It's購買系10~12月:「サプライチェーンというもの」のモノ不足とインフレ
バイデン大統領の「サプライチェーンというもの」発言から始まり、パンデミック後のサプライチェーンの混乱がさらにクローズアップされたのが、2021年第4四半期(10月~12月)だったのでは思います。そこで、備忘録的な要素も含め、主だった事象を羅列したくといます(今後の材料に使えるかもしれません)。加えて、It’s購買系で10月~12月に投稿した調達購買トピックスの一覧も付します。
バイデン大統領が「サプライチェーンというもの」を定義する
サプライチェーンってそれほど一般認知された用語ではないのかと思い知らされたのが、10月13日のバイデン大統領ブリーフィングでした。大統領は次のように話し始めました。
バイデン大統領は、後半で港湾の24時間稼働などの対応策を発表し、民間協力を得た直轄のサプライチェーン・タスクフォースが行われました。そしてその結果は、12月23日に「多くの人が予測した危機は起こらなかった。荷物は動き、贈り物は配達され、棚も空になっていない。(And much — you know, the much-predicted crisis didn’t occur. Packages are moving. Gifts are being delivered. Shelves are not empty.)」との勝利宣言となりました。
大統領が「「サプライチェーン」というもの」と語るくらい、サプライチェーンに関する世間の認知度は無いのかと唖然とする面もあります。まあ、うまくいっていて当然で、あまり表立ってはいけないのかもしれません。それが今回は問題として表面化してしまいました。とはいえ、今回の「「サプライチェーン」というもの」などの大統領の発言は、将来どこかで引用できるのではと、ふと思います。
経営トップの関心が感染拡大から、サプライチェーンの混乱とインフレに
コンサルティング会社マッキンゼーが10月に行ったGlobal Surveyでは、今後12か月のリスク項目のトップ2は「サプライチェーンの混乱(回答者の40%強)」と「インフレ(回答者の3割半ば)」となり、「COVID-19パンデミック(2割半ば)」を越えました。マッキンゼーは「2021年の最初の3四半期とは打って変わって、COVID-19に対する不確実性は、もはや経営者にとって最も重要な経済的懸念事項ではなくなっている」としました。
オミクロン変異株感染拡大後の12月の調査結果ではCOVID-19パンデミックへのリスク懸念が増えましたが、依然サプライチェーンの混乱とインフレも高い回答数を保っています(上記レポートの図2を参照)。
一方で、日韓中の経営リスク調査結果を報じたのが、日本経済新聞です。1月14日の記事「日韓、供給網を不安視 中国は人手不足懸念」では、3国共に「新型コロナ禍の影響」が大きいものの、日本と韓国では「供給網の問題」と「原油、LNG、石炭などの価格上昇」が続いています。
傾向として、グローバルを調査範囲としたマッキンゼーの調査結果とほぼ一致するのが興味深く思えます。
現在は、急激なオミクロン変異株の感染拡大が国内で続いています。しかしパンデミックそのものから、パンデミックが引き起こした状況、すなわち「サプライチェーンの混乱」と「インフレ」への対応への対応に国内外で視線が向かっているようです。好む好まざるにかかわらず、購買調達部門が、しばらくはセンターステージに立たざるを得ない状況になっています。
モノが足りない:巧拙が大きな差を生みもした
国内外の企業マネジメントがリスクととらえる項目の1つが、サプライチェーンの混乱に基づくモノ不足にあることは、前述のとおりです。
日本企業でも、東南アジアサプライヤーの操業停止や半導体逼迫などの部材供給不足で、自動車産業をはじめとして、生産ラインの停止が10~12月も相次ぎました。最悪期を脱したとして挽回生産を図るも、突発的に数日停止する事態が、2022年1月でも継続しています。給湯器、温水便座やゲーム機・プリンターから、養殖水産品(冷凍エビなど)まで、さらには物流混乱の年末のマック・フライドポテトまで様々な品不足が発生しました。マッキンゼーは、このような事態を「平均的な企業は、今後10年間で年間利益の45%が吹っ飛ぶ」と推計します。
一方で、トヨタが、90年君臨したGMを抜いて、2021年米国新車販売市場でトップに立ったことが、年明けには報じられました。日本経済新聞の1月5日の記事では、ウォールストリートジャーナルの半導体の在庫を積み増すというトヨタの判断が寄与した」との報道を取り上げつつも、さらに「小まめな生産調整で影響を最小限に抑えた」との指摘もその要因として、「小まめな生産調整で影響を最小限に抑えた」との在庫確保だけではないことを匂わせる指摘をしていました。おそらくは、このあたりの対応力をどう強化するかが、2022年の課題になると思います(機会があれば、私も書きたく思います)。
モノ不足が解消に向かい...となると、巧拙はさらに明確化
一方で、モノ不足は解消に向かいつつあるとの記事が、年末の少し前から目につくようになりました。例えばISM PMI指数のサプライヤー納期指数(Supplier Deliveries Index)は低下してきています。
ということはどうなのでしょう、これは調達力の巧拙がより浮き彫りになりかねない状況になってきたのではないでしょうか。誰もが買えないときは言い逃れもできますが、うまくやっているところがでてくると、自社が買えない状況は責められます。生産ラインが止まり、それが売り上げにまで影響していると尚更です。その点で、2022年は個々の購買調達部門にとって難しくなるかもしれません。
インフレ:消費者物価指数(CPI)上昇幅は〇〇年ぶりで高止まり
昨年12月に発表された米消費者物価指数(CPI)は、前年比7.0%高と1982年6月以来39年半ぶりの上昇幅になりました。11月が6.8%高でしたので、さらに上昇幅が拡大しました。変動幅が大きい食品とエネルギーを除いても5.5%上昇と1991年2月以来の30年10か月ぶりの上昇幅でした。これが、米連邦準備理事会(FRB)の規制緩和縮小、政策金利引き上げの推進要因になっています。
OECD加盟38か国でも、昨年11月の消費者物価指数(CPI)は、前年比5.8%の上昇と1996年5月以来の上昇幅となりました(日本経済新聞「OECD、2021年11月の物価上昇率 25年ぶり高水準に(2022年1月12日))」。食品とエネルギーを除いても3.8%の上昇となっています。また、特に上昇幅が大きいエネルギーは前年比27.7%高となりました。12月はさらに上昇幅が大きくなることが想定されています。一方で、中国(OECD外)の経済鈍化による伸び率縮小はありますが、依然高止まりになっています。
円安も相まって、日本では企業物価の値が35年11か月ぶりの高水準に
エネルギーと食料を除く消費者物価指数(CPI)の伸び率が、主要先進7か国(G7)の中で唯一、前年比マイナスの日本ですが、円安もあり、国内企業物価指数の値の方は1985年12月以来35年11か月ぶりの高水準(108.7)になりました。上昇率も9.0%と比較可能な範囲(1981年1月以降)では最大となっています(読売新聞、産経新聞)。
他国が経済緩和に動く中、当面は緩和継続の日本は円安継続で、購買部門が担当する企業物価指数の高止まりは継続と思われます。それに対して、昨年の日刊工業新聞の記事「企業物価指数が40年ぶり高水準、投資マインド冷やす「原材料高」の行方(2021年12月15日)」などが出されています。
モノ不足と相まって「ここまでくると経営課題。購買部門だけが責められることはなくなった」との開き直り発言も耳にしますが、2021年第4四半期同様に悩ましい状況が継続しそうです。