア後シレンでとくに危険度の高い相手は千だったのではあるが……。
プレイヤー時は役に立たない千の魔法が敵になると非常に恐ろしい性能になるというゲームあるある。

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